361話 招待状 その4
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「へぇ、ここが魔大陸なのね」
月の巫女さんが興味深そうにつぶやく。
「姫は初めてだっけ?」
「そうよ。前にルーシーさんやアヤさんに連れてってってお願いしたけど、断られちゃったの」
「当たり前でしょう。貴女は月の国の女王ですよ。魔王領に連れて行くなら相応の理由がないと」
唇を尖らせるフリアエさんに、大賢者様がため息を吐いた。
「でも、今来ちゃったわよ?」
「…………ですね」
「まぁ、最近は魔大陸も平和だし」
「そうなの? 私の騎士」
「魔大陸の魔物って、どんどん増えてるらしいですよ、マコト様」
すいません、適当言いました。
その時。
…………ズズ…………ズズ…………ズズ
目の前の大きな岩が動いた。
みるみる間に岩が巨大な竜の形になる。
岩の古竜だ。
「きゃっ!」
フリアエさんが俺にしがみつく。
「……あの竜って」
「……たぶん」
俺とモモは、顔を見合わせた。
象を丸呑みできそうな巨大な岩の古竜の口が開く。
「……脆弱ナ人族ガ何用ダ……。ココハ魔ガ治メル地。即刻、去ルガ…………あれ? マコト様とモモちゃんっすか?」
「久しぶりー。遊びにきたよ」
「顔忘れないでくださいよー」
俺が手を上げると、岩の古竜くんは「わー!」と言いながらしゅるしゅると体長が縮み、3メートルほどの大男になった。
「失礼しました、竜王マコト様。モモちゃん、ちっこいから見えなかったよ」
「俺は竜王じゃないが」
以前、古竜の王との戦いに勝利したことで貰った『竜王の証』とやらのせいで、竜族たちからは竜王様とか魔王様と呼ばれたりする。
あくまで竜王になる権利を得ただけで、引き受けた覚えはないんだけど……。
「む~! ちっこくないです!」
モモは、千年前から白竜さんに修行してもらっていた関係で古竜族には知り合いが多かったりする。
その辺の事情についていけてないのがフリアエさんだ。
「………………」
俺たちが雑談しているのをぽかんと見ている。
岩の古竜くんもフリアエさんに気づいたようで、その顔を見て目を丸くした。
「厄災の魔女様!? 生きておられたんですか!」
「えっ?」
「ちがうよー、彼女は月の国のフリアエ女王だよ」
俺が彼の勘違いを訂正する。
「おお……しかし似てますね。生まれ変わりかとおもうほど」
「本人はあまりそれを言われるのが好きじゃないみたいだから」
「これは失礼を。つい懐かしさのあまり」
人族の世界では悪の元凶のように語られる厄災の魔女さんだが、魔族側では密かに人気があったりする。
あの人、治世は穏健派だったからなぁ。
反対に、千年前の有力者でぶっちぎりで不人気なのは黒騎士の魔王である。
理由は言わずもがな、ノア様の信者になるように強要していたからだ。
悲しい。
「白竜さんっている?」
「いますよー、ご案内しますね――空間転移」
俺たちは岩の古竜くんと一緒に、光に包まれた。
◇
古竜の隠れ里。
それは北の大陸の高い山脈の中にひっそりと存在する…………はずだったのだが。
「居住者が増えたね」
隠れ里というわりに大きな建物が立ち並んでいる。
古竜の姿のままでは巨大過ぎるのだろう。
竜人の形態をとっているが、全員身長が3メートル以上あるので巨人の街のようだ。
「そっすねー。北の大陸と西の大陸で和平が結ばれて、人族の縄張りには居づらくなった同族たちがこっちに移住してきたので、里は少し手狭になりましたね。白竜姉さんは奥の屋敷にいますんで。モモちゃんたちが来たのを喜びますよ。女王様もごゆっくりー、それでは」
岩の古竜くんは挨拶して去っていった。
どうやら見張りの仕事中だったらしい。
悪いことしたな……、と思ったら50日間くらい何も起きなくて寝てたんでよい息抜きになったと言われた。
相変わらず古竜の時間感覚は狂ってる。
ちなみに時間感覚が一番おかしいのが女神様で、二番目が古竜だ。
ノア様が封印されていた時、ちょっと昼寝をしたら10年経ってるのが当たり前だったらしい。
聞いた時は引いた。
俺とフリアエさんとモモは、古竜の隠れ里の中を進んでいく。
「あ、マコト様。ちっすー」
「魔王様ー、お久しぶりです!」
「今日はあの怖い水の大精霊いないんですね。あ、呼ばなくていいです」
「竜王様ー。俺、ノア様の信者になりましたよー」
途中で顔見知りの古竜から声をかけられる。
『高月マコト』の名前は、古竜たちに知られているからだ。
「ねぇ、私の騎士」
「どうしたの? 姫」
「ここって魔王領なのよね?」
「そうだね。怖い?」
「怖くない! なんかご近所感が凄いから……」
「変だよね。ここに来るのは半年ぶりくらいのはずなのに」
「マコト様。半年とか古竜族にとっては1週間ぶりくらいの感覚ですよ」
「……そうだった」
半年って全然久しぶりじゃないんだ。
彼らにとっては。
「……そうなんだ」
フリアエさんが感心したようにちょっと間の抜けた表情になる。
そんな雑談をするうちに、里の一番奥にある巨大な屋敷の前に到着した。
魔法で作られたであろう巨大な石壁の建物。
見ようによっては『城』に見えなくもない。
人族の間では『幻の魔王城』と呼ばれているとか。
古竜たちの街にある城なので、過去たどり着いた人がほぼ居ないらしい。
白竜さんの実家である。
門番はいない。
この街に居るのは全員、白竜さんの身内だからだろう。
そもそも白竜さんより強い古竜が数えるほどしかいない。
「失礼しますー」
大きな門をくぐって屋敷に入る。
正面玄関の大きな扉には、鍵はかかっていない。
人間では開けないほどの重さだから。
「………………ぐっ」
竜族用に作られた巨大な扉を俺はゆっくりと押した。
人間だったころの俺なら一ミリも動かせなかっただろう。
しかし、今は末端とはいえ神族の一員。
竜族用の重い扉くらいは、余裕で開くことができる。
ズズズズズズ……と、低重音を響かせて扉が開く。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
つ、疲れた。
全然余裕じゃない。
「大丈夫ですか? マコト様」
「魔法で開けばいいんじゃないの?」
モモとフリアエさんに言われた。
「細かい調整ができないから多分魔法を使うと扉ごとふっとばすことになる」
「そうなんですね」
「大変ね」
そんな会話をしながら、俺たちは屋敷の中に入った。
中はまっすぐ通路が続いている。
しばらく歩くと大きな広間と玉座があった。
「マコト様ー、ついに玉座に座られるんですね!」
通りかかったのはメイド服を着た女性。
ただし、身長は2メートル以上あるが。
彼女も古竜が人の姿をしているだけだ。
「なりませんよー。白竜さんが屋敷にいると聞いたんですが」
「白竜姉様は屋敷の裏庭に居ますね。ご案内しましょうか?」
「いえ、場所はわかるので大丈夫です」
俺はお礼を言うと屋敷の裏口へと向かった。
屋敷の裏は庭園になっていて、中央には湧き水によってできた小さな池がある。
湧き水には多くの魔力が含まれているそうで、魔力を吸った土を養分にして庭園の花は年中咲き続けている。
バラ、ラベンダー、デイジー、アネモネ、パンジー、インパチェンス、ガーベラ、グラジオラス、カリブラコア、シクラメン……などなど。
見たことがある花から、まったく知らない花まで数多く鮮やかに風に揺れている。
「綺麗な庭園ね……。月の王城にもここまで立派なものはないわ」
フリアエさんがうっとりとした表情で周囲を見回す。
「白竜師匠もマメですよねー。ここの庭園を自分で管理するなんて」
「えっ!? たしか白竜様って魔王代行なんでしょ……? そんなことをしてるの?」
フリアエさんが驚きの声を上げる。
「趣味なんだってさ。花を育てるのが」
「へ、へぇ~」
そういえば初めて会った時にも大迷宮の花畑でメルさんは眠ってた。
好きなのだろう。
さて、白竜さんはどこにいるのだろうか?
俺がきょろきょろと探していると。
「騒がしいと思ったら精霊使いくんか」
庭園の中においてあるハンモックから声がした。
スラリと長身が目立つ、白髪赤目の美女。
昼寝をしていたらしい白竜さんだ。
「お久しぶりです、メルさん」
「ん? 半年前に会ったばかりだろう」
「……そうでしたね」
いかんな。
古竜族の時間感覚が、まだつかめない。
まぁ、いい。
まずは用件を済ませよう。
「メルさん、こちらをお渡しします」
俺は自分の結婚式の招待状を渡した。
メルさんは、怪訝な表情でそれを受け取る。
「なんだこれは……? なになに……、水の国の第一王女ソフィア・エイル・ローゼスと、同国の英雄高月マコトの結婚披露宴への招待状……? 古竜族の私が参加してもいいのか?」
「もちろんです。知り合いが少なくて困ってるんです。メルさんには参加していただかないと」
「そういうことなら喜んで参加しよう。ついでに千年前に魔王ビフロンスと戦った古竜たちも精霊使いくんと会いたがっていた。一緒に誘おうか」
「いいですね。人数が稼げます」
快諾してもらえた。
(マコくんー! ソフィアちゃんとの結婚式をゲームみたいに思ってない?)
(マコトにとっては人数合わせゲームみたいなものよ)
(……そんなことないですよ)
女神様のツッコミをスルーする。
「やったー、久しぶりに師匠とご一緒できますね」
モモは、メルさんの返事に喜んでいる。
「伝説の聖竜様まで参加されるのね……」
フリアエさんは感銘を受けているようだ。
美しい庭園。
久しぶりに集まった面々。
ようやくたどり着けたという気の緩みで、俺は重要なことを忘れていた。
「ふ……しかし、精霊使いくんの結婚式に参加するのは二回目か。千年前はあまり大きくは祝えなかったが、今回は多少騒いでもよさそうだ」
白竜さんが懐かしそうに言った。
モモは当時、それに参加していた。
だから、特に気にしていないようだ。
問題は……。
「えっ…………? 私の騎士…………二回目の結婚ってどーいう意味?」
豆鉄砲を食らったハトのような顔をしているのはフリアエさんだ。
彼女は、俺が千年前にアンナさんと結婚していたことを知らない。
白竜さんが「しまった」という表情になった。
モモが「あーあ」という顔をしている。
俺は『明鏡止水』スキルで平静を装っているが、頭の中で頭を抱えていた。
「綺麗な庭園だね、姫」
「ごまかすんじゃないわよ! 私の騎士!」
話をそらすのに失敗した。
俺はフリアエさんに全部白状させられた。
■大切なお願い
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次の更新は『5/25』です
■感想返し:
>ふと思ったのですが、縁を頼りに目的地に移動している古式の空間転移でマコトは誰との縁で迷宮都市に飛んだのですか?
→マコトとスミレ(攻撃力ゼロのヒロイン)はクラスメイトです。
スミレはさーさんとは友人です。
>・12巻楽しみです!表紙は誰だろう?イラ様だと嬉しいけど、さすがにソフィア王女かな?
→イラ様でした!
今回の表紙はとても気に入っています。
■作者コメント
11巻の発売からおまたせしました!
12巻の発売です。
こちらはルーシーとさーさんの新衣装です。可愛いですね!
こんな露出の多い女の子だけのパーティーだと荒くれ者に絡まれるんですがが、二人とも強いので全員ぶっ飛ばしてます。
今回の挿絵は千年前から現代に戻ってきたので、久しぶりなキャラが多数です。
■その他
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