227話 高月マコトは、救世主と出会う
――雷の勇者アベル
土の勇者さんは、確かにそう告げた。
光の勇者と呼ばれていないことは気になったが、救世主アベルは『光の勇者』スキルと『雷の勇者』スキルの二重勇者スキル保持者。
だから、間違いないはずだ。
「……他の人たちも檻から解放しよう。モモ、行こう」
「はい、マコト様」
「助かる、あんたが何者か、あとで教えてくれ」
俺たちは、小声で会話しつつ残りの檻に向かった。
隣の檻で縛られていたのは、髪の長い女性だった。
この人が、『木の勇者』ジュリエッタさんだろう。
俺は彼女を縛っている鎖を短剣で切った。
そして、その奥の檻。
中に居たのは同い年くらいの線の細い青年だった。
暗がりではっきり見えないが、輝くような金髪に整った顔をしている。
俯いていて、表情は見えない。
彼が……救世主アベル?
水の神殿で、様々な場所で散々聞かされてきた伝説の人物。
ついに伝説の勇者と対面することができた。
その事実に密かに感動しつつ、俺は土の勇者さん同様に、女神様の短剣で檻と鎖を切断した。
「その短剣……一体、何でできてるんだ?」
土の勇者さんが興味深そうに、俺の短剣を凝視している。
「あ、ありがとう……あなたは?」
「…………」
木の勇者さんに御礼を言われた。
雷の勇者は俯いたままだった。
「俺はマコトで、こっちがモモです。あなたたちを助けにきました。ひとまずここを離れましょう」
「だそうだ、行くぞ。ジュリエッタ、アベル」
「はい、ヴォルフ」
「…………はい」
どうやら三人の中で、土の勇者さんがリーダー格のようだ。
俺たちは霧の中を、見張りのガーゴイルに見つからないよう広場を離れた。
しばらく街の裏通りを進み、城壁付近までやって来た時。
――ガン!ガン!ガン!ガン!
大きな金属を叩く音と、「勇者が逃げたぞ!」「探せ!」という大声が聞こえた。
ち、バレたか。
「走るぞ!」
ヴォルフさんの掛け声に、俺たちは一気に城壁まで駆け抜けた。
城壁の高さは約三メートル。
俺やモモは飛行魔法が使えないから、どうやって乗り越えようかと考えていたら。
「ぬん!!」
野太い声と共に、ヴォルフさんが壁を拳で粉砕した。
壁に巨大な穴ができる。
流石、勇者。
その穴を通り、外側にある堀を飛び越え……られず落ちそうなところを、ジュリエッタさんに慌てて手を引っ張られた。
「だ、大丈夫?」
「ありがとうございます……」
なんで、二メートルくらいある堀をみんな簡単に飛び越えられるんだろう……?
つーか、モモって案外身体能力高いな。
「魔族共に気付かれる前に逃げるぞ!」
「ええ、ヴォルフ! にしても、この深い霧は助かりますね。この辺りでは珍しいですが……」
「この霧はマコト様が発生させたんです!」
「あら? そうなの? 凄いわね、こんな広範囲に」
「そうです! マコト様は凄いんです!」
木の勇者さんとモモが楽しそうに会話している。
仲良くなるの早くない?
「おしゃべりもほどほどに、な」
「………………」
土の勇者さんは苦笑し、勇者アベルは無言のまま。
暗い表情でずっと俯いている。
なんか、イメージと違うな。
それから、しばらく俺たちは走り続けた。
土の勇者さんや、木の勇者さん、勇者アベルは身体中傷だらけで、裸足だったが驚くほど走るのが速い。
俺たちは、暗い森の中を走り続けた。
何とか逃げ延びることができた。
◇
「いやぁ、助かった助かった!」
「はぁ~……、今回はもう駄目だと思ったわー」
俺たちは、土の勇者さんが魔法で造った洞穴でキャンプをしている。
焚火の近くでは、串に刺した野ウサギやら、野鳥を捌いたものが焙られている。
木の勇者さんが、仕留めたものだ。
肉の焼けるいい匂いがしてきた。
……ぐぅ~、とモモの腹が鳴った。
「はぅっ!」
モモが、赤くなった。
「お、嬢ちゃん。空腹なんだな。食ってくれ、あんたらは命の恩人だ」
「モモちゃん~、いっぱい食べてねー」
「いえ! マコト様が全部やったことでして……」
「モモ、食べておけよ」
俺はあんまり空腹でなかったので、モモに食べるよう促した。
モモは、木串に刺さった肉にかぶりついている。
俺はそれを微笑ましく眺める……振りをして『RPGプレイヤー』の視点切替を使って、三人の勇者を観察した。
『土の勇者』ヴォルフさん。
長身で体格が良く、全身についた傷は歴戦の証だろう。
初見の時は、ずっと厳しい表情だったが今は豪快に笑って焼けた肉を食べている。
「酒が欲しいな!」とか言ってるあたり、俺は水の街の熟練冒険者ルーカスさんを思い出した。
ルーカスさん、元気かなぁ……。
『木の勇者』ジュリエッタさん。
栗色の長い髪に、長い耳。
ジュリエッタさんは、エルフだった。
しかも、凄い美人のエルフだ。
服装はボロボロで、際どい位置の肌が見え隠れしているが、それをあまり気にしている様子は無い。
モモが気に入ったようで、しきりに構っている。
モモも、年上の美人なお姉さんと話せて嬉しそうだ。
そして――
『雷の勇者』アベル。
透きとおるような金髪に、蒼玉のような青い瞳。
女性と見紛うような美形だが、筋肉や胸元から男性とわかった。
さきほどからまったく口を開かず、ぼんやりと焚火を眺めている。
「なぁ、アベル……、マコト殿とモモ殿へ御礼くらい言ったらどうだ?」
「そうよ、私たちを助けに来てくれたのよ?」
「……………………」
勇者アベルは、それでも何も喋らない。
「すまんな、マコト殿。アベルは先の戦いで親しい人を亡くしてしまって……」
「普段は、もっと明るい子なのよ?」
ヴォルフさんとジュリエッタさんの申し訳なさそうな声に、俺は首を横に振った。
「気にしてませんよ。勇者を助けるように神託したのは、太陽の女神様ですから」
「それよ、それ! ねぇ、マコトくんって何者? 勇者? でも女神様の声が聞こえるのって巫女よね? でもマコトくんは男の子だし、どーいう事!?」
「えっと……色々ありまして」
木の勇者さんが、今度は俺に興味を持ったのかぐいぐい迫ってくる。
ふわぁ、なんか良い匂いがする……。
ジュリエッタの性格、水の街の冒険者ギルドの受付嬢のマリーさんを思い出すなぁ。
おっと、そうだ。
雑談もいいけど、色々聞いておかないと。
「これからどこに行く予定ですか?」
俺とモモは根無し草だ。
できれば、彼らと一緒に行動したい。
「ああ、俺たちは拠点に戻るよ。よければ、マコト殿も一緒に来てくれないか? そこで色々と今後の相談をしたい」
お、拠点があるのか。
よかった。
「俺とモモは、行く当てが無いのでご一緒します。拠点ってどこなんですか?」
「えっとね、大迷宮って知ってる?」
教えてくれたのは木の勇者さんだった。
って、え?
「大迷宮ってダンジョンですよね?」
「そ、そこの上層に拠点を作ってるの。魔王が支配する西の大陸じゃ、月の国以外でまともな街が存在しないからさぁ……。ダンジョンに隠れるしかないの……」
はぁ~、そうやって身を隠してるのか。
魔物がいるダンジョンのほうが安全とは……。
「マコト殿は、一体どこから来たのだ? モモ殿は、牧場出身らしいが、マコト殿は違うだろう? あの強さで、魔物に攫われたとは思えない。しかし、この辺りの地理には疎いというのが、よくわからんなぁ」
土の勇者さんが不思議そうに尋ねてきた。
「遠い国からやってきまして……」
千年後からやってきました、とは言えないので曖昧に誤魔化した。
「よし、おしゃべりはこれくらいにしよう。仮眠をとって、一気に拠点まで急……」
ヴォルフさんの言葉が途中で途切れた。
ズシン、と足元が揺れた。
魔法を撃ちこまれた!?
「いるぞ!」「勇者か!?」「わからん、とりあえず殺せ!」「魔王様に逃がしたことがバレれば、我々が殺されるぞ!」
そんな声と、大勢の足音や聞こえた。
追手か!?
「見つかったか! 行くぞ、アベル! ジュリエッタ!」
「あー、もう最悪!」
「マコト様!?」
土の勇者さんは、勇者アベルの肩を叩き、木の勇者さんはキー! と頭を掻きむしっている。
俺は青い顔をしているモモの手を引っ張った。
……一口くらい、肉を食っておけばよかった。
「うおおおお!」
洞穴につっこんできたガーゴイルを土の勇者さんがぶん殴った。
そのまま外に飛び出すのに、俺たちは続いた。
「うわっちゃー、囲まれてるなぁ」
木の勇者さんの言う通り、ざっと見ただけで魔物や魔族が百体近くいる。
正面に、巨大な犬の魔物が見えた。
こいつら、猟犬か。
匂いを辿られた?
「モモ、離れるな」
「はい、マコト様!」
俺はモモの手を引き、守るように短剣を構える。
一昨日からほとんど眠れていないので、少し集中力が落ちてるのを感じた。
「勇者だ、捕らえろ!」「無理なら、殺せ!」「ヴオオオオオオ!」
次々と魔物が襲ってくる。
どいつもこいつも、結構強い。
「水魔法・水龍」
俺に突進してくる魔物を、水魔法で追っ払った。
連日、水の精霊から魔力を借り続けているせいか、少し出力が弱い。
が、俺よりも心配なのは勇者の面々だ。
なんせ、捕らえられている時と同じ服装なので、布の服に素手だ。
土の勇者さんは、十体くらいの魔物と素手で渡り合っている。
木の勇者さんは、その辺の植物を木魔法で即席の鞭を作って応戦している。
その動きは淀みなく、熟練の技を感じた。
……心配なのは、雷の勇者だ。
ふらふらと、魔物の猛攻を凌いでいるが覇気がまるで無い。
大丈夫か……?
幸い土の勇者と木の勇者は強かった。
ほとんど、二人で魔物を倒してしまった。
なんで、捕まったんだこの人たち?
俺は、合間合間で水魔法で二人をフォローした。
(よかった、なんとか凌げそうだ……)
ほっと、一息つきそうな時。
「アベル!!」
ジュリエッタさんの悲鳴が聞こえた。
見ると足を滑らせたのか、勇者アベルが尻もちをついている。
その上から飛竜に乗った骸骨騎士が槍を構え突撃していた。
ま、マズイ!
俺は慌てて、水の精霊を呼んだ!
精霊さん! 助けてくれ!
水の精霊が一匹だけ、現れる。
「マコト様!?」
俺がアベルに気を取られているうちに、すぐ隣を巨大な獣が通り過ぎた。
「モモ!?」
気が付くと、モモがグリフォンの鉤爪に捕らえられていた。
グリフォンは、ぐんぐん上昇していく。
「え?」
一瞬、状況に頭が追い付かなかった。
数秒後に串刺しになりそうな勇者アベルと、連れ去られている少女。
――勇者アベルが死ねば、世界が終わる。
太陽の女神様の声が頭の中で響いた。
考える暇は無かった。
「水魔法・龍爪」
俺は短剣に纏わせた水の精霊の魔力を刃にして、飛竜と骸骨騎士に放った。
魔物がバラバラになる。
慌てて振り向いた時、モモを攫ったグリフォンは遥か上空で小さな影になっていた。
「勇者共! こいつの命が惜しければ、魔王城まで来い!!」
「マコト様ーー!!」
『聞き耳』スキルで、なんとかその声を拾えた。
その後、土の勇者さんと木の勇者さんの奮闘で、魔物たちを退けることができた。
勇者アベルは、相変わらず暗い表情で黙ったままだった。
魔物は撃退できたが、誰も明るい顔はしない。
「どうする? ジュリエッタ」
「決まってるでしょ! モモちゃん助けなきゃ!」
ヴォルフの問いに、ジュリエッタさんが即答した。
どうやら、彼らは魔王城へ向かう気らしい。
この人たちは……骨の髄まで勇者だな。
が、ここで魔王城に戻られたら折角助けた意味が無い。
「土の勇者さんたちは、拠点に向かってください」
「え? モモちゃんは!?」
「何を言ってるのだ! マコト殿!?」
俺の言葉に、三人の勇者が驚いた顔をした。
……アベルの表情が少し歪んだ。
「まともな武器も防具もなくて魔王城に戻っても、殺されに行くだけですよ」
「「「…………」」」
三人ともボロボロの布の服に素手。
俺の言葉に、反論は無かった。
「あとで、俺も合流しますから。大迷宮の上層に拠点があるんですよね?」
「え!? マコトくん、私たちが拠点に戻ってあなたはどうするの!?」
ジュリエッタさんが、目を丸くした。
そんなもん、決まってる。
「俺はモモを助けに、魔王城へ向かいます」











