真実を知ったらしい
歩こと勇者ポーン視点であります。
敵をぶちのめしながらひたすら奥へ奥へと進んでいく。ようやく終点に着いたようだ。開けた場所に出た。
「なんだ貴様は「はい、コンニチワサヨウナラ、また今度」
お決まりの台詞を言おうとしたバカを殴って気絶させる。ゲームに出てきそうな怪しげな魔法陣。中央に設置された祭壇から、嫌な気配がする。四隅に設置された檻の中に、ドラゴンと人間が囚われていた。ぐったりしていて、ヤバい状態のようだ。魔力……いや、生命力が吸われているっぽい。
「譲葉!」
「はいでちゅ!ごちゅじんちゃま、魔力を斬るでちゅ!」
魔力?と思ったら、譲葉がサポートしてくれたらしく糸みたいなものが見えた。あれを斬るわけね。
「おお」
譲葉本体である懐刀が、長くなって太刀サイズになった。かなりありがたい。これなら斬りやすいな。
「マスター、斬る役目を私にもください!」
「却下」
さらにうだうだ言う光る鉄パイプを無視した。俺はお前を刀として使う気はない。それが嫌なら他の奴を探せよ。
そもそも俺は、剣道を習っていたが向かなかった。竹刀が軽すぎたし、もろすぎたから。貴文のじっちゃんに居合いを教わり、筋がいいからと二刀流の道場を紹介された。うちの流派は、片方が攻撃で片方が防御。両手での攻撃を余裕で受け流せる俺には、多分向いていた。
「はははははははははは!!」
敵を鉄パイプで殴り飛ばし、ひたすらに破壊する。檻を壊し、魔法陣から伸びる魔力の糸を斬り、祭壇もぶっ壊した。
「チーズドラ!ナマクリドラ!マッチャドラ!」
「ドラヤキ………」
エルシィサマはどんだけどら焼が食いたかったんだ。俺も食いたいから貴文に作ってもらおう。プリンどら焼がいいな。材料的に作れるだろう。楽しみだ。
魔法陣にいるだけで色々吸われるみたいなので、ドラゴンと捕まっていた人間達も魔法陣から出してやった。
「そこまでだ!武器を捨てろ!」
どうやら、タルトンと隊長さんが捕まってしまったらしい。まあ、二人は置き去りにしちまったし数で来られたら勝てないわな。適当に倒していたから倒しこぼしもいただろう。
「勇者様、すいません……」
「勇者様、我らにかまわずこやつらを……ぐっ!?」
「余計なこと言うんじゃねえ!武器を……スプラットゥン!??」
イカがインクで陣取りするゲームみたいな叫びをあげて吹き飛ぶバカ。お前が何かするより俺の方が速いっつーの。武器を捨てたら全員死ぬだろうが。マジでバカだね。人質は見せびらかすモンじゃねぇんだよ。そもそもこいつらは、あの国から寄越された生贄だ。最悪、俺の盾になって死ねと言われている。そもそも人質としての価値がないんだよ。まあ、寝覚めが悪いから極力見捨てないけど。
「勇者様…」
「勇者マンだ」
「……そこ、心底どうでもいいです」
ちょっとしたちゃめっ気だったんだが……やはり貴文みたいにはいかないな。
「ま、気にすんな」
それより、この魔法陣をどーにかしないとなぁ。
「勇者マン、兄弟のこれ、消せないか?」
「んあ?」
なんかぐったりしてると思ったら、首輪と……尻についた変な紋様が原因らしい。
「ごちゅじんちゃま、これでフキフキするでちゅ」
「おお」
拭いたら首輪が外れて紋様が消えた。面白いなぁ、コレ。普通の雑巾じゃねぇのか。とりあえず、ドラゴンと人間を綺麗にしてやった。これ、あのでかい魔法陣も消せるんじゃね?
「おるああああああああああああ!!」
見よ!道場で鍛えた高速雑巾がけだあああああ!!勢い余って敵にぶつかったが………問題なし!!しかし、この魔法陣デケーから、全部消すの、めんどくさいなぁ…。
「ごちゅじんちゃま、そのぞーきんにまりょくをこめるでちゅ!」
「こうか?」
やってみて、これヤバいやつだと思った。昔、缶しるこを温めようと石油ストーブ上に放置したら、缶が膨れてた時みたいな感覚だ。そもそも、俺は魔力が高いがまったくコントロールできねーんだった。使わないから忘れてたわ。無意識で身体強化はしてるらしいんだがなあ。
「ちゅ、ちゅうううう!?そんないっきにしたら!!」
あれだ。ちゅどーん的な感じになった。
幸いな事に、雑巾に縫われていたのは浄化だったので殺傷力は皆無だ。しかし、雑巾が破裂してしまった。貴文に後で謝らなきゃなあ。
「おお、でもあの変な魔法陣も綺麗さっぱり消えたぞ」
淀んだ気配も吹き飛び、まるで早朝の神社並みに清廉な空気へと変わっている。ついでに捕まってた人間も垢まみれだったのが綺麗になってる。結果オーライだな!
「勇者様、申し訳ありません!!僕、僕は……」
「申し訳ありません!私を捕まえてください!!」
「申し訳ありません!私はなんてことを」
「この罪をどう償ったら………」
「は?」
敵味方問わず謝罪しだした。何この謝罪選手権。どゆこと??
「ごちゅじんちゃまがちゅどーんさちぇたけっか、みんなじょうかされまちた」
譲葉が説明してくれた。つまり、俺のせいか。とりあえず敵を捕縛した。なんか懺悔してて気持ち悪い。あれ?なんか忘れているような??
「貴様ら、よくもやってくれたな!!」
そうだ、ドラヤキの親父を装って暴れているドラゴン。そいつを操っているらしいジャラジャラした服を着た男が、隠し部屋でもあったのか壁だったはずの場所から出てきた。
忘れていたので、出てきてくれて良かった。
「我らが偉大な真の魔王様の器候補として召喚されたからと目こぼししてやれば、つけあがりおって………!祭壇を破壊したこと、万死に値する!!」
コイツイマ、ナンテイッタ?
ああ、目の前が赤に染まる。ずっと抑え続けていた、その鮮やかな赤に……怒りに、俺は身を委ねた。




