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【本編完結】信者ゼロの女神サマと始める異世界攻略  作者: 大崎 アイル
第十章 『千年前』編

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237話 高月マコトは、大迷宮を再探索する

 俺と大賢者様(モモ)と勇者アベルは、大迷宮の地底湖の()()進んでいる。

 水魔法の『水面歩行』と『水流』を使い、水上スキーのように移動している。


「師匠ー! 速いですねー!!」

 モモは楽しそうだ。

 

「マコトさん! 後ろから魔物たちが追ってきますよ!」

「ん?」

 振り返ると確かに、大海蛇(シーサーペント)水棲馬(ケルピー)が追いかけてきている。

 どうやら、俺たちを襲おうとしているようだ。

 俺に速度(スピード)勝負を挑むと? 面白い。


「じゃあ、加速するんでちゃんと掴まってくださいね」

「「え?」」

 俺の言葉に、二人の声が聞こえた。



 ――水魔法・WATER JET



 俺が遊びで作ったオリジナル魔法である。

 次の瞬間、自由落下にも似た加速度が身体を襲った。

 爆発のような水しぶきが上がる。

 そして、後ろから追いかけてきている魔物たちを遥か後方に引き離した。

 大海蛇(シーサーペント)水棲馬(ケルピー)が、ポカンとしているのがちらと見えた。


「きゃあああああ!」

「うわあああああっ!」

 地底湖内にモモとアベルの悲鳴が響き渡った。




 ◇




「師匠ぉ~、振り落とされるかと思いましたよー、ヒドイです!」

「マコトさん……あんなにスピードを出す必要ありませんよね?」

「あ、はい、すいません」

 大賢者様(モモ)と勇者アベルに怒られた。


 俺たちは現在、地底湖の端に居る。

 ここには、巨大な水没した洞窟がある。

 大迷宮の下層へ続く道であり、前回の冒険ではこれ以上進んでいない。

 というか、ここで忌まわしき竜が出てきた。

 懐かしい。


「二人は俺と手を繋いでください」

「はい、師匠」

「わかりました、マコトさん」

 俺は二人と手を握り、水魔法を使う。



 ――水魔法・水中呼吸&水流



 俺たちは、水中洞窟の中を進んだ。

『隠密』スキルで、気配も消している。

 真っ暗な洞窟の中を『暗視』スキルで、見回す。

 

 巨大な水棲の魔物が多い。

 あの10メートルくらいありそうな影は……(さめ)の魔物だろうか?

 なんで、淡水に鮫がいるんだよ。

 他にも巨大な大海蛇や、水竜の姿も見える。

 見つからないように進もう。


「あの……マコト様? どうして急に大迷宮の最深層に行こうと思ったのですか?」

「大迷宮の奥に巣食うのは古竜たちだと聞きます。危険ですよ……?」

 モモと勇者アベルは、心細そうに俺に質問してきた。

 大迷宮の巨大な魔物に怯えているようだ。


「まあ、行けばわかるよ」

「はぁ……」

「そうですか……」

 俺は曖昧に誤魔化した。

 勿論、何の目的もなく大迷宮の最深層なんて、危険な場所に行くはずが無い。

 明確な目的がある。


 俺は、かつての記憶を掘り起こした。


 あれは、俺が異世界に来て間もない頃。

 水の神殿の図書館で、色々な書物を読み漁っていた時のことだ。




 ――『五大陸冒険記』(著:冒険家ユーサー)




 百年以上前に書かれた偉大な冒険家が記した記録書。

 異世界に来てから、周りに取り残されて一人寂しく勉強をしていた時、その本と出会った。

 俺はその本がとても気に入って、何度も繰り返し読んだ。

 そこには、この世界の様々な迷宮、秘境について書いてあった。


 無論、西の大陸最大の大迷宮(ラビュリントス)についてもだ。

 五大陸冒険記・西の章。

 そこにこんな一節がある。




 ――冒険家ユーサーは、大迷宮(ラビュリントス)を訪れた。

 目的はかつて世界を救った救世主アベルを乗せ、天空を飛翔した聖竜を一目見たいがためである。

 千年前、救世主アベルは大迷宮の最深層で、白き聖竜と出会い共に世界を救うと約束した。

 その契りの通り、救世主アベルは聖竜の背に跨り、魔王たちを打倒したのである。


 冒険家ユーサーは、伝説の聖竜との出会いを期待して、胸を躍らせた。

 伝説の竜と会えるのだ!

 しかし、大迷宮(ラビュリントス)の最深層に聖竜は居なかった……。

 救世主アベル同様、伝説の聖竜もまたいずこかへ去ってしまったのだ――




 こんな文章だ。

 この記述が正しければ、俺が居た千年後では大迷宮(ラビュリントス)を探索しても、聖竜とは出会えない。

 

 しかし、今は千年前。

 間違いなく、伝説の聖竜は居るはずだ。

 そして、俺の隣には光の勇者アベル。

 きっと力を貸してくれる!


 あと……、この時代は移動手段が徒歩だけである。

 正直、ずっと徒歩は辛い。

 早めに『足』を確保したい。

 そんな目的だった。

 当たり前だが、モモと勇者アベルには説明できない。

 俺が未来人だと、明かしていないのだから。


 ちなみに、冒険家ユーサーさんは『海底神殿』にも挑んでいる。


 というか彼は世界に三つ存在する最終迷宮(ラストダンジョン)、全てに挑んでいる。

 『海底神殿』に関する記述はこうだった。




 ――冒険家ユーサーは、海底神殿へと挑んだ。…………………………………………無理だ。諦めよう。




 なんでやねん、ユーサーさん。

 もうちょっと、頑張ってくださいよ。

 海底神殿が人気が無い理由に一つは、間違いなく冒険家ユーサーの記録書の所為もあると思う。

 俺だって当時、この文章を読んで海底神殿はご遠慮したいと思った。



 そんなことを思い出しながら、俺はゆっくりと大迷宮の下層を進んだ。

 水中洞窟は、長く暗い。

 永遠に続くかと思われたが、終わりは唐突に訪れた。


 水中洞窟の行き止まりにぶつかったのだ。



「……これは、道が途切れていますね」

 この(ルート)は、外れだったようだ。


「これ以上は進めそうにないですね」

 俺の呟きに、勇者アベルも同意見のようだった。

 残念だけど今回の冒険はここまでか。

 引き返そう、と思った時だった。


「あの、師匠。あっちに何かありませんか?」

「ん?」

 モモが俺の手を掴んで、洞窟の隅を指差した。

『暗視』スキルを使っても、良く見えない。 

 俺は水魔法を使って、ゆっくりモモの指さすほうへ近づいた。


 そこには転移の魔法陣が描かれてあった。


「モモ、よく見つけたな」

「僕も全く、気付きませんでした」

 俺と勇者アベルが驚く。


「えへへ、吸血鬼(ヴァンパイア)になって目が良くなったみたいです」

 モモが照れたように笑みを浮かべた。

 俺は転移の魔法陣をじっくり調べた。


「飛び先は、そんなに遠くないですね。距離的に、深層への転移かな……?」

「マコトさん……、うかつに転移はしないほうが」

「これは多分、迷宮(ダンジョン)が造った天然の転移魔法陣ですね。大丈夫ですよ」

 迷宮(ダンジョン)は探索者を奥地へと誘うため、あえて行き止まりに転移魔法陣を発生させるらしい。

 お目にかかったのは、初めてだが。

 なんか迷宮(ダンジョン)探索って感じがするな!

 テンション上がる!


「行っていいですか?」

 俺がワクワクした顔で聞くと、勇者アベルとモモは顔を見合わせた。


「まぁ、マコトさんがそう言うなら僕は従いますが……」

「師匠の言葉は、絶対です!」

 二人とも素直だ。

 別に反対してくれてもいいんだけど……。

 まあ、ここは我を通させてもらおう。


 俺は二人と手を繋いだまま、魔法陣の上に立った。

 次の瞬間、空間転移(テレポート)が発動した。




 ◇




 空間転移(テレポート)で飛ばされた先は、水中では無かった。

 巨大な洞窟の中で、所々がぼんやりと光っている。

 光の正体を見ると、それが高純度の魔石だと気づいた。

 ここは……?



 ――大迷宮の深層。その近くには『星脈』が流れている。

 そのため、星脈からの魔力(マナ)に当てられ、天然の巨大な魔石がゴロゴロと転がっている。

 それを売れば、ひと財産になるだろうが、はたしてそこまでする価値はあるのか?

 大迷宮の深層は『竜の巣』であり、古竜(エンシェントドラゴン)までも生息している。

 生きて帰れる保証はない。  (参考文献:五大陸冒険記・西の章)




 ここは、大迷宮の深層だ。

 そして、幸いにも見える範囲には魔物は居ない。

 もっとも『索敵』スキルによって、洞窟の奥からは獰猛な魔物の気配がする。



「アベルさん、モモ。ここらで、一回休憩しましょう」

「は、はい……。マコトさん、ここは……?」

「大迷宮の深層です。この先には、今までより強い魔物がいるはずです」

「マコト様は休憩しなくて大丈夫なのですか……?」

「交代で休憩するよ。モモは先に休んでくれ」

「わかりました」

 大賢者様(モモ)が真剣な表情で頷いた。


 俺は、二人の服を水魔法で乾かした。

 そのあと、持ってきたパンとハムで簡単な食事をとった。

 勇者アベルとモモは持ってきた毛布に包まり横になった。

 ほどなくして、寝息が聞こえる。

 二人が休んでいる間、俺は見張りだ。

 

 迷宮内は静かだ。

 薄暗い洞窟内を、輝く魔石がぼんやりと照らしている。



「ルーシー、俺は大迷宮(ラビュリントス)の深層まで来たぞ」



 俺は小さく呟いた。

 かつて、中層で引き返したのが、随分前のことに思える。

 ルーシーとさーさんは、今頃何をしているだろうか? と考えて気付いた。

 二人が居るのは千年後だ。

 どっちもまだ、生まれてすらいない。


 ……修行するか。

 俺は太陽魔法と運命魔法の練習をした。


 修行しつつ、これからのことを考える。

 大迷宮の深層、……思いの他あっさり到達できた。

 もう少し、何回かに分けて探索をするつもりだった。


 食料は、それほど多く持ってきていない。

 明日は、進める所まで進んで引き返すかな……、そんなことを考えた。

 その時、ぶるりと空気が蜃気楼のように揺れた。




 ――XXXX、XXXXXXXXXXX?(我が王、退屈そうですね? お話し相手になりますよ)




水の大精霊(ウンディーネ)……?」

 蒼い肌の美少女が隣に座っていた。

 呼んでいないが、勝手に来たらしい。

 でも、ちょうどいい。

 暇をしてたのは、確かだ。

 それに聞きたいことがあった。


「なぁ、水の大精霊(ウンディーネ)。どうして俺が王なんだ?」

 俺の問いに、彼女は笑みを浮かべた。


「それはあなた様が()()()我々の王になられるからです。わたしにはそれがわかるのです……」

 うっとりとした顔で答える水の大精霊(ウンディーネ)

 いずれ、か。

 それは、千年後に俺が太陽の勇者(アレクサンドル)と戦って、精霊そのものになってしまった時のことだろうか?

 女神様は、あれを『精霊王』というのだと教えてくれた。




 ――そして、俺の魂は『ノア様の制約』によって、二度と『精霊王』に成ることはできない。




 千年前にきて、試したことがある。

 右手だけの『精霊化』は可能だったが、全身の『精霊化』をしようとすると気絶してしまうのだ。

 ノア様の信者を止めても『魂の制約』は外れないらしい。


 俺は、ニコニコしている水の大精霊(ウンディーネ)を見つめた。

 この子は、俺が『精霊王』に成ることを期待している。

 だが、俺にはもうできない。

 まるで騙しているみたいで、気が引ける。

 俺が何とも言えない気分になってる時だった。


「ところで……我が王。お願いがあるのですが……」

 水の大精霊(ウンディーネ)が、遠慮がちに俺に腕を絡めてきた。

 彼女の身体は、当然水で出来ているのだが、膨大な魔力(マナ)を含んだその精霊体は体温のように温かかった。


「な、なにかな?」

 水の大精霊(ウンディーネ)のお願い……。

 一体、何をさせられるんだ?

 

「名を呼んでいただけませんか……?」

「名前を呼ぶ?」

「はい。そうなのです……」

「えーと、じゃあ。名前を教えて?」

 なんだ、そんなことかと安堵する。


「名前はありません」

「………………はぁ?」

 意味がわからん。

 俺の疑問を解消するように、水の大精霊(ウンディーネ)が言葉を続けた。


「我が王。どうか、わたしに名前をお付けください……」

「俺が名前を付ける……?」

 えーと、名前を呼んでってのは、名づけをしてから、名前を呼んでって意味か。

 なるほど。


 俺はもう『精霊王』には成れないが、それくらいならできる。

 何度も助けて貰っている水の大精霊(ウンディーネ)の頼みだ。

 断る理由はない。

 ただ、急に言われてもすぐには思いつかない。


「名前、なまえか……難しいな」

「我が王がつけてくださるなら、どんな名前でも結構です」

「そう言われてもな……」

 ワクワクと目を輝かせる水の大精霊。

 水の大精霊の名前、ウンディーネ……うーむ。

 アクアマリンとか……? いや駄目だ。

 キラキラネームをつけるわけにはいかない……。

 そうだなぁ。


「じゃあ、ウンディーネからD(ディー)の文字を取って、あと俺たちはティターン神族のノア様を信仰しているから……Aの文字をノア様からお借りしようか」

 恐れ多いかな? という思いが一瞬頭をよぎったが、ノア様だし「そんな細かい事気にしないわよ」って笑って許してくれそうな気がする。

 我らが女神様は寛容だ。


「決めたよ」

「はい!」

「君の名前は……」



 ――Dia(ディーア)



「ディーア、でどうかな?」

 俺が告げると、水の大精霊(ウンディーネ)は呆けたような顔をした。

 あれ? 気に入らなかった?


「…………、Dia……ディーア、……ディーア、何と素晴らしい名前!」

 よかった、気に入らないわけじゃなさそうだ。


 その時、水の大精霊(ウンディーネ)の身体が突然輝いた。


「え?」

 水の大精霊(ウンディーネ)に、いや『Dia(ディーア)』に(おぞ)ましいほどの魔力(マナ)が集まる。

 呼応するように、大迷宮が大きく揺れた。

 Dia(ディーア)の身体から溢れる魔力で、地面が、壁が、空気が()()()()()

 って、これはマズい!


「す、ストップ! ストップだ、ディーア!」

「は、はい、申し訳ありません、我が王……。あまりの嬉しさに喜びが抑えきれませんでした」

「…………」

 水の大精霊(ウンディーネ)が、ぺこぺこと頭を下げた。


 俺は、()()()()()凍りついた深層を眺めた。

 どうやら、水の大精霊(ディーア)が喜んだだけで、こうなってしまったらしい。


 ……俺はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。

■感想返し:

 前から質問があった寿命の設定を書きます。きちんと説明してなかった。

 人間……100歳前後。

 エルフ……300~500歳

 ドワーフ……200~300歳

 魔物、魔族は個体による。

 こんな感じで、種族別に限界値があります。マコトがいくら『貢献』しても、種族の限界以上の寿命にはなりません。千年生きるのは無理ですね! ちなみに『神族』の寿命は『永遠』です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読み返してたらこんなとこにユーサー王いたんね、ユーサー王の種族なんだっけ?
[一言] あ〜…ここのあとがきでしっかり伏線はってるのすごいなぁ
[一言] 海底神殿攻略予定なら送ってもらってください ついでに娶とる予定で(笑)
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