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地下牢を観察してみた

 カツン、カツンと音を鳴らしながら下りていく。店主は迷いなく進む。


「こちらは、まだ調教が済んでいない奴隷を置いております。気になる奴隷がおりましたら、わたくしに言ってくださいませ。もちろんわたくしでもいいですからね!」


「…店主殿は、何故奴隷になりたいのでござるか?」


「わたくしは奴隷でございました。以前の主はわたくしを可愛がってくださいまして、この二葉亭をわたくしに遺してくださいました。わたくしは奴隷でございましたから、奴隷が買われた先で辛くないようにしているのです。そして、理想のご主人様を探しているのです。わたくしが奴隷の人格を壊すのは、人から物になるのは辛いからです」


 壊してしまえば、辛くないから。そう微笑んだ店主。彼女は壊れているのだろう。


「た、助けてくれ!ぐぁぁ!!」


 牢屋には裸の男が鞭で打たれている。咄嗟に伸ばそうとした手を下ろされた。


「ソレは条件に合いません。わたくしの邪魔をするな。躾が足りないようね。よく躾をしておきなさい」


 鞭で打たれ続ける男の声に、耳を塞ぐ。彼女がすることと、これから拙者がしようとしている事は……大差がない。


「タカ、大丈夫か?」


「……平気、ではないでござるが、知るべきでござろう」


 怯えるな、前を向け。必死で自分を奮い立たせる。


「…ご、ご主人様!私を買ってください!」


 また全裸の男に声をかけられた。また男がひどい目にあわされるのでは…と反射的に固まる。しかも、今回はガッチリ服をつかまれている!いやぁん!尻が出る!


「!!」


 青年の瞳を見て、気がついた。ようやく強い意思の光を瞳に宿した人に出会えたのだ。青年は必死に拙者に買ってくださいと繰り返し訴える。金髪に青い瞳の、王子様みたいに綺麗な青年だった。彼は懸命に手を伸ばして拙者の服をつかみ、懇願している。


「お客様の許可なく話しかけるな!少しばかり出来が良かったから多少は目こぼしをしてやっていたが、お客様への無礼を這いつくばって詫びろ!」


「!!」


 店主殿が鞭で青年を叩こうとしたので結界で鞭を弾いた。ザックリとステータスを見たが、彼ならば問題ない。


「お客様…?」


「商品を傷つけるのは、店員としてどうなんだ?これを買う。いくらだ?」


 なるべく尊大に見えるようにふるまう。


「きゃあああああん!素敵!やっぱり、わたくしのご主人になってくださぁぁぁい!」


 こうかはばつぐんだ……じゃなかった。これ、話が進まないやつでござるなぁ。仕方ない。


「拙者の意思を汲めぬ奴隷など、不要。しばらく自室で書類仕事でもしていろ」


「はぁぁい!」


 変態に戻った店主は走り去った。なんか疲れたでござるよ。


「………見事な操縦ですね」


 支配人さんは嬉しそうだ。ヨカッタデスネー。


「あ、あはは…。それより、彼はいくらでござるか?」


「商談は上でいたしましょう。ここではごく稀にですが、アクシデントが「支配人!」


 傷だらけの青年が駆け込んできた。「魔獣が牢を破りました!は、早く避難を!」


「グルルルル……」


「クソッ!タカ、下がれ!」


 それは、とても綺麗なアフガンハウンドに似た生き物だった。サイズはまったく違ったが…綺麗でモフモフしている。


「ふおお……」


 アフガンハウンドもどきは、何故か腹を見せた。チラッ、チラッと拙者をみている。


「……きゅうん…………」


 なぜだろう。撫でて撫でてとやたら腹を見せる近所の柴犬が思い浮かんだ。真っ直ぐにアフガンハウンドの元へ向かう。


「よーしよし」


 なかなかのモフモフ。うちのラビルビに比べると毛が固いでござるなぁ。


「あふぅぅん!くぅん、くぅん!」


 なぜだろう。変態店主が頭をよぎった。この犬、喜びすぎでござるよ。


「…あ………ありえない。だからあの変態店主もなついたのか?あの気位が高い奴が腹を見せるだと!?」


 支配人さん、案外口が悪いでござるなぁ。


「よーしよし。おうちに帰るでござるよ。この子、ちょっとお散歩がしたかっただけみたいでござる」


「………ソウデスカ」


 アフガンハウンドもどきが嫌がるので、拙者もアフガンハウンドもどきがいたフロアまで付いていったのでござる。アフガンハウンドもどきがいたフロアは魔獣がたくさんいた。奴隷だけでなく、魔獣も売っているらしい。


「……みんなとっても人懐っこいでござるなぁ」


 檻にいる魔獣達は、とても人に慣れていて可愛い子達ばかりだったでござる。はぁ…変態ですり減った心が癒されるでござるよ。ちょっとゴワゴワしているから、ブラシをかけたいでござるな。


「………ありえない………」

「マジか…」

「店主といい、変なフェロモンでも出ているんじゃねぇか?」

「「それだ」」


「……いや、出てないでござるよ」


 そんなん聞いたことも見たことも……不安になってステータスを確認した。


【モフモフ好き】

モフモフを愛し、モフモフ愛を広めた者に贈られる称号。モフモフした魔獣の絆値が上がりやすくなり、なつかれる。


 変な称号が追加されていたでござる。でも、これ普通に嬉しいでござるなぁ。絆値なんてあるのでござるな?後で確認してみるでござるよ。

 アフガンハウンドもどきも戻したし、今度こそ上に行こうとしたら凄まじい咆哮が聞こえた。牢全体を揺るがすほどの咆哮は、一瞬攻撃と錯覚して装備していた自動結界が作動したほどでござる。

 支配人さん、シルヴァ殿とグレイ殿も耳をおさえて動けないようだ。


「グルォォォォ!!」


 拙者の目の前に現れたのは…白に茶が混じった毛並み。フカフカモフモフなボディ。黒くてつぶらな瞳。日本にでたまに見かける犬種、ポメラニアンにそっくりな生き物がいた。ただしその体は大きく…グリズリー並みでござるし、白い羽根も生えている。黒い爪も鋭そうでござる。


「ラッキー?」


 つい、近所で飼われていたポメラニアンの名前を呼んだ。我が家はマンションだったので、大好きだがペットは飼えなかった。たまたま近所のおじいさんと仲良くなって、そこんちのポメラニアンを借りて散歩していたのでござる。懐かしさと愛しさをこめて、その名を呼ぶ。


「きゅ~ん」


 おじいさんは拙者に『ラッキーは行方不明になった』と言ったが、ラッキーは死んでしまったのではないかと思う。この子はラッキーの生まれかわりでは?と思うほどに似ていた。尻尾を振りながら、拙者をみている。


「怪我をしているでござるか?」


 見れば、四肢に枷がはまっている。この程度なら簡単に解除できるでござるな。枷を外し、回復薬で治療した。支配人さんが離れた位置から何か言っているが…何かまずかったでござるか?


「もう大丈夫でござるよ」


「わん!」


【インシェントドラゴンはネームド『ラッキー』になりました】

【ラッキーはテイムされたがっています】


「…………ん?」


 ラッキーはインシェントドラゴンさんでござったか。テイムされたがっています?


「………一緒に来たいのでござるか?」


「わん!」


【ラッキーはテイムされました】


「えええええええ!??」


 拙者、まだテイムするって言ってないってか、ラビルビの時も来るか?うん!でテイムしてたでござるな!


 ほかの魔獣達が悲しげな鳴き声をあげる中、ラッキーは子犬サイズでご機嫌な様子だった。

 可愛いから……いい、かな?

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