本領を発揮できず、横入りされてみた
熊獣人でアイリスの恋人、ゴルダ視点になります。
冒険者としてそれなりに有名になった頃、武器に選ばれ勇者になった。自分より強いやつなんかいない。自分が一番強い。そう信じていた時期が、俺にはあった。勇者ゴルダは、それなりに有名だった。
そんな驕りを粉々に粉砕したのが、アイリスだ。強くて優しくて賢くて可愛い。そんな彼女を好きになるのに、時間はかからなかった。
アイリスは変わってる。強い者がハーレムを作るのは当たり前。魅力的な雌を奪い合うのも、モフルンダでは常識。それがおかしいと言う。アイリスの国では、一人を愛するのが当たり前。一人を愛し抜けないような男に興味はないと言ったアイリスを見て……俺はアイリスだけが欲しくなった。他なんていらない。アイリスを独占したいと願うようになった。だから、アイリスを師匠に会わせてフェロモンを抑える方法を教えてもらった。今までの俺なら考えなかっただろう。アイリスの魅力を隠してしまいたくなったのだ。
最初こそ相手にされなかったけど、つきまとい続けてようやく、アイリスがコイビトにしてくれた。コイビトはモフルンダにない概念だが、お試し期間みたいなものなのだと思う。アイリスは聖女でもあったから、俺とアイリスは最強だとまた驕った。
そんな俺を粉微塵にしてパンケーキかなんかにしちゃったのが、タカさん。アニキと心のなかで呼んでいる。
あの人は、マジすげえ。意味わかんねぇ。スゲー弱そうなのに、守らなきゃいけねぇと思う。意味わからないぐらい強いんだけど、頼りない子供みたい。だけど、ありえねぇぐらいに賢くて、先が読める。
「外を見てきな。強さにも色々あるんだ。バカなお前にも、いつかわかるだろ」
俺にそう言った師匠を思い出す。そうだな。わかったよ。もしアニキは非力だったとしても、その知恵で切り抜けられる人で、それもアニキの強さなんだ。強さは、腕っぷしだけじゃない。色んな強さがあると、ようやく知った。
「…………うおお……」
そんな感じで強さについて知った俺は、敵を守っている。
なぜかと言うと、ハッスルするすげえじいさんと、じいさんに張り合う師匠とドラゴンが競い合っていて、敵が死にそうだからだ。なんでこうなった。
アニキは本当にスゲーから、モフルンダ軍の動きを予測していた。完全に数で勝っているモフルンダ軍は、分断して同時に攻めてくると予見したのだ。アイリスは、一番敵が多いと思われる場所に行った。アイリスの魅了なら、戦わずに、殺さずに敵を無力化できるからだ。
俺とエドさんは、それぞれ籠城中の領地を守るよう言われた。正直、俺は殺すだけならなんとかなりそうだけど、殺さずに無力化するのは数も数だし難しいと思っていた。
そんな俺に、アニキは助っ人を用意してくれた。
助っ人として来たのは、エドさんのじいさんだ。元勇者らしいが、異常に強い。盾の勇者だけあって、守りに特化………しているはず、なのだが?
「じいさん!殺すなよ!?殺すなよ!?あっぶね!ちゃんと前見ろよ!師匠と張り合うのはいいけど……殺したらペナルティー付けるし、えっと、エドさんに言いつけるからな!?可愛いお孫さんにも言いつける!」
「ぐぬっ!?」
俺にしては頭を使った発言に(例えでもなんでもなく)敵を吹き飛ばしてたじいさんの動きが一瞬止まった。盾使いなのに、俺より敵を倒しまくってるって、ホントなんなの?エドさんも規格外だけど、このじいさんも規格外だよ!!
「ほほほほ!我がクソ弟子もたまにはいい仕事をするじゃないか」
師匠がこの隙を見逃すはずもなく、バカスカ敵を倒していく。師匠は見た目こそ若いが、それは幻獣人の中でも玄武族という長生きな種族だからだ。斧の勇者として、じいさんと競っていたらしい。たまたま運悪く客としてこの城にいた師匠がじいさんを見つけてしまい、よくわからんが張り合いだしてしまって今に至る。ドラゴンもやる気を出してしまったのだが、それなりに手加減しているのであちらは問題ない。
師匠は楽しげに敵を(例えでもなんでもなく)吹き飛ばしている。人が紙細工かなんかみたいだ。吹き飛ばすだけならいいが、このままだといくら敵が獣人で頑丈とはいえ死者がでちまうのは時間の問題だ。
「クソババア!アイリスに言いつけんぞ!?アイリスに嫌われてもいいのかよ!!」
「!?アイリスもおるのか!?クソ弟子がおるなら当然か!わらわの可愛いアイリスはいずこだ!?」
なんでか師匠はアイリスが大好きだ。とりあえず、師匠をどうにかしないと。くそ、俺は考えるのが苦手なのに!アニキ、俺に知恵をくれ……!!アニキなら、どうする!?
「……アイリスはこれから俺と合流する予定だ。見てわかるだろ。騎士達は操られてる。その洗脳を解除する手段と一緒にな。協力してくれたら、アイリスが喜ぶだろうな。そもそもアイリスはモフルンダが師匠の故郷だから今、戦ってんだよ」
「アイリス……!!」
アイリスは、懐にいれた存在に優しい。だから、戦うことを決意した。そんなアイリスだから好きなんだ。
「よくわからんが、わしはモーレツに感動している!わしらはどうすればいいんだ?」
「殺さずに、動けなくしてくれ。生きてさえいればどうにかなる。協力して、ください!!」
勢いよく頭を下げた。前の俺だったらありえない。だけど、今ならわかるんだ。プライドなんて、クソだ。今の俺には、それより大切なものがあるから。
「………変われば変わるもんだね……」
「は?」
「珍しく殊勝なクソ弟子に免じて『破砕の鮮血姫』リリーアン、参る!!」
「フン!元盾の勇者、守護神の力を見せてくれるわ!!」
こうして、やたらやる気な二人とドラゴンにより、騎士達は全員が戦闘不能になり、俺は二人がやり過ぎた騎士をひたすら治療する係として、アイリスが来るまで走り回るのだった。
ゴルダも地味に成長したみたいです。




