51話 横山さきはクラスメイトが信じられない
- 横山さき 視点 -
「桜井くん、手伝おうか」
あやちゃんと一緒に居た、貧弱な魔法使いがクラスメイトの高月くんと気づいたのは、少ししてからだった。
私――横山さきは『聖騎士』スキルを持っている。
聖剣を扱い、光の闘気を纒った身体は、弱い魔物は傷一つつけられない。
その力で、私は光の勇者の副官として活躍している。
そして、私のもう一つのスキル――『マナ視の魔眼』。
マナという、この世界の力の源を私は視ることができる。
そのおかげで、これまでの数々の危機を乗り切ってきた。
弱いふりをしている魔物や、一般人のふりをした暗殺者。
みんな、姿は騙せても、魔力は隠せない。
その私が見ると。
高月くんは――弱い。
昔、神殿で見たときから、まったく強くなっていない気がする。
その辺にいる一般人以下の魔力。
きっと、修行だってサボっていたに違いない。
高校の時も、勉強をせずにいつもゲームばっかりしてたし。
りょうすけは、異世界で凄いチカラを持ってしまったがゆえに、大変な目にあっているのに。
何の努力もせずに、遊んでいたやつが何を手伝うって言うの!
私は、若干腹を立てながら彼に言った。
「高月くん、あなたに手伝って貰うことなんて……」
「何か良い手がある?」
私の台詞をさえぎって、りょうすけが高月くんへ質問する。
え?
まさか、彼を頼るの?
「ちょっとね。やってみないとわからないけど」
「僕らはもう打つ手がないんだ。お願いするよ」
えぇ……、無駄だよ、きっと。
あ、でも高月くんの仲間の赤毛の魔法使いの女の子に頼むのかしら。
彼女の魔力は、凄まじい。
王国の魔法使いでも、見ないレベルの魔力だ。
「じゃあ、ルーシーとニナさんは待ってて。さーさんは、案内お願いしていい?」
「了解ー」
どうやら、一緒に来るのはあやちゃんだけらしい。
予想が外れた。
「大丈夫ですカ? 高月さま」
「気をつけてよ、まこと」
仲間の二人は心配そうだ。
そりゃそうだろう。
彼は弱いんだし。
「そんな無茶しないって」
高月くんは、気楽に言っている
敵の恐ろしさが、わかってないんだ。
忌竜の姿を見ると、きっと腰を抜かすわよ?
向かうのは、りょうすけ、私、あやちゃん、高月くんの4人。
そもそも、高月くんとあやちゃんって飛行魔法使えるの?
◇
高月くんは案の定、飛行魔法は使えなかった。
その代わり、水面を移動する変な魔法を使っていた。
飛行魔法なんて、中級魔法使いなら誰でも使えるのに。
「わー、シーサペントよりはやーい」
あやちゃんは、はしゃいでいる。
ちょっと、楽しそうだ。
◇
「ここであってる? さーさん」
「うん、ここから先が下層よ。絶対に、この奥には行くなって言われてたわ」
あやちゃんと高月くんが話している。
それにしても、あやちゃんって随分ダンジョンに詳しいみたい。
冒険者でもやってるのかな?
私たちが立っているのは、地底湖の端にある小さな小島。
小島の少し先の湖の底に、水没した巨大な洞窟が見える。
中層は、光石が壁を照らし幻想的な雰囲気があるが、洞窟はただの暗闇だ。
「この水没した洞窟の先に、忌竜が居るんだ。だけど、団員たちが水中の戦いは不慣れで……」
りょうすけは、無念そうに説明する。
でも、みんな頑張ってた。
新人騎士ばかりのうちの団にしては。
悪いのは、支援を邪魔する王子派や、ちっとも手伝わない大賢者とかいうやつだ。
おかげで、高月くんみたいな魔法使い見習いを頼る羽目に……。
「で、なんとかなりそう?」
りょうすけ、期待しても無理だと思うよ……。
「例えばだけど、忌竜が水中じゃなくて、ダンジョンの外に出せれば戦い易いかな?」
「そんなこと、出来るのか!? ダンジョンの外なら、『光の勇者』スキルがフルに使える。太陽の光があれば、絶対に勝てるよ」
「よし、じゃあ敵を水中から引きずり出そう」
高月くんは、気楽に言ってくれる。
(出来るわけないじゃない……)
「ちょっと、待ってて。精霊に声かけるから。このへんはいっぱいいるみたいだ」
「高月くんは、精霊が見えてるのか……凄いな」
精霊が見える?
マナ視の魔眼スキルを持ってる私が見えないのに?
適当なことばっかり言って!
素直なりょうすけは、信じているみたいだけど。
大体、精霊使いなんてハイランド王国でも、見たことないわよ。
「おーい、精霊さん。元気?」
なんだ、あれ。
あんなので精霊が助けてくれるなんて言うの?
「ああ、ちょっと、相手は大変なんだけどさ……うん、困ってるんだ」
(大変なのはこっちよ)
「ありがとう、助かるよ」
(はぁ、いつまでこの意味の無い会話が……)
「じゃ、よろしく」
高月くんが、そう言った直後。
――世界が傾いた。
そんな錯覚をした。
「!?」
大迷宮全体が震えてる。
そんなことがあるはずないのに。
息ができない。
なに? 何が起きてるの?
「さきちゃん、どうしたの?」
あやちゃんが、声をかけてくれるが私はパニックだった。
目の前が真っ白になり、何も見えない。
それが全て魔力だと気づいた時、背筋が凍った。
(何これ!? 全部マナ? ヤバイ、まったくコントロールされてない! 暴走してる!)
「……凄まじいね。これが精霊の力?」
りょうすけもこの狂ったような魔力を感じてるでしょ!
早く止めなきゃ!
「うん、ここまでたくさんの精霊に来てもらったのは初めてだけど」
相変わらず高月くんは、微弱な魔力のまま。
吹き荒れる台風のような魔力の中心にいた。
曲がりなりにも魔法使いなら、この魔力に圧倒されないはずないのに!
(高月くんの周りだけ、魔力が静かになっている?)
まるで台風の目みたいに。
彼がこの世界の中心だと、言わんばかりに。
「じゃあ、魔法使うよ。コントロールが難しいから離れてて」
何言ってるの!?
こんな魔力をコントロールなんて、人間にできるわけないじゃない!
「さき。高月くんに任せよう」
りょうすけのその目は、『期待と信頼』だった。
なんで!?
そんな目、誰にも見せたことない。
「私は?」
「んー、さーさんも桜井くんの近くに居て」
「えぇー、高月くんの魔法近くで見たいなぁ」
何言ってるの!?
あやちゃん、そいつから離れて!
私たち3人は、高月くんから離れて、彼を見守った。
「じゃあ、頼むよ、精霊さん。水魔法、ヤマタノオロチ」
――その瞬間、怪物が生まれた。











