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プロローグ

「ごめんなさい…タカさん…ごめんなさい……」


 ひたすら謝罪し、泣きじゃくる優しき新人騎士さん。


「…本当に、すまない」


 沈痛な面持ちのベテラン騎士さん。


「…いや、命令だから仕方ないでござるよ」


 そして、す巻きになっている拙者。馬車に揺られてドナドナされてる拙者。馬車は森に向かっている。

 何故このようなことになったか思い出してみよう。


 拙者の名前は小田郡(おたく)貴文(たかふみ)。どこにでもいるしがない大学一年生でござるよ。いつものように腐れ縁で幼馴染の七瀬(ななせ)(あゆむ)とゲームの話をしながら大学に向かっていたら、突然歩の足元に魔法陣が現れたのでござる。


「た、貴文!」


 拙者、とっさに伸ばされた歩の手を取ったでござる。歩の両足は膝まで魔法陣に沈んでいて、必死に引っ張ったのでござるが………



「あぁぁぁれぇぇぇぇ!!」

「ぎゃあああああああ!!」



 所詮は非力なオタク…同人誌(おたから)運搬時には驚異の筋力を発揮する拙者でござるが、幼馴染を持ち上げるのには萌え力が足りなかったのでござろう。歩を持ち上げられず、歩と共に洗濯機で回る洗濯物のごとく回転しながら落ちていったのであった。


 そして、次に目を覚ましたら……そこは地下室のようでござった。歩は拙者のすぐそばに倒れていた。すぐ歩に駆け寄る拙者。


「大丈夫でござるか!?」


「ん……」


 どうやら外傷もないようでござるな。気を失っていただけのようだ。


「やった!召喚成功だ!!」


 改めて周囲を見回してみる。薄暗い窓のない部屋。地下室なのだろうか。空気がよどんでいる。拙者達の足元に魔法陣。多分歩を飲み込んだのと同じものだろう。そして、拙者達を取り囲む魔法使いみたいなローブを着た人たち。その後ろにはRPGの王様みたいな格好のおじさんとお姫様みたいなドレスの女性がいた。




 異世界召喚、来タタタタタタタタァァ!!




「しかし、勇者が、二人?」


「そんなの、聞いたことがないぞ」


 ざわつく魔法使いみたいなローブ軍団。王様みたいな格好のおじさんがまっすぐに拙者らを見て言った。


「異界の勇者達よ、どうか我が国を救ってくれないか」



 勇者召喚、来タタタタタタタタ!!




「断る」


 興奮する拙者とは逆に、歩は冷静…ではなくキレかけていた。プッツンカウントダウン状態だ。これはヤバババババぁぁい!!


「俺は………俺は帰ったらこいつにプリンを作ってもらう予定だったんだ。それを阻むやつは…滅する!!」


 歩が一歩踏み出すと、床が粉々になった。どうやら歩は身体強化系のチートがあるらしい。元から強かったが、流石に床を粉々にしたりはできなかったはず!


「あゆ……待たれよ、ポーン=セブンス殿!」


「……何で止める?」


 ちなみにポーン=セブンスは歩=将棋の歩=チェスのポーンから。セブンスは七瀬だから。ネトゲなんかのハンネとして使っていたでござる。魔法が存在する世界で本名を伏せるのはセオリーでござるな!拙者もハンネのタカ=レイターを名乗ることに。名前を分断して文をレターからレイターにしただけ。でも気に入ってるのだ。


「潰すのは話を聞いてからでもできるでござるよ」


「……………ふむ」


 結局、勇者は予想通り歩でござった。拙者は巻き込まれただけのオタクでござった。なんでわかったかって?なんか職業を調べる水晶があったのだよ。そしたら、職業はオタクだった。納得いかねぇでござるよ!オタクは職業ってか、称号じゃないの!?オタクは海外では極めし者って言われてるんだよ!用法がおかしいでござるよ!!


 オタクは未知の職業なんだそうで、色々色々試してみたでござる。結果、戦闘には不向きな完全生産職であることが発覚。そこから、拙者は地味に冷遇されていた。この世界では、力がすべて。魔法も全属性もちだが低ランクまでしか使えない。特定の条件下以外では運動神経もよくない拙者は勇者のお荷物でござる。


「じゃあ、行ってくるわ」


「ああ、行ってらっしゃい。気をつけて」


 最初こそ歩と討伐に行っていたが、明らかに拙者はお荷物であった。生産特化だとわかってからは、ひたすらに歩の生存率を上げるアイテム・装備を作って作って作って作りまくった。そしていざという時のため、情報を集めた。

 城の優しい人と仲良くなり、経理の書類を手伝う代わりに物価や相場を学び、実際に町に出て素材を仕入れたりもした。


 今日、歩はかなり遠出してドラゴンを狩りに行く。国の辺境に行かねばならず、数ヵ月もかかるらしい。想定できる限り、装備もアイテムも揃えた。だから、きっと歩は大丈夫。


「戻ったら、ご褒美プリンな」


「生クリームのせでござるな」


 この約束が叶わないなんて、思ってもみなかったでござるよ。



「貴方、目障りなのよ!」


「………………」


 この国の王女殿下、控えめに言っても性格が悪い。歩はなんとなくそういうのがわかるので避けられているのだ。歩はとてつもなく見目がよい。しかし、中身はかなり残念な部類である。だからこそ拙者と長年友人だったのだ。

 歩は拙者をイジメから守り、拙者は周囲の考えを読み取って歩に伝え、歩が周囲と上手くやっていけるよう調整する。拙者達は、ずっとそうやってきたのだ。


「なんとか言いなさいよ!」


「特に言いたいことはございません」


 拙者は歩に完璧なプリンを作らねばならぬのだから。歩の好みは硬め甘さ控えめプリン。こちらの素材は味が濃いからもう少し調整したい。


「こんな菓子でポーン様を釣って!」


 馬鹿女のせいで、作りかけのプリンが床に散らばった。命がけで戦う友人のために作ったプリン。今までの嫌がらせによる怒りも蓄積しており、気がついたらぶちギレていた。


「菓子で釣ってるんじゃねぇよ!命がけで戦ってる幼馴染みに、せめて少しでも旨いもん食ってもらいたいだけだ!そもそもお前が相手にされないのは、性格が悪すぎるからだよ!!バァァァカ!!」






 ヤッチマッタナァァァァ!!






 幸い、斬り捨て御免にはならなかったでござるが……一国の王女に対してとんでもない暴言を吐いたってことで、す巻きで森に捨てられることになったなう。

 でもさ、武器ナシす巻きで森にポイって、逝ってこいですよね!実質処刑だよね!!


 こうして小田郡貴文の異世界生活は、強制チュートリアルスキップからのハードモードスタートとなったのでござる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 七瀬が帰って来た時、オタクが居ないことをこの王女は、どの様な嘘で取り繕うのかな?
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