372話 佐々木アヤ その3
……グチャ、と柔らかい地面を踏んで歩く。
昼間であるにも関わらず高い木々が邪魔をして、太陽の光が届かない暗い森。
瘴気混じりの霧によって、さらに視界を遮られる。
ほのかに香る嫌な甘い匂いは、麻薬のように感じた。
「「「「「「…………」」」」」」
外からやってきた俺たちが珍しいのか、ぞろぞろとついてくる者たちがいる。
持ち物を狙われているのだろうか?
もしくは若い女であるルーシーやさーさんが狙われているのかもしれない。
この二人揃うと、魔王と同じくらい強いですよ?
「…………」(ギロリ)
「…………炎よ」
さーさんが威圧して、ルーシーが魔力を杖に集めると、すぐに散っていった。
とりあえず良からぬことは考えていた連中だったらしい。
(治安が悪いな……)
はやめにこの場から移動しよう。
一応、看板らしきものがあり地図と現在地を見比べることはできる。
「えっと……こっちかな」
俺はセテカーに書いてもらった簡易な地図を頼りに『仄暗い森』の地区長の住処を目指す。
目的の場所が見えてきた。
そこは今までの場所と比べると、開けた場所だった。
空気も綺麗で、澄んだ水の泉がある。
その側に無骨な砦のような建物があった。
ここに仄暗い森の地区長がいるらしい。
砦の前には門番がいる。
門番は、石像の魔物だった。
「貴様ら……、誰の許可を得てここにきた?」
砦に近づくと、ぎろりと睨まれた。
「これが紹介状です」
俺はセテカーからもらった紹介状を見せた。
「おお! セテカー様の知り合いでしたか。これは、どうぞどうぞ。お入りください」
態度が急に変わった。
セテカーくん、慕われているようでなにより。
石化の魔眼持ちのセテカーくんと、石像の魔物で親交とかあるんだろうか。
「地区長は、二階の執務室にいるはずです……が、今日は機嫌が悪いのでご注意ください。大陸外からの移民魔族たちの暴動がありましてね……。その鎮圧を終えたばかりでして」
「なるほど……、ありがとうございます」
俺はお礼を言って、砦の中に入った。
「ねー、マコト。どうするの?」
「機嫌悪いってー、高月くん」
「一回会ってみて、ダメそうなら出直そうか。紹介状もあることだし、話はできるんじゃないかな」
砦の中では使用人らしき魔族何名かとすれ違った。
特に咎められなかったので、門番が通せば問題ないのだろう。
(うーん、でも直接地区長の部屋を訪ねていいのかな?)
地位の高い人にあうにはアポを取るのが普通ではなかろうか?
ただ、砦には受付のようなものはない。
魔族の習慣は、人族の貴族とは違うのだろう。
「すいませんー、地区長さんってどちらにいらっしゃいますかー?」
さーさんが使用人の魔族の女の子に普通に聞いている。
流石コミュニケーション力高いなー。
「地区長ウルゾク様のお客様ですか? でしたら、今は二階の一番奥の執務室にいらっしゃいますが……、今は機嫌が悪いので日を改めたほうが良いと思いますよ」
「わかりましたー、ありがとう」
さーさんがこっちに戻ってきた。
「だってさ、高月くん」
「ありがとう、さーさん」
「普通に教えてくれるのね……」
ルーシーが驚いている。
確かにセキュリティ意識がガバガバだ。
魔族の場合は地位が高いほど戦闘能力が高いから、あまり気にしてないのかもしれない。
階段を上がった正面に大きな扉が見えた。
近づくと『地区長』と書いてある。
魔族文字で。
ルーシーとさーさんは読めないようだ。
俺は扉をノックした。
――…………誰だ?
中から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「セテカーさんからの紹介で来ました。紹介状を持っています。ご相談がありまして」
――セテカーの紹介だぁ~、ちっ、めんどくせーなぁ。いいぞ、入れ!!
不機嫌そうだが、話は聞いてくれるらしい。
「失礼しますー」
俺に続いてルーシー、さーさんも部屋に入る。
中にいたのは、巨漢の鬼族だった。
座っているのでわかりづらいが、身長は三メートル以上ありそうだ。
筋肉隆々の赤い身体に頭に角が三本。
角からは強い魔力を発している。
(この子は鬼王ね。なかなか強いわよ。あと500年くらいすれば魔王に成れるんじゃないかしら)
(はぁ……、なるほど?)
女神様の時間感覚で言われてもピンとこないんですが。
「えっと、セテカーさんの紹介できました。名前はタカ……」
「あー、面倒なのはいいよ。紹介状をさっさと見せろ」
「どうぞ」
自己紹介が遮られたので、俺は紹介状を渡した。
乱暴に受け取られ、面倒そうに斜め読みされた。
「ふーん、行方不明の知り合いを探しに……か。ほらよ」
紹介状と一緒に、赤い石のついたペンダントを渡された。
「これは……?」
「地区長が許可を与えた証だ。あとで返せよ」
「あの……」
「話は終わりだ。あとは勝手に探せ」
しっし、と追い払うように手でジェスチャーされる。
「「……」」
後ろのルーシーとさーさんがむっとした表情になったのがわかった。
「なんだ、文句あんのかぁ!」
鬼王のウルゾクさんがこちらへ凄む。
が、ここは引けない。
地区長に手伝ってもらわないとさーさんのおねーさんを見つけるのは難しいだろうから。
「数年前に西の大陸から流れてきた蛇女族がいるはずなんです。誰か詳しい案内の人を紹介してもらえませんか?」
「西の大陸から移ってきた魔族や魔物なんざ、五十万人以上でいるんだよ! どいつもこいつも勝手に家の地区に居付きやがってよぉ! なんでそんな面倒なことを俺様がしなきゃならねぇんだ! あぁ!」
(うーん、セテカーの紹介状にはその辺りの協力依頼も書いていたはずだけど……、強制はできないのか)
困ったな。
「ねぇ、マコト。聖竜様にお願いすれば誰か紹介してもらえるんじゃないの?」
後ろからルーシーが俺の背中をつつく。
「メルさんかー。忙しそうだから、面倒事を頼むのは気が引けるんだよね」
今は父親の代行として、魔大陸全体を仕切っているはずだ。
一応、若手に任せて確認と承認だけしてるとは聞いてるけど。
俺たちの会話を聞いてか、鬼王さんが話しかけてきた。
「お前ら……古竜族と知り合いなのか? そのメルさんというのは、ヘルエムメルク様のことじゃ……」
「そーだよ! 高月くんは古竜の王って強い魔王に勝ったんだから!」
さーさんが胸を張って答えた。
あれ?
そーいえば、わざわざメルさんに頼らなくても……。
(マコトがさっさと『竜王の証』を出せばすむでしょーに)
ノア様が呆れた声で言った。
「竜王タカツキマコトサマ!?」
鬼王さんが「ガタ!!」と椅子を蹴って立ち上がってこちらにきた。
そして、そのまま地面に頭を擦り付ける。
「申し訳ありません! 竜王様への非礼、責任は全て私にあります! どうか罰を与えるのは私だけに! 一族に責任はありません!!!」
「えっと……あの」
あまりの態度の違いに戸惑う。
(ほらー、マコトがさっさと竜王を名乗らないから面倒なことになったじゃない)
(毎回、名乗らないといけないんですか!?)
俺は人間なんだが?
いや、今は神族入りしたんだけど。
少なくとも竜ではない。
「とりあえず、気にしてないので普通にしてください」
俺は土下座したままの鬼王さんに声をかけた。
「…………許してくださるのですか?」
「別に怒ってませんよ」
「以前、古竜族が逆らった時には味方もろとも氷漬けにして、気に入らない者を、天界の生贄にしようとしたとか……」
「……それ千年前の話ですけど」
「ヘルエムメルク様がよくおっしゃってますよ。高月様の逸話として。高月様を怒らせると魂まで喰われると」
「メルさん!?」
何を言ってるんだ!
「えっ……マコトってそんなことしてたの?」
「高月くん、それはやり過ぎじゃ……」
仲間二人が引いている。
風評被害だ!
(風評かしら?)
ノア様にツッコまれた。
「メルさんが大げさに言ってるんですよ。じゃあ、協力してもらえますか?」
「当たり前です! というか高月様の命令に逆らう者は魔大陸にいませんよ」
とのことらしい。
「詳しい者に案内させます。こちらへどうぞ」
俺は鬼王さんの案内に続いた。
「では探し主の名前は不明と。最後に会ったのはいつですか?」
「えっと、確か三年以上前で……」
歩きながら、相談内容について改めて説明する。
途中、ノア様から念話で話しかけられた。
(駄目よー、マコト。魔族は上下関係を重んじる縦社会なんだから、自分の立場ははっきり最初に伝えないと。水戸黄門みたいなことはしちゃ駄目)
(わかりました、気をつけます)
なんで例え話に水戸黄門が出てくるんだろう。
見たことがあるんだろうか。
(エイルがさー、地球のテレビ番組が面白いって色々勧めてくるのよねー)
(水の女神様ですかー)
時代劇とは渋い趣味だなー。
そんな念話をしているうちに、砦の1階の部屋についた。
「いるか、カルミラ」
「ウルゾク様? はい、なんでしょうか」
「入るぞ」
そう言って、鬼王さんが部屋にはいると中にいたのは黒エルフだった。
こちらも身にまとう魔力から、かなりの使い手だとわかる。
「こちらの方々は?」
黒エルフの女性は、初対面の俺たちを訝しげに見てきた。
「タカツキマコト様だ」
「竜王サマ!?」
やっぱりその呼び名なんだ。
「西の大陸から流れてきた蛇女族を探しているらしい。高月サマのお仲間の氏族だそうだ。探すのを手伝ってやってくれ」
「わかりました。お話を伺いますね。探し主の特徴を教えていただけますか?」
「さーさん、お願いしていい?」
「はーい、特徴は……」
さーさんがお姉さんの情報をダークエルフの女性に伝えた。
その後「調査に数日はかかりそうですので、三日後に来ていただくことは可能ですか?」という回答だった。
これに俺たちは了承した。
一度、魔都リースまで戻り三日分の宿を予約した。
仄暗い森を体験したあとだと、魔都は実に安全に思える。
ルーシーとさーさんは、買い物がしたいようで二人で魔都を散策していた。
俺はセテカーにお礼を言いにいったりした。
そしたら、早速女神様の信者になった加護で『土の精霊』と仲良くなれたと言っていた。
なんかノア様、俺の時よりサービスよくない?
と思ったら、それは封印されていた時だから仕方ないらしい。
特に用事がなかった俺は、セテカーと一緒に土の精霊と仲良くなる修行をしていた。
◇三日後◇
仄暗い森で、黒エルフのカルミラさんと合流した。
さーさんの言う条件の蛇女族が見つかったらしい。
「どうぞこちらへ」
俺たちは案内されるまま、仄暗い森の奥へとついて行った。
案内されるにつれ、簡素な家や荒れた道すらない完全な森の中に入っていく。
(こりゃ、自力じゃ絶対に見つからなかったな)
と思う。
やがて到着したのは、毒沼が近くにある小さな洞穴だった。
その前で、黒エルフさんが大きな声を出した。
「地区長からの使いだ! 出てきな!」
返事はない。
が、洞穴の奥に気配があった。
ズズ……、と引きずる音とともに長い髪で青い肌の蛇女が出てきた。
「……何の用? あんたたちは……?」
不機嫌そうに俺たちを見回す。
さーさんを見ても特に反応はない。
が、今のさーさんは完璧に人間の姿をしている。
同族とはわからないのかもしれない。
さーさんの表情をみると、結果は聞くまでもなかった。
「……大姉様」
ついに、さーさんのお姉さんが見つかった。
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■次の更新は、【2025/4/25】
多分、さーさん編の最終回かなー。
■感想返し:
>ね、ね、ネヴィアさんの衣装
>エッチだー!!!
とてもよい衣装ですよね。
■作者コメント
もっと短く終わらせる予定のさーさん編が思ったより長くなった。
でも、セテカーさん再登場はさせたかったので満足。
■その他
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