258話 賢者モモの懸念
◇モモの視点◇
マコト様が行ってしまった。
なんでも『海底神殿』という場所で、修行をするらしい。
ここのほうが安全なのでは? と私は思うのだがマコト様は自分に厳しい人なので、より過酷な環境に身を置きたいのだろう。
「はぁ……マコトさん……」
あちらではアンナさんが艶っぽくため息を吐いている。
もうあれは、ただの恋する乙女だ。
本人は頑なに認めようとしないけど。
「チビっ子。上の空のようだが?」
白竜師匠がやってきた。
「ち、違います。練習しています!」
私は木魔法の詠唱を行う。
「木魔法・捕縛の蔦!」
ばっ!と木の根が八方に広がり、敵に見立てたカカシをぐるぐる巻にする。
地味な魔法だが、小さな竜ですら捕らえる事ができる魔法らしい。
「できましたよ! 白竜師匠!」
「ふむ、さすがは『賢者』スキル所持者だな。覚えが早い」
「やった! ……でも、どうして攻撃魔法じゃないんですか?」
私は首をかしげた。
マコト様が戦おうとしているのは、魔王。
恐ろしい敵だ。
私を吸血鬼にした相手でもある。
だから私はもっと強い攻撃魔法を覚えたほうがいいんじゃないだろうか?
「不死の王の配下は、不死者が多い。本来は聖なる属性である『太陽魔法』が望ましいのだが……、半吸血鬼であるチビっ子が使うに適していない。下手な攻撃魔法より、足止めをしたほうが役に立つ」
白竜師匠が淀みなく答えてくれた。
「はぁ……なるほど」
「それにうちには『戦略魔法士』が居るからな。攻撃はやつに任せるのがよいだろう」
「戦略魔法士……?」
耳慣れない言葉に、私は首を傾げた。
「かつて精霊使いをそう呼んでいた時代があったのだ。今は使われていない呼び名だが」
「マコトさんの話ですか?」
気がつくとアンナさんが、会話に入ってきた。
「白竜師匠、戦略魔法って何ですか?」
「都市、もしくは国そのものの破壊を目的とした魔法……、別名『無差別殺戮魔法』とも呼ばれていた」
「「え?」」
私とアンナさんは顔を見合わせる。
とんでもなく物騒な名前が出てきた。
「子供、老人、関係なくすべてを破壊する魔法だよ」
「ま、マコトさんはそんなことしません!」
「そうですよ、マコト様は優しい人です!」
私とアンナさんの反論に、白竜師匠はため息を吐いた。
「する・しないではなく『それしかできない』のだ。精霊魔法は細かい運用が困難だ。使ったら最後、敵味方を巻き込みすべてを飲み込む……、そういう魔法だ」
「でも、マコトさんは私達を巻き込んだりは……あ」
「大迷宮のことを忘れていたのか、勇者くん。水の大精霊のせいで、危うく死にかけただろう?」
「……はい」
「でも、マコト様はあれ以来すごく気を使ってますよ!」
私が言うと、白竜師匠は小さくうなずいた。
「その通りだ、精霊使いくんは私たちを巻き込まぬように精霊魔法を使う。あんな使い方はできないはずなのだが」
「やっぱりマコト様は凄いってことですね!」
私が言うと、白竜師匠は難しい顔をした。
「我々の扱う魔法は所詮、『神の奇跡』の模倣。あれほどの力であれば、何処かの力のある神の加護を得ていなければおかしいのだが」
「マコトさんは、信仰する神は居ないと言ってましたね」
アンナさんの言葉の重要性が、私はピンとこない。
私も特に神様を信じていないから。
「それだけではない。天界に住まう女神様は、精霊魔法を嫌っている」
「女神様が……?」
アンナさんが不安そうに呟いた。
さすがの私も気になった。
女神様が嫌うってどういうこと?
「精霊魔法を使うと、被害が大き過ぎるからな。意図的に天災を呼ぶようなものだ。時代の流れと共に『精霊使い』の才能を持つ者は、減っていった。女神様がスキルを与えないようにしたのだ」
「でも、マコトさんは太陽の女神様の神託を受けたと……」
「そう言っていたな……」
白竜師匠は、わずかに眉に皺を寄せ考えるように顎に手を沿えた。
「私は精霊使いくんが、この世界の人間ではないんじゃないかと思っている」
「この世界の人間ではない?」
「ど、どういうことですか……?」
「精霊使いくんと話していると、なぜかこの世界の常識に疎い。そして、突然変異したかのような異常な精霊魔法の使い手であること。数百年に一度くらいの割合で現れる異世界人の特徴に合致している」
「マコトさんが……」
「異世界人……?」
想像もしなかった言葉に、私は頭が追いつかなかった。
「私の勝手な予想だぞ? 的外れかもしれん。気になるなら本人に質問すればいい」
「白竜師匠は、気にならないのですか?」
「気にはなるさ。だが、本人が何も言わないなら隠したいのかもしれんからな」
「むぅ」
知りたい。
マコト様のことなら、何でも知りたい。
よし!
帰ってきたら、色々質問してみよう。
そういえば、出会った頃によく読んでいた本を最近は読まなくなっていた。
最近は、修行の合間に文字を習っているから貸してもらってもいいかもしれない。
それから毎日魔法の修行をして、マコト様の帰りを待った。
「待ち遠しいですね、アンナさん」
「うん、え! いや……僕は別に……」
「いい加減、認めましょうよ。マコト様が好きだって」
「ち、違うよ! 僕はマコトさんを尊敬しているけど、好きだなんて!」
「この前、寝言で言ってましたよ。マコト様のこと」
「へっ!? う、嘘だ! 嘘だよね? モモちゃん!」
「さぁ~?」
まあ、一回だけ「マコトさん……」って寝ぼけたアンナさんが言ってただけなんだけど。
慌てるアンナさんが面白かったので、詳しくは説明しなかった。
――やがてマコト様が戻ってくる日になった。
白竜師匠が待ち合わせ場所に、迎えに行った。
私はソワソワしながら、帰りを待った。
(帰ってきた!)
私とアンナさんは急いで迎えに行って、……マコト様の姿を見て言葉を失った。
表情は暗く眼は虚ろだ。
こんな顔を見たことが無い……。
いつも綺麗にしている服装は、ボロボロになっていた。
足取りはおぼつかなく、ふらふらと神殿に向かって歩いていった。
「あの……マコト様……?」
私がオロオロしながら話しかけたが、何も答えてもらえず、マコト様は倒れるようにベッドに横たわった。
マコト様ー!? 何があったんですかー!!











