変態にからまれてみた
さて、そろそろ本日のメインイベントでござるな。
「グレイ殿、そろそろ…」
「ああ」
「ラビルビ、お留守番できるでござるか?」
「み!みゃお、みゃお~ん!(うん!ちゃんと、おしごとする!)」
「いや、仕事はしなくてもよいのでござるが…」
いやいや、せっかくやる気なのに水をさすのも無粋でござるな。
「期待しているでござるよ」
ラビルビは尻尾をフリフリして仕事にとりかかった。うちの子、可愛い上に働き者とか、完璧でござるな!
「どこにいくんだ?」
少しためらったでござるが、正直に告げた。
「奴隷を買うでござる」
人を売買するなど、外道だと思うでござるが……拙者が誰かとパーティを組むには、パーティメンバーのリスクが高すぎるのでござるよ。下手をすればおたずね者になりかねない。巻き込むわけにはいかぬでござる。
「……お前の事情を考えれば、至極妥当な選択だな。俺も行こう。俺も交渉事が得意ってわけじゃないが、口下手なグレイよりはまあ…マシだろ」
「かたじけない。心遣い、感謝するでござるよ」
グレイ殿、めっちゃ頷いていたでござる。
二人が連れてきてくれた建物は、やたらとゴージャスでござった。
「ここは、町一番の奴隷商館。店主はクセがある…が目は確かだ。午後で予約をした。少し早いが…行くぞ」
「よく予約できたな」
「…ああ。タカ、すまん」
「へ?」
首をかしげた瞬間、奴隷商館の扉が勢いよく開いた。グラマラスな美女が満面の笑みでお出迎えでござる。
「よぉぉこそいらっしゃいました!!わたくし、ここの店主、サマドゾフと申します!どうぞお気軽に『このマゾが!』と罵ってくださいませ!」
美女は残念ながら変態でござった。
「…………(別のとこじゃダメでござるか?)」
「…………(ここが町一番の奴隷商館じゃなきゃなぁ)」
「…………(耐えろ)」
瞬時にアイコンタクトが成立したでござるよ。実は拙者がテイムしたのはラビルビだけだからラウビウ達を統轄するためにラビルビを置いてきたでござるが…今猛烈にラビルビという癒しのモフモフが欲しいでござる!
「ああ…吸い込まれそうな漆黒の髪と瞳…人畜無害な見た目に反したとんでもない魔力……ハァハァ…わたくしのご主人様になっていただけませんか?ハァハァ……なんと蠱惑的な魔力……このわたくしが読みきれないだなんて………うへへへへ…しゅてきぃぃ………」
なんか怖いでござるぅぅぅ!!なんかハァハァしてるぅぅ!!アへ顔ってこういうの??逃げたいけど両頬ガッチリつかまれていて動けない!顔が近いぃぃ!!
「やめんか、このド変態が!」
「あぁん!」
変態店主をまともそうなお兄さんが蹴り飛ばしてくれたでござる!瞬時にグレイ殿の背中に退避する拙者。
「申し訳ありません。この変態は責任もって」
「ご主人様ぁ、この愚かな奴隷に罰を「…望み通り罰してやる!そこに転がっていろ、変態がぁぁ!!」
まともそうなお兄さんに縛られた変態店主はクネクネしているでござる。
「変態が失礼いたしました。わたくし、支配人のドエススキーと申します。どうぞこちらへ」
「は、はい……」
立派な部屋に通されたでござる。縛られた変態店主が踏んでくれと足元でクネクネしているので色々台無しでござる。超帰りたい。
シルヴァ殿とグレイ殿がヒソヒソ話しているのが聞こえた。
「あの女がああなるなんて…どうなってんだ?」
「…知らん。昨日は普通だった」
どうやらサマドゾフさんは普段と様子が違うらしい。
「……おい」
「………………(こくり)」
「あ!?いやああああん!ご主人様ああああ!!」
ムキムキなお兄さんが変態店主をどけてくれたでござるが…変態店主はピチピチして暴れている。
「申し訳ありません、お客様。変態は異常なまでにお客様に執着しております。ひとこと『この屑が!その汚い顔を二度と見せるな』と言っていただけませんか?」
支配人さん、目が本気でござる。これはひとことじゃないと思うとか、軽い口調で人に何を言わすんだとか、ツッコミするところじゃないでござるな?
「…ちゃんとお仕事ができない人は嫌でござる」
変態店主が縄を引きちぎった。さきほどまでハァハァしていた痴女っぽさが消え、デキるお姉さまっぽくなった。
「ここは、欲望渦巻く奴隷商館二葉亭。お客様、どういった奴隷をお望みで?」
「………冒険者として前衛が可能で、商人スキルを持つ者。種族、性別は不問」
「かしこまりました。ドエススキー、お客様の条件にあった奴隷を連れてきてくれまふぇ!?」
「……かしこまりました。最初から真面目に働けクソが」
流れるような自然な動作で支配人さんは店主殿に裏拳をかましたでござる!!
「ひいぃ………」
ラビルビを連れてくるべきでござったな……癒しが……モフモフが欲しい!!反応がないのでシルヴァ殿とグレイ殿を見たら、なんか死んだ魚みたいな瞳をしていた。
そして六人の男女がきた。
「………………………」
怖い。なんというか、意思を感じない。ホラー!?これホラー!??何人来ても、皆目がうつろで怖いでござるよぉぉ!!棒読みの自己紹介はヤメテぇぇ!!
「いかがですか?」
「チェンジ!」
確かに能力的にはすごい人達でござるが、皆目がうつろで怖い!チェンジを繰り返すと、変態ではなくなった店主が首をかしげた。
「ご主人様は何がご不満なのでしょう?ご主人様が提示した条件でしたら…一番のオススメはわたくしですが」
「……拙者、事情があって奴隷を求めているでござる。店主殿はダメでござる。拙者は…この国を追われる可能性もある。だから、パーティも組めぬのでござる」
「……承知しました。使い勝手のいい道具をお求めではない、ということですね。よろしければ、少し奴隷について説明いたしましょうか?」
「お願いするでござるよ」
奴隷とは、大きく分けて三種類。
犯罪奴隷。文字通り、何らかの罪を犯した者。能力は高いが、その反面言葉巧みに契約の隙間をついて所有者を死に追いやることも少なくない。
借金奴隷。多額の借金を返済できなくなった者。稀に家族などが奴隷解除を求める場合も。大概が善良な人間であるために、所有者に危害を加えることはないが能力は低いことが多い。
永年奴隷。主に捕まった亜人。命を省みず、所有者に歯向かうこともある。ただし、その能力はトップクラスであることも。
「奴隷は便利な道具でございます。反面、そのリスクもございます。それゆえ、わたくし共は奴隷の人格を徹底的に破壊いたします。だってわたくしは商人ですもの。扱うからには『不良品』をお売りするわけにはまいりません」
「…不良、品……」
「よろしければ、奴隷置き場を見てみますか?」
「………うん………」
艶然と微笑む店主の手を取った。拙者の手が震えていたことには、気がつかないフリをした。どこかで、拙者は甘く考えていたのだろう。店主は地下に向かう。地下への入り口は暗く、己の未来を示されたようで…怖かった。




