371話 佐々木アヤ その2
※今回のあとがきには小ネタがあるので、是非読んでみてください。
――石化の魔眼を有する魔王軍の幹部セテカー。
時系列的に会うのは数年ぶりなのだけど、体感だともっと期間を開けているように感じる。
理由は言わずもがな、俺が千年前にいったせいである。
カイン経由でセテカーのことは知っていたのだけど、千年前に出会うことはなかった。
「やぁ、元気そうだね」
「そちらこそ。身にまとう魔力が見違えましたよ、女神ノアの使徒殿」
見違える?
目を布で覆っているため姿は見えないはずだが……。
「それで見えてるの?」
「目が塞がってるよ?」
ルーシーとさーさんが不思議そうに言う。
「私が直接見ると全て石化してしまいますから。目で見ずともみえるものはあります。そちらのお嬢さんは、火の精霊に愛されていますね。使徒殿は……水の精霊だけでなく多くの精霊に愛されていますね」
セテカーは興味深そうに告げた。
「そんなに精霊がみえてたっけ?」
以前会った時は、精霊に詳しい様子はなかった。
「カイン殿に教わったのですよ。精霊と仲良くなるには根気よく話しかけるのがよいと。以前はちっとも話を聞いてくれませんでしたが、今では四精霊と仲良くしておりますよ」
そういう通りセテカーの周囲では精霊たちが楽しそうに踊っている。
多分、俺がカインに教えたやり方だな。
……カインよりも精霊の扱いが上手になっている。
(ねぇ、マコト。この魔族って不死の王の部下だから不死者なんじゃないの? どうして精霊魔法が使えてるのよ)
ルーシーが俺の背中をつつく。
(確かに……)
ルーシーに言われて気づく。
アンデッドに精霊は懐かない。
(セテカーちゃんは不死者じゃないわよ)
(え? そうなんですか? ノア様)
女神様の声が届いた。
(前に魔の森で会った時はアンデッドでしたけど)
(マコトが千年前に暴れたせいで未来が変わったんでしょ)
(……え?)
そんなにあっさりと?
いや、まぁ確かに千年前には色々とやったけども。
「どうかしましたか? 使徒殿?」
俺の戸惑いを感じてか、セテカーが話しかけてくる。
本当に目を見てないのかという察せ具合だ。
「い、いやなんでもないよ。実は聞きたいことがあって……」
俺は探している魔族――さーさんのお姉さんについて聞こうとした所。
(ねぇねぇ! マコト! セテカーちゃん、特に信仰している神がいないみたいだからうちに勧誘しなさいよ)
女神様に話の腰を折られた。
(えっ!? 魔族で元魔王の幹部ですよ? いいんですか?)
(別にいいわよ。無信仰なら、ガンガン勧誘しちゃって)
(太陽の女神様に怒られません?)
(はん! 気にすること無いわ!)
うちの女神様は強気だ。
というか、セテカーの主である不死の王を倒したのが俺と太陽の聖女さんなわけで。
言ってみれば俺は主の敵。
それで勧誘してみたからって、入信してもらえるとは思えないのだけど。
(まぁ、ダメ元で誘ってみるか)
俺は決心して声をかけた。
「聞きたいこととはなんでしょう?」
急に黙った俺に、セテカーから聞いてくれる。
「実はうちの女神様が、セテカーに是非信者になってほしいって言ってるんだ」
「「「えっ??」」」
驚いた声が三つ重なった。
一つはセテカーで、のこり二つはルーシーとさーさんだ。
「マコト、いきなり何を言ってるの!?」
「高月くん、どうしたの? 急に」
仲間二人が戸惑っている。
「あの……使徒どの。これはまた……急なお誘いですね」
セテカーも戸惑っている。
(ほらー、ノア様。へんな空気になっちゃいましたよ)
(マコトがいきなり過ぎなのよ。もっとうまいこと言いなさいよ)
責任を押し付け合う、女神様と信者。
「どうかな? セテカー」
まぁ、いいや。
とりあえずもう少し押してみるか。
「むぅ……、カイン殿の信仰されていた女神様……ですか。確かにかつてはカイン殿によく勧誘されておりましたが……」
(カイン……強引な勧誘してそうだなー)
(してたわよ)
(やっぱり……)
それは印象がマイナススタートでは?
(ねー、マコト。アヤのおねーさんの場所を聞くんじゃないの?)
(この話、いつまで続くの?)
ルーシーとさーさんに両脇から突かれる。
これ以上は、この話を続けるのは無理そうだ。
「じゃあ、この話はまた今度ということで……」
俺が勧誘の提案を切り上げようとした所。
「わかりました! では女神ノア様の信者となりましょう!」
あっさりとセテカーは言った。
「いいの?」
「ええ! よく考えれば亡きカイン殿の願いを叶えると思えば、ここで信者にならないという返事はありえないでしょう!」
おおー!
カインの勧誘が実を結んだ。
ありがとう、カイン。
「では、なにか手続きをする必要は?」
「えっと」
セテカーに質問され、俺のほうが言葉につまる。
ノアさまー!
このあとどうすればいいんですか!?
(私が視てたから何もしなくていいわよ。さっきので言質とったし)
(あれで入信になっちゃうんですか……?)
怖いな、うちの女神様。
(しばらくしたら女神の加護を与えるから、そう言いなさい)
(わかりました)
うーん、雑だなー。
もうちょっと入信フローとか整えたほうがいいんじゃなかろうか。
今度、ソフィアに相談してみようかな
「セテカー、しばらくすると女神様の加護が与えられるから、それまではノア様に一日一回以上祈ってくれるとうれしい」
「ふむ……、なるほど。かなり簡易的ですな。悪神王様の信徒になる時でももう少し手続きがあったような気がしますが」
魔王軍よりもシンプルらしい。
やっぱりこれはもう少し考えたほうがいいな。
「ねー、マコトー」
「高月くんー」
ルーシーとさーさんが、両側から俺の脇をつつく。
「ごめん、ごめん」
話が脱線し過ぎている。
いいかげん、本題に戻ろう。
「セテカー、あともう一つお願いがあって」
「ええ、聞きましょう! 我が同胞マコト殿!」
お、なんだか距離が近くなったな。
「実はここにいるラミア族のさーさんの親族を探していて……」
――長い前置きのあと、俺は事情を説明した。
◇
「ふーむ……、西の大陸から流れてきたはぐれのラミア族ですか……。名前がわかれば探しようがあるのですが……、ただ『仄暗い森』にいることがわかってるのですよね? 仄暗い森一帯は、現在貧民窟になっていて様々な種族が入り混じっており、管理ができていないの状況でして」
「そっかー」
「ねぇ、アヤのお姉さんって名前はないの?」
「うん、姉妹は多かったから名前はついてなかったの。探しているあいつのことはみんな『大姉様』って呼んでたし」
困ったな。
名前がなくて探すのは難しそうだ。
「ちょっとお待ちを。住所はわかりませんが、名簿は作ってあるので数年前程度のことなら調べられるかもしれません。ラミア族……ラミア族……おっ! ありましたね。仄暗い森の毒沼地区を統治している、地区長からはぐれラミア族の届け出がありました。紹介状を書きますので、そこで話を聞いてみてもらえませんか?」
膨大な書類の中からセテカーが手がかりを発見してくれた。
「ありがとう、セテカー」
「いえいえ、これくらいのこと。またお会いしましょう、マコト殿」
俺とセテカーはがし、っと握手をして別れた。
セテカーには仄暗い森の地区長への紹介状と、その近辺の地図までもらえた。
ノア様の信者も一人増やすことができたし、良い再会だった。
「マコトのとこの女神様って節操ないわよね」
「高月くん、話が長いよー」
仲間二人からは、あとで苦言をもらったわけだが。
あとは、そのまま仄暗い森へ空間転移で移動しようかと思ったのだが、帰り際にセテカーから注意を受けた。
「マコト殿。仄暗い森は、魔都市リースと違って治安が悪く、旅人が泊まれるような宿屋もありません。行く前に十分、準備をしておくことをおすすめします」
とのことだった。
要するに魔物が襲ってくる迷宮だと思ったほうがいいということだ。
俺たちは街で買い出しを行い、宿屋で一泊してから目的地へ向かうことにした。
◇北の大陸・仄暗い森◇
翌朝。
俺たちはルーシーの空間転移で、仄暗い森の毒沼地区へとやってきた。
「ここが仄暗い森か…………」
「……暗い場所ね」
「……へんな匂い」
そこはかつて木の国にあった魔の森とよく似ていた。
背の高い魔樹が生い茂っており、太陽の光が届かない。
瘴気混じりの深い霧によって視界が悪い。
空気にわずかな異臭が混じっているのは、下水施設がないためか毒沼のものなのか判断できない。
霧の中に魔物や魔族の住居らしき建物がぽつぽつと見える。
住人の姿もある。
着ているものは、皆裸体かボロボロの衣服を身体に巻き付けている程度だ。
住人たちは、ほとんどが地面に座り込んでいるか、寝転んでいる者だった。
全体的にどんよりした空気に包まれている。
魔都市リースとは対照的だった。
よそ者である俺たちには気づいているようで、無遠慮な視線がいくつもこちらに向いている。
「ルーシー、さーさん。いこうか」
「そうね」
「うん」
あまり長居したい場所ではない。
さっさと探し人を見つけるべく、俺たちはセテカーに教えてもらったこの辺一帯を管理する地区長のもとへと向かった。
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■次の更新は、【2025/3/25】
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>セテカーさん!
>私の中では癒し枠です!
→まさかの癒し枠!?
■作者コメント
ここで小ネタ。
ちょうど本日完結した作品
<魔法少女の卒業試練>
https://ncode.syosetu.com/n2425jc/
登場人物について2つ、信者ゼロとの関連性をお伝えします。
<1:主人公について>
牧真マホヨ。
太陽の女神様から加護を受けて、光の魔法少女をやってます。
実はこの世界でいう『光の魔法少女』の能力は『光の勇者』と同等です。
桜井くんやアンナさんと同じ力になります。
聖剣はもっていませんが。
魔王がいないんで(今のところ)。
信者ゼロの世界ではマコトくんが好き勝手やってたせいで最強能力っぽくなかったですが、『光の勇者』が本気を出すとこうなるっていう裏テーマで書きました。
<2:ヒロインについて>
桃宮ヒメノ、というヒロインが登場します。
作中では『魅惑の魔法少女』という名前で活躍しています。
実は彼女、信者ゼロに出てきた『厄災の魔女』ネヴィアさんの生まれ変わりです。
ネヴィアさんの時の記憶は完全になくなっていますが。
今回も月の女神様が加護を与えたり、ちょくちょく話しかけているあたり気にしてくれていたみたいですね。
力のある存在が長く冥府に留まっていて、復活させられたりしたら聖神族的には困るのでさっさと転生させて『魂浄化』しているのは、以前に水の女神様が言っていた通りですね。
というわけで元気な元ネヴィアさんが気になる人は、是非<魔法少女の卒業試練>読んでみてください。
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