379話 氷の女王
「我ら北極大陸に住まう魔族一同は、自由と美の女神ノア様の信者となります」
城内をうろうろしていた俺に対して、氷の女王様は突然そんなことを言ってきた。
「急にどうされたんですか?」
「竜王さまに立ち話も失礼ですから、どうぞこちらへ」
と案内をされた。
美しい意匠の長い廊下を歩く。
ついていくと大きな扉に入っていった。
「どうぞ、入ってください。私の部屋です」
部屋の中から呼ばれた。
「は、はぁ……」
女王様の部屋に招待された!
なぜ?
(あらあら☆ エッチなイベントかしら、マコくん)
(同級生の母親と……。マコトってばいつからそんないやらしい子になったの!)
水の女神様とノア様のからかうような声が脳内に響く。
あの……、変なことを言うのやめてもらえます?
「どうしましたか? 竜王さま」
「い、今行きます!」
女神様たちの言葉のせいで、緊張してしまうじゃないか!
部屋に入るとそこは確かに女王様の私室のようだった。
大きな机や本棚、そして天蓋付きの巨大なベッドがある。
俺は部屋に入ってすぐのソファーに座るよう促された。
背の低いテーブルを挟んで、正面に氷の女王様が上品に座る。
彫刻のように整った二十代くらいに見える氷の女王様(推定100,000歳)がこちらをじっと見つめてきた。
「それで……ノア様の信者になりたいというのはどういう理由です?」
俺が尋ねると氷の女王様は静かに口を開いた。
「実は、ノア様の使徒のことで思い出したことがありまして……。たしか千年ほど前にも、一度信者にならないかという声をかけてもらったことがあったのです」
その言葉ですぐ相手が誰かわかった。
「カインですね」
「ええ、その通りです。ご存知でしたか」
「色んなところで勧誘をしていたのは聞いていたので」
まさか北極大陸でも布教活動をしているとは知らなかったけど。
俺は氷の女王様の話をカインから聞いたことがなかったから、おそらく俺が現代に戻ったあとの話だろう。
「あの時はちょうど『奈落』から多くのやっかいな魔物が押し寄せてきた時で、魔王カイン殿には大いに助けてもらいました。できればお礼に古い女神様を信仰することもやぶさかではなかったはずなのですが、なぜかどうしても信仰をする気になれず……」
「それは仕方ないですね。当時のノア様は封印されていたので、信者を二人以上作ることができなかったので」
「なるほど……、そうでしたか。では改めてあの時のカイン殿の申し出のこともありますし……なにより古竜の王が高月マコト様は信頼できると。これまでは他の大陸との交流はしてこなかったのですが、わざわざこちらまで出向いていただき、手ぶらで帰っていただくのは失礼と言うもの」
氷の女王はまっすぐこちらを見つめて言った。
「わかりました。よろしくお願いします」
俺は短く答えた。
(これは……カインの手柄だな)
俺はかつての友人に感謝した。
こうしてノアさまに新たに氷の女王とその配下100万の信者が新規加入した!
まぁ、魔物とかも大勢いるだろうから100万全員ではなかろうが。
(むー、ノアのところばっかりズルいわよ!)
水の女神様の念話が聞こえた。
(別にいいじゃない。にしても北極大陸の魔族たちかー。随分と増えたわね)
ノア様のつぶやきも聞こえる。
(多すぎましたか? ノア様)
信者になってくれるならいいかと判断を仰がなかったが。
(んー、ここまで数が増えるとちゃんと管理しろって太陽の女神が言ってきそうな気がするのよねー)
(確かに! ノアもいい加減、勇者を決めなさいよ)
(いい子がいたらねー)
(そうやってすぐサボろうとする!)
「竜王さま」
「は、はい!」
女神様たちの言い合いに気を取られていて、眼の前の氷の女王様から話しかけられた。
いかん、ここは
「我らはノア様を信仰するわけですが、何かすることはありますか? 神殿の建設などが必要でしたら手配をいたしますが……」
「やること……ですか」
そういえばノア様の神殿ってないな。
水の国だと、水の神殿で一緒に信仰されている。
魔大陸でもノア様の信者は多いと聞くが、どんな形で信仰されているのかよくわかっていない。
(あれ……? もっと使徒の俺が管理をしたほうがいいのでは……)
もしかして、これってノア様といっしょに俺もアルテナ様に怒られるやつか?
曲がりなりにも俺も神族の末席にいるわけで。
「りゅうおうさま?」
無言になった俺に、不安そうな表情の氷の女王様が話しかけてくる。
その時、ふと閃いた。
(ノア様、相談したいことが……)
(いいわよ)
(まだ、何も言ってないんですが)
(マコトの好きにしなさい)
(ありがとうございます)
俺が許可を求めるまえに、女神様から承認が降りた。
相変わらず裁量はどこまでも与えてくれる。
「女王陛下」
俺は氷の女王様の目を見つめて言った。
「は、はい!」
俺の真剣な表情に氷の女王様もつられて真剣な表情になる。
「これはムリにとは言わないのですが……一点、お願いがありまして」
「なんでしょうか?」
「ノア様の勇者になってもらえませんか?」
◇
「あの……私が勇者で良いのですか? どうせなら娘のほうが……」
最初は遠慮していたようだったが、最終的には氷の女王様がノア様の勇者になってくれることになった。
「いえ、貴女が適任です」
なんせ10万年、北極大陸を統治してきたベテランの魔王さんだ。
もしノア様を北極大陸のみなさんに信仰してもらうにしても、氷の女王様が勇者をやってくれるなら聞き入れてもらいやすいはず。
氷の女王様からは『竜王』の称号があれば、魔族は誰でも従いますよと言われたが。
「しかし、まさか私が女神様の勇者になれるとは。なにがあるかわからないものですね、ふふ」
氷の女王様が小さく笑った。
面倒なお願いを無理強いしてないかは心配だったのだが、思ったより本人は気に入ってるようだ。
「じゃあ、俺の仲間に説明にいきますか」
俺と氷の女王様は、桜井くんやさーさんがいる部屋へと向かった。
そこで仲間たちに、氷の女王様がノア様の勇者になったことを伝え……当然ながらめちゃ驚かれることになった。
特にルーシーとさーさんからは、
「なんで私たちを差し置いて!」
「女王様と何があったの!」
と疑いの目を向けられて、誤解を解くのが大変だった。
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■次の更新は、2025年11月25日です。
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>ここに来て新ヒロイン同級生の母親(推定10万歳)はヤバい!
>推せるw
→年上好きの読者さんがいますね。
■作者コメント
※2025/10/28 訂正
氷の女王は『精霊の勇者』になります。
精霊の巫女はモモでした。
失礼しました。
■その他
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