侵入してみた
お姫様と元騎士団長がいるだけあり、秘密の通路からこっそりと移動中。モフルンダ城裏手には山があり、そこの洞窟が城と繋がっているらしい。洞窟には隠し扉があり、王族の証であるフェニックスの炎で入り口が開く仕掛けだ。王族や騎士団長等の限られた上層部しか知らない通路なんだとか。そもそも開閉できるのは王族だけだから見張りの兵士なんかもいないし、こんなに順調でいいのかなと思う。ちなみに、メンバーはフェル、フェリス様、シーザ君、ユージェニス殿、ガイウス殿だ。
以前より拙者自身の体力もついたので、足手まといになることも……無くはないがその場合ラビルビが乗せてくれるので、問題ない。体力つけよう、うん。頑張って歩いたら、フェルからも心配されておんぶするか聞かれた。悲しい。
ひたすら歩き続け、城内に侵入できたようだ。通路が洞窟から整備されたものに変わった。兵士はほぼ出払っているようでござるな。なんでそんなことがわかるかというと、毎度おなじみハッキングでござる。モフルンダ城は遺跡じゃないから完全な把握はできないけれど、なんか電線みたいのがあったから試しにハッキングしてみたら、城の監視カメラを見つけたってわけ。
「……大まかな構造は把握したでござるが……肝心の国王が見当たらぬでござるなぁ」
玉座の間にも執務室にもいない。いや、なんか偉そうな犬耳のおっさんが楽しげに座っている。
「あれは、宰相じゃな」
「曽根君、音もまわせる?」
【了解、音声システム・接続】
そんなわけで、玉座に座る宰相の独り言が丸聞こえとなったわけなのだが……予想通りだった。
「ふふふ、私が……私こそがこの国の王になるのだ……」
楽しげに独り言を言う男は明らかに正気ではない。そもそも、計画通りにいったなら、確実にモフルンダは滅亡していただろう。民のいない王なんて、意味がないのにね。
悔しげなフェリス様をフェルとガイウス殿が慰めている。宰相は後でなんとかしよう。それより、国王と真の魔王の剣を探さなくては。
「曽根君、もういいや。城内を探して。見つからなければ範囲を拡大」
【了解。探索開始………地下に生命反応多数確認】
「地下?」
【肯定。丁度ここの真下です】
【つまり、穴を開ければいいんだな?】
「ちょっ……!?」
止める間もなく安藤くんが穴を開けてしまった。安藤くん……後でおしおきでござる!変形できるようにしちゃる!
「なんだ!?」
「崩落か!??」
どうも自然災害と思われたっぽい。天井だからよじ登ってこれないし、これはチャーンス!!影からスカンクによく似たスキャナー軍団を出し、煙幕をぶん投げた。
「敵襲か!?」
気がついてももう遅い!風魔法の応用で空間の空気を密閉して、スキャナーの攻撃が炸裂した。そもそも地下だから通気口を塞ぐだけの簡単なお仕事です。
そして、スキャナーズがお尻を的に向け、ふさふさの尻尾を持ち上げる。スキャナーズに気がついた敵が、もはや人語ではない感じの叫び声をあげた。
スキャナーズのお尻から黄色い液が噴出され、ぷうぅどころか爆発したみたいな音がした。
スキャナーさん?爆音に驚いて下を確認すると、皆泡を吹いて倒れていた。敵がいないのを確認して下に降りる。拙者達は浄化の魔法を付与したマスクがあるから問題なし!しかし、臭さで獣人も人間も倒れるってどんな状況よ。ちょっとした好奇心でマスクをずらしたら、死にかけた。好奇心はタカを殺す……とか言ってる場合じゃねーわ!死ぬ!臭すぎて死ぬうううう!?声も発せず転がって悶え苦しむしかない。
臭さは酷いとガチで痛いのだと知った。確か獣人は人間より鼻が利く……そりゃ泡吹いて倒れるわなぁ。涙がこぼれちゃう。だって、オタクなんだもん(貴文は混乱している)
「なんというか……流石はご主人様ですね」
呆れたように呟くシーザ君。さりげなくハンカチで流れる拙者の涙と鼻水を拭き取ってくれた。ニオイ対策にと用意した消臭剤をシュッシュしてからマスクをずらすあたり、とても気が利く。
「下手に戦うど、犠牲者がでじゃうがらね」
「なんでまたマスクをずらしちゃったんですか」
「だって、どのぐらい臭いか知りたかったんだもーん」
そんな会話をしていて、ふと異変に気がついた。いつもこういう時にすぐ来てくれるフェルが来ない。フェリス殿も、ユージェニス殿も、ガイウス殿も、真っ直ぐに敵がいた方を見ていた。
「……呼んでる」
フラフラと奥に進もうとするフェル。普通ではない様子に、手をとって声をかけた。
「呼んでるって何が?」
「ずっと……この国に来てからずっと聞こえていたんです……」
「わらわの半身……」
「アタクシのハニー……」
「俺の相棒……」
そこで、フェル達に共通している事項に思い当たった。拙者たちが降り立ったのは通路で、まだ奥があるようだ。不安要素はあるが、進むことにした。
シーザ君が入ってないのは忘れたからではなく、条件に当てはまらないからです。




