全力で(過剰)防衛してみた
エド君視点になります。
うちの底抜けにお人好しな主から頼まれた仕事は、正直受け入れたくないものだった。盾の本質は『守り』である。大切なものを守ることこそが、盾の本質であり真価である。
防衛戦にはうってつけな盾の勇者だから、籠城している人達を守ってほしいと言われたのも理解している。底抜けなお人好しの主からの信頼であることも。
だが、俺は見ず知らずの誰かよりも、主を守りたかった。あまりにも過酷だった奴隷生活から救ってくれた主。初めてありのままの俺が必要だと認めてくれて、人間不信になりかけていた俺にもう一度信じることを教えてくれた。
目立ちたくないとか言いながら、誰かのためなら自重しないでド派手にやらかす。いつも自分より『誰か』のため。他人のためなのだ。
そんな主だからこそ、仕えたいし守りたいと思っているのに……今回一番危険であろう城への潜入班にはなれなかった。理由は、俺がこのミッションに適任だからで………。
「勇者様、敵が見えてまいりました!数は……およそ三万!!」
「勇者様……我らに付き合わせてしまい……申し訳ございません」
斥候からの連絡に、隣にいたモフルンダでも珍しい獣人の魔術師が項垂れた。特に返事はせず、まだ見えない軍勢がくる方向に視線を戻した。
三万、ね。普通なら絶望的な数値だが、今の俺には物足りないぐらいだ。
「わかった。片付けてくる」
物見やぐらから飛び降り、籠城している城門から少し離れた位置に立った。
「みううー!」
数匹のラウビウ達が魔法を展開し、巨大なからくり騎士達を地面に下ろしていく。
「スキル『盾の勇者のたて直し』!!」
盾がからくり騎士を飲み込み、防壁のようなものになる。もちろん、ただの防壁ではない。これらはすべて……
俺の『盾』だ!!
主がくれた時間で、俺はこのスキルを磨いた。そして、スキルを理解した。『盾の勇者のたて直し』には、いくつかの条件がある。己が危機に瀕した時か、守るものがある時に発動可能。このスキルには材料が必要で、その材料を消費して盾と成す。削れたり割れれば失われるが……逆に言えば、材料さえあれば無限に盾が作れる。そして、盾だから攻撃できないと思いきや、規格外の主が教えてくれた。
巨大な盾は、凶器になりえる。
普通に巨大な盾が落ちてきたら、危ないに決まっている。それも、トゲトゲしたやつなら、ダメージをくらうだろう。俺のストレス発散のため、犠牲になってもらおう。今回の作戦は、間違いなくこの布陣が最適解。理解している。理解していはいるが、ご主人様が危険な場所に行くなら……彼を守る盾でありたかった。そんなのはワガママだと理解している。理解しているが、彼は簡単に自分を犠牲にしかねない人だから……側でちゃんと見てやりたかった。要は、心配なのだ。
ただ、俺にできるのはそこまで。盾使いであるがゆえに攻撃方法に限りがある。盾も一度しか落とせない。防衛に長ける反面、火力は低い。悔しいが、アイリス達を待つしかない。そう考えていた俺に、声が聞こえた。
【条件を達成しました。聖男との絆値、特定条件をクリアしました。これより特殊スキル『盾の勇者の矛盾』が使用可能となります】
頭のなかにスキルの概要が流れてくる。それは、とてつもないスキルだった。それは、反転させるスキル。そして、俺がほしかったスキルだった。迷わずスキルを発動させた。
「くらえ!『盾の勇者の矛盾』!!」
そして、盾にれーざーほう?だったかがニョキニョキ生えてくる。盾から発射されたれーざー?に、敵が倒されていき、あっという間に無力化した。
盾の勇者の矛盾とは、防御力を攻撃力に反転させるスキルだ。その圧倒的な火力は、三万の兵士を瞬く間に倒した。ちなみに加減したので死者はいないはず。
「待たせたわね!加勢………ってナニコレ!?」
丁度いいタイミングでアイリス達が来てくれた。俺は満面の笑みで、アイリスに話しかけた。
「アイリス、後は頼んだ!!」
「頼んだ!?え、ちょっとぉ!?」
「アイリス、行かせてやれ。兄貴が心配なんだろ。エドさん、兄貴は頼んだぜ!!」
「任せろ!!」
アイリスは驚いたが、ゴルダが快諾してくれた。これで心置きなくご主人様のもとに行ける。
すでに仕事ができるラウビウ達が負傷者の治癒と捕縛をしている。みうみう言いながら三体だけ俺の方へ走って来た。
「みーう!」
盗賊の格好をしたラウビウが並走しながらでかくなった。
「乗れってことか?」
「みう!」
でかくなったラウビウに飛び乗ると、他二体も飛び乗ってきた。
「「みーうう!!」」
そして、でかくなったラウビウに支援魔法をかけたようだ。一気に加速する。これなら、きっとすべてが終わる前にたどり着ける!
「今すぐ行きますからね!ご主人様を守るのは、俺だ!!」
こうして、俺はご主人様の元へ駆けるのだった。
エド君は、貴文が危険な場所に行くのが心配なようです。




