静かにキレてみた
王子と従者はガイウス殿を説得するために回復薬持参で来たそうだ。もう治ってるから不要になったけど、これからを考えたら無駄にはならないだろう。お茶とお茶菓子を出しつつ、情報収集することにした。
「拙者としても、レジスタンスに助力したい……が、拙者の大切な仲間を危険にさらすわけにはいかぬ。他のメンバーについて聞いておきたいでござるよ」
「もちろんです!なんなりとお聞きください!」
いや、大丈夫なの?
自分で言っといてなんだけどさぁ、レジスタンスの情報くれちゃうの?それはアカンと思うよ?拙者、まだ手伝うって確約してない段階よ?教えてくれるなら聞いちゃうけどもー。
曽根君に指文字で合図した。今はまだ、フェリス様の存在を彼らに知られたくない。曽根君にしばらくこちらへ来ないよう伝えてもらおう。
レジスタンスは今でこそ王子がリーダーだが、三人の獣人が発足したものだった。先ず、魔術師フォルクス。王国が闇に呑まれると予見し、秘密裏に有事の際動かせる人員を確保した。それを宰相が援助していた。さらになんとか粛清を逃れた騎士団副団長ジャッカルとその部下達が加わって、今のレジスタンスとなっているそうな。
「……ふむ。して、勝算は?」
「ある、と言いたいですが………難しいでしょうね」
それでも、彼らは戦わねばならないのだろう。それがいかに絶望的な戦いであろうとも。王国軍とレジスタンスの兵力差は明らかだ。王国軍騎士十万に対し、レジスタンスの戦力は一万に満たない。仮に籠城している領主達が協力したとしても三万に届くかどうかというところだ。
まあ、分の悪い戦いだってことを隠さなかったのには好感が持てる。
「少し、時間をくだされ。拙者だけの意見ではなく、皆の意見も聞いておきたいのでござる」
「もちろんです。その……正直、無理なら無理でよいのです。これはこの国の問題ですから」
王子はそう言って笑った。悲しみと疲労が滲んだ笑みだった。
「いいんですか?帰しちゃって。いつものご主人様なら、止めたって頭からトラブルに突っ込んでいくのに」
エド君は拙者をなんだと思ってるんだろう。いや、聞いたら後悔しそうだからやめよう。
「いや、魔法陣から推測するに、レジスタンスの中に敵がいるでござろうからなぁ。あの二人はともかく、敵に手の内を明かすのは避けたいでござるよ。いずれは助力するが、今はまだその時ではないでござる。戦とは、戦う前から始まっているんだよ。拙者の世界では、戦で勝つは下策。戦わずして勝つことこそ最善策だと言った偉人がいるぐらいだ。今はまだ、情報と準備……裏工作が必要でござろうな」
「はあ!?なんでレジスタンスに敵がいるってわかったんです!?つーか、裏工作ぅ!?」
わりと簡単な推理だと思うんだけどなーと思いつつも説明した。
「そもそも、王を傀儡にできちゃったぐらいの敵が、レジスタンスなんか許すと思う?あの陣は、大量の死者が出てこそ真価を発揮する。そこを繋げれば、答えは簡単でござらぬか?」
「……それは、つまり……」
察しのいいシーザ君が呟く。拙者以外の皆は顔面蒼白だ。あ、ガイ君だけわかってないから全員ではないねぇ。
「つまり、レジスタンスは生贄。被害を拡大させるために自爆テロでもさせるんじゃない?大義のために命を預けてくれとか王子に言わせて士気を上げて、甚大な被害を効率的に出させるんじゃないかなー?」
「予想の斜め上出してきましたね!?」
「いやあ、あの陣とレジスタンスとの戦力差を見たら予測つくでしょ?とりあえず敵さんは慌てて陣を直しに来るだろうから、時間は稼げるだろうね。その間に準備を済ませておきたいかな」
ニッコリ笑ったらエド君が後退り、シーザ君とガイウス殿とガイ君の尻尾がぶわわっと膨らんだ。やだなあ、失礼だなぁ。
「怖い怖い怖い!ご主人様、あんたガチギレしてんのに笑うなよ!逆に怖いわ!!」
「仕方ないよ……敵は拙者の嫁(予定)を奴隷に落としたクソだよ?長い時間かけたであろう計画を木端微塵にしてあげなきゃ。念入りにね。エド君の苦労とも無関係じゃないしぃ。そもそも拙者と歩が召喚されたツケも払わせなきゃね?」
エド君が諦めた顔になった。何言っても今回は止まらないし自重もしないよーん。それが伝わったようだ。
「で、俺達は何をしたらいいんですかね?」
「とりあえず、洞察力があるシーザ君とガイウス殿はレジスタンスに潜入してね。誰が敵かを見つけて。ガイウス殿は副団長殿が呪われてないか探ってくだされ。シーザ君はちょっと外見いじって傭兵のフリしてね」
「はい!」
「はっ!!」
「ご主人様、俺は?」
「もちろん、拙者の片腕として働いてもらうよー。手持ちだけじゃ心もとないから、たっくさん交渉してもらわなきゃだしね!」
まだ狩りをしてる仲間も呼び戻さなきゃね!頑張っちゃうもんねー!!




