385話 魔王と紅蓮の魔女
「おい! 娘が成人したら魔界に連れてくるという約束はどうなったんだ!」
魔界の魔王、炎帝ゼパルさんの怒声が響く。
「うるさいわねー! ルーシーなんてまだまだひよっ子なんだから、成人じゃないでしょ」
怒鳴られているのは紅蓮の魔女ロザリーさん。
さきほどライダーキックのような華麗な飛び蹴りで俺と魔王の戦いに横槍をいれた張本人だ。
一応、ロザリーさん的にはオレを助けようとしてくれたらしい。
ちなみに、俺と魔王の戦いは有耶無耶で終わってしまった。
「15歳が地上のエルフ族の成人だと言ったのはおまえだぞ!」
「えー、別に2年や3年過ぎたって大して変わらないでしょ」
魔王が怒鳴り、紅蓮の魔女は面倒くさそうにそっぽを向いている。
ちなみに二人はルーシーの父親と母親なわけで。
つまりこれは、犬も食わぬ夫婦喧嘩だ。
「そもそも何度も地上に念話魔法を送っているのに、毎回無視するのはどういう了見だ! 年に一度は娘の様子を報告する約束だっただろう!」
「えー、だってそもそも私が1年に1回もルーシーと会ってないし」
「なん……だと……」
魔王の表情が驚愕に歪む。
うんうん、紅蓮の魔女さんは放任主義だからね。
俺がルーシーと出会った時から、すでに母親とは何年も会ってないって言ってたし。
こっちの世界だとそれが一般的なのかと思っていたけど、どうやら普通に非常識らしかった。
魔王ですら娘を放置して世界中を飛び回っているロザリーさんに怒りを顕にしている。
「…………」
ルーシーがその様子を複雑な表情で眺めていた。
「るーちゃん、二人に声かけたら……?」
さーさんが背中をつついている。
まぁ、誰かが仲裁しないと終わらなそうだ。
「えぇー……私が? うーん……」
ルーシーが仕方ないかー、でもなーと少し及び腰になっている。
まぁ、父親のほうは初対面だしな。
しかたない、ここは俺が仲裁を……、と思っていると。
「ゼパルよ。夫婦喧嘩も大事だが他に話す者がいるのではないか?」
先に仲裁をしてくれた人がいた。
古竜の王である。
なんという常識を持った魔王。
「ぬ……アシュタロト……そうだな」
魔王が周囲の目に気づいたようで、冷静さを取り戻したようだ。
一方、興奮が変わっていないのはロザリーさんである。
「ああ!? 部外者はすっこんでなさいよ!」
古竜の王を睨みつけ、怒鳴っている。
ガラが悪いなぁ。
古竜の王を怒らせるといかな紅蓮の魔女さんとはいえただでは済まないはずだけど……。
「…………」
古竜の王が困った顔でこっちを見た。
それを見たルーシーが慌てて動く。
シュイン! と空間転移でロザリーさんの隣へ移動した。
「ママー! ちょっと、黙ろうかー」
と言ってロザリーさんを引っ張っていく。
「ちょっと、ルーシー! なんで私が黙らないといけないのよ! 私は悪くない!」
と言いながらも大人しくルーシーに引っ張られているあたり、実は申し訳なく思っているのかもしれない。
さっきの炎帝さんの話からすると、ロザリーさんに非がありそうだったし。
約束は守らないとね。
「…………」
そんなことを考えていると、魔界の魔王ゼパルさんが真正面に来ていた。
「えっと……」
俺が口を開こうとした時。
「先ほどは失礼いたしました。私は魔界・19階層を治めるゼパル・パイロクラフト大公爵と申します。お見知りおきを、高月マコト殿」
優雅に一礼された。
(えっ……いまさら?)
一応、さっきまで戦っていたはずでは?
「マコトよ。こういうときは自分も名乗るものだ」
古竜の王に促された。
魔王がマナー講師みたいになってる。
しかし、助かる。
「高月マコトです。よろし……」
「違うぞ、それは正しくない」
途中でアシュタロトに注意された。
「なんで?」
「お主は女神ノア様の眷属だろう? なぜそれを言わない」
とのことだった。
(そうか……最初からそういえばよかったわけか)
ノア様の威光を笠にしてしまうようで少し憚られるが、少なくとも無用な争いを避けられただろう。
「女神ノア様の眷属にして使徒をやってます高月マコトです。よろしくお願いします」
「……知らぬこととはいえ、女神ノア様の使徒に刃を向けてしまったことはお詫びいたします。謝罪の証として、私の部下から貴方へ配下の者を献上したいところですが…………」
ここで炎帝が言葉に詰まった。
なんだ? と不思議に思っていると。
何人かの魔族が炎帝の後ろに空間転移で現れた。
「ゼパル様! 女神ノア様の使徒様への貢納であれば私をご指名ください!」
「炎帝様! 私も覚悟はできております! この身を使徒様へ捧げます!」
「どのような扱いも厭いません! 高月マコト様! 私の身体を好きにお使いください!」
現れたのは見目麗しい魔族の女性の皆さんだった。
外見年齢は人族でいう十代前半~後半くらいに見える。
全員、下着……とまではいかないがかなり露出の多い服装をしている。
明鏡止水スキルを使っていなければ、動揺していただろう。
(配下の者を献上ってそういう……)
なんか嫌だなぁ。
ちらっとルーシーたちのほうを見る。
当然ながらルーシーとさーさんはメチャクチャ嫌そうな顔をしていた。
ルーシーの複雑そうな表情と。
(え? 高月くん、まさかその子たちに手を出さないよね?)
口にしなくても、さーさんの言葉が目から伝わってきた。
怖い。
「ちょっとー! 娘の彼氏に女を送るとか、何考えてるのよーー!!」
と怒鳴るロザリーさん。
でも、今回はロザリーさんの意見が正しい。
ついでにいうと炎帝さんも困った表情をしているので、きっと想定外だったのだろう。
女神ノア様の使徒がまさか娘の恋人とは思わなかったようだ。
「何を困るのだ? もらっておけばよいだろう?」
不思議そうにしているのは古竜の王。
この辺は一般人の俺と魔王の感覚の違いか。
(さて……どう返事をしようか)
少し悩んだ末。
「俺にはルーシーがいますから、他の女性は必要ないですよ。これからよろしくお願いしますね」
と答えた。
名乗り出ていた魔族の女性たちはがっかりした表情だったが、炎帝さんはホッとした表情だったのできっとこれが『正しい対応』だったのだろう。
その後、俺たちは水の国の王城へ帰ろうとしたのだが、
「せめて饗しをさせてほしい!」
という炎帝さんの言葉で、彼らの乗ってきた魔法船の中で宴が開催された。
ソフィア王女には、念話で状況を伝えた。
「こっちにくる?」
と聞いたが、「魔界の魔王の船に乗り込むのはちょっと……」と遠慮された。
ちなみに宴会は紅蓮の魔女さんは勿論、古竜の王も参加した。
「今回は色々と失敗した……。世話になったな、アシュタロト」
「貴様らしくもないな、ゼパル」
先の会話の様子からわかっていたが、炎帝と古竜の王は旧知らしい。
アシュタロトは顔が広いな。
炎帝とルーシーは、改めて挨拶をしていた。
「えっと……お父さん?」
「うむ…………大きくなったな……」
ルーシーは緊張していたが、炎帝さんはもっと緊張していた。
微笑ましい。
「ねーねー、彼氏くんとルーシーはいつ式を挙げるの? 私,呼んでよー」
ロザリーさんは酔っ払っていた。
自由だな、この人は。
「呼びたいので、連絡がつくようにしてくださいね」
毎回、こっちが会いたい時にはみつからないのがロザリーさんだ。
「そうだ! おまえは音信不通になりすぎだ!」
「私だって色々と忙しいのよー!」
また夫婦喧嘩がはじまった。
それをルーシーが仲裁している。
騒がしくはあったが、ルーシーは楽しそうだった。
であれば、きっといい時間だったのだろう。
そう思うことにした。
新作始めました!!
ドSな虐めっ子が僕の『ペット』になった件
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----------あらすじ----------
僕――佐々木シロウは、陰キャで虐げられて過ごした小中学校時代から変わりたかった。
必死で勉強して地元から遠い、知り合いのいない高校で華麗にデビューを果たす…………はずだった。
「あら、佐々木? 同じ高校だったのね」
僕を虐めていた主犯『如月リカ』がまさかの同じ高校だった。
(終わった……僕の高校生活)
と絶望していたのだが、なぜか彼女は僕を虐めてこない。
どころかやけに優しい。
カフェだとコーヒーを奢ってくれるし、僕が授業を休んだらノートまで取ってくれる。
…………なぜだ?
さらに清楚なお嬢様の『水無月マイ』さんにまで絡まれるようになり…………。
いったい、僕の高校生活に何が起こってるんだ!?
--------あらすじここまで--------
今回は初の『魔法が出てこない』現代日本の話です!
よかったら読んでください。
ちなみに信者ゼロとの関連性が少しあるので、気が向いたら探してみてください。
-------ここから信者ゼロ13巻の話-------
気がつくと2年ぶりの信者ゼロの新刊でした。
色々と忘れられていないか不安です……。
そこで13巻の見どころを少しご紹介。
<見どころ:その1>
千年前編の描き下ろしエピソード3つ!
新しいアンナさんの話がありますよ。
あと、個人的に今回のヒロインは『カイン』です。
あいつは本当にいいキャラだった……。
<見どころ:その2>
月の女神ナイア様が登場します。
いやー、登場が遅くなったのが惜しいくらいの素晴らしいデザインですね。
明らかに一人だけ世界観が違う。
最後に次の更新について。
毎月20日の更新の予定だったんですが、5月8日にゼロ剣のコミック4巻が出るので更新します。
オーバーラップさんの発売日が最近、変わっちゃったんですよね……。
前は毎月25日に発売だったので、更新もシンプルで済んだのですが。
今後は、変則的になりそうです。
それでは今後も信者ゼロや攻撃力ゼロ、新作もよろしくお願いします!!
大崎アイルのエックス
https://x.com/Isle_Osaki











