363話 招待状 その6
「太陽の女神様と……、月の女神様……?」
めったに姿を現さない二柱の女神様が海底神殿にきていた。
と、ここで気づき慌てて跪く。
「ご無沙汰しております、太陽の女神様、月の女神様! お二方がいらっしゃるとは知らず、突然の来訪を……」
俺が言葉を続けようとした時。
「今さら堅苦しい挨拶は不要でいいだろう。太陽の女神と君の仲じゃないか」
アルテナ様にぽんと、肩に手を置かれる。
手を置かれた肩が、アルテナ様の神気によって燃えるように熱い。
人族の時には気づかなかったけど、何もしてないのにただそこに存在するだけで圧倒される。
太陽が人の形をしているかのような圧倒的な神気。
「ふふ、めずらしく緊張しているな。高月マコト」
「い、いえ……」
全宇宙の支配者――太陽の女神様。
最初に会った時は冷酷な印象だったが、今やすっかり友好的な態度で接してくれる。
女神教会では厳格な女神様というのが通説だが、実はこっちが素らしい。
というのをノア様に教えてもらった。
「やぁ、我が巫女ふーちゃん。相変わらず君は奥ゆかしいねぇ。好きな男が他の女と結婚するっていうのになにを呑気にしてるんだい? その自慢の美貌で、寝取ってしまえばいいのに」
「あの……ちょっと、月の女神……様? 別に寝取るなんて私は……そもそも私の騎士には魅了が通じないし……」
「おやおや、様つけとは珍しい。いつもは呼び捨てじゃないか?」
「それは……えっと」
むこうでは月の女神様がフリアエさんに絡んでいる。
って、それはまずいのでは!?
基本的に女神様の姿は神聖過ぎて、直視すると精神が持たない。
俺は『RPGプレイヤー』スキルの視点切り替えのおかげで女神様を見ることができるが、フリアエさんとモモは危ない。
「ナイア様! 姫!」
俺が慌てて止めに入ろうとした時。
「大丈夫みたいですよ、マコト様」
服の袖をひっぱってくるのはモモだった。
「あれ? モモ?」
モモの目はしっかりと見開かれている。
その隣にはノア様が立っている。
「夢の精霊ちゃん、ありがとう」
歌うようにノア様が言葉を紡ぐ。
気がつくと、周囲に虹色の霧がかかっていた。
「ノア様……これは一体?」
「女神たちをマコト以外は見れないのって不便でしょ? 間違って直視しないように、このあたりを夢の中にしておいたわ。こうすればすべての物事が曖昧になって女神を直視しても発狂しない夢の世界になるの☆」
ノア様があっさりと言う。
しかし。
「おっしゃる意味がよくわからないんですが……モモわかるか?」
「おそらくですけど、女神様が使ったのは、いわゆる神級魔法の『異界創生』ではないかと……」
「こ、これが……?」
魔法教本で読んだことだけはある。
自分の周囲に小さな魔法世界を創ることで、最強の結界となり最強の剣ともなる神級魔法。
もちろん見るのは初めてだ。
「そんなめんどくさい名前じゃなくて、『夢の精霊』にお願いすればいつでもやってくれるわよ?」
ノア様が可愛らしく首をかしげる。
夢の精霊自体、初めて知るんですが。
(むちゃくちゃですね、この女神)
(あぁ、むちゃくちゃなんだ)
モモと俺が小声で話していると。
「聞こえてるわよ」
トントン! と俺とモモの額をノア様に弾かれた。
心すら読まれるのに、小声は意味なかったな。
まぁ、何にせよ女神様と会話しやすくなったのはよいことだ。
では、本来の目的をはたそう。
「ノア様、こちらを」
「……ふーん」
俺がポケットから結婚式の招待状を取り出し、ノア様に手渡すととたんに女神様の表情が白けたものになる。
あれ?
「…………ノア様?」
「マコトの結婚式ねぇ~」
ひらひらと招待状を揺らし、つまらなそうな声のノア様。
「あの……来てくださいませんか?」
「うーん、どうしよっかなー」
ノア様は難しい顔をして腕組みをしている。
そんな!
まさか、ノア様に断られるなんて。
まったく予想してなかった。
がーん、とショックを受けていると。
「おいおい、ノア。どうせ行くつもりなんだから、もったいぶらなくていいだろう」
口を挟んできたのはアルテナ様だった。
「ちょ! 勝手に決めつけないでよ! 悩んでるって言ってるでしょ!」
「私には未来が視えてるんだが。心配するな、高月マコト。ノアは参加するよ」
「あ、そうなんですね。よかった」
「こらー! 勝手に私の答えを言うなー!」
ブオン! とノア様が綺麗な弧を描いて回し蹴りを放ち、アルテナ様がそれを受け止める。
その衝撃で突風が舞って、吹き飛ばされそうになる。
「きゃあ!」
というかフリアエさんが吹き飛ばされていた。
「水の大精霊!」
「はーい」
吹き飛ばされそうになったフリアエさんを、水の大精霊にキャッチしてもらう。
「あんたはいつも余計なこと言って!」
「めんどうな女は嫌われるぞ、ノア」
「誰が面倒な女よ!」
向こうではさらにノア様が光速のパンチをして、それをアルテナ様が笑顔でさばいている。
ノア様のパンチの一発、一発に月が木っ端微塵になりそうなくらいの魔力が込められている。
巻き込まれたら、多分俺も粉々だ。
「なんであんたのところの女神と太陽の女神様が喧嘩してるの……?」
ふきとばされそうになってふらふらとしているフリアエさんがこっちにやってきた。
月の女神様は「おーい、楽しそうだねー。ボクも混ぜてよー」とノア様とアルテナ様の喧嘩(?)に割り込んでいる。
「しばらく待ちますか?」
モモが言うと。
「そうだね」
「ひどい目にあったわ」
俺とフリアエさんは、しばし神話に出てきそうな女神様同士のじゃれ合いを眺めていた。
◇
「マコト! 女神ノアの名において、貴方の結婚式に参加してあげるわ! 感謝しなさい!」
「ありがとうございます、ノア様。そう言っていただけてほっとしました」
一応、参加してもらえることはアルテナ様に事前に教えてもらっていたわけだがそれはそれ。
こういうのは形式が大事だ。
「太陽の女神様、月の女神様もいかがですか?」
俺は用意していた別の招待状を、二柱の女神様に手渡した。
「できれば参加したいが、滅びの危険のある17個ほどの世界から呼び出しを受けているので、時間があればとさせてもらおう」
「どうか、そっちの世界を優先してください!」
俺は迷わず言った。
というか、17個も世界が滅びそうって……。
アルテナ様はここで一緒に雑談をしていても大丈夫なのだろうか。
「うーん、ボクはねー。気が向いたらいくよ」
月の女神様の返事は淡白だった。
行けたら行くというやつだ。
「ではお待ちしております」
できれば来て欲しい。
けど、それを決めるのは女神様だ。
これでほぼ招待状を渡したい人たちに配り終えた。
あとは……、水の女神様はソフィア王女が連絡してくれるはずだ。
残るは……。
(運命の女神様か)
イラ様の場合は三日に一度くらいは呼び出される。
仕事の手が回らなかった時のヘルプに。
その時に渡せばいいだろう。
さて、ではノア様に挨拶をして帰ろうかと思っていると。
「ところでノア。そろそろ巫女と勇者を決めたらどうだ」
アルテナ様が言った。
「えー、使徒のマコトがいるから別にいいでしょー」
ノア様は面倒くさそうに答える。
「あのな、ノア。おまえは女神教会の正式な信仰女神なんだ。せめて、巫女だけでも決めろ」
「そうだよー、今やボクより仕事してない女神だからねー、ノアは」
「うっさいわねー」
アルテナ様とナイア様に言われても、どこ吹く風なノア様。
「そもそも巫女もなしにどうやって水の国の結婚式に参加するつもりなんだ?」
「直接、降臨すればいいでしょ?」
「ダメに決まってるだろ! 以前の封印された時のノアならともかく、力を取り戻したノアが直接地上に降臨なんてしたら、地上の自然環境が一瞬で書き換わるぞ!」
「別にいいじゃない、それくらい」
「いいわけがあるか! 直接の降臨は絶対に許さないからな。必ず、高月マコトの結婚式までに巫女を決めること。わかったか!」
「えー」
(何か思ったより大事になったな……)
どうやらノア様が結婚式に参加するには、巫女を決めないといけないらしい。
しかしノア様は巫女を決める気がない。
うーん、ちょっとノア様に無理をさせてしまったか?
ちょっと反省をしていると。
「ま、実は巫女の候補は決めてるんだけどねー」
「え?」
「なに?」
「へー」
俺は驚きの声をあげ、アルテナ様とナイア様もそれぞれ意外そうな表情だった。
「ノア様、誰なんですか?」
まさか巫女候補がいたとは。
「えー、気になる? 知りたい? 知りたいの? マコト」
「…………」
うん、ノア様がちょっとめんどうな女になっている気がします。
「む、ノアが未来にブロックをかけているな。未来が読めん」
「アルテナくんが未来を読めないって……、相変わらずむちゃくちゃだねーノアくんは」
アルテナ様でもわからないんらしい。
「俺の知ってる人ですか?」
ノア様の使徒である俺とはきっと関わりが増えるだろう。
できれば、気の合う人だといいんだけど。
そんな心情を読んでか。
「マコトが心配しなくても、よく知ってる子よ」
ノア様が告げた。
「俺がよく知ってる女の子ですか……」
ぱっと思いつくのはルーシーとさーさん。
あとはソフィア王女……は、水の巫女だからNG.
フリアエさんも同様。
「ルーシーかさーさんですか?」
と聞くと。
「なわけないでしょ」
一蹴された。
違うらしい。
「巫女は清らかな身体って決まってるのよ! 女神教会の教えでもそう言ってるわ! 何が悲しくて、マコトに手を出した女を巫女にしなきゃいけないのよ!」
「いや、そんな天界規則はないんだが……。それは地上の民が勝手に追加した規則なだけで」
ノア様の言葉に、アルテナ様がつっこむ。
「というわけで、本人に打診するのは今日が初めてなんだけど…………」
と言って、ノア様がこちらを向く。
俺のほう……ではなく、その隣。
ぼーっと、話を聞いていたモモにノア様が語りかけた。
「ねぇ、モモちゃん。女神ノアの巫女にならない?」
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■感想返し:
>アシュタロトがただの気の良いおじさんになりつつあるw
>まさかのアルテナ様&ニャル様出席?
→アフターストーリーのアシュタロト好きです。
アルテナ様&ニャル様の参加はどうでしょうかねー。
>マコトの招待状配布の旅に、終わりが見えて来たことです。
長くし過ぎたので、招待状編は次回で終わりです。
■作者コメント
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