212話 高月マコトは、目を覚ます
目を開くと知らない天井だった。
つーか、天井が高い。
天井まで10メートル以上ある。
そして天使やら神様やらの壁画とステンドグラス。
何処だ、ここ?
俺が周りを見回そうと思った次の瞬間、何かが目の前に飛び込んできた。
「マコト!」「高月くん!」
ルーシーとさーさんだった。
うぐっ……、苦しい。
凄い力で抱きしめられた。
「る、ルーシー、さーさん……」
落ち着いて、と言おうとして言葉に詰まった。
ルーシーとさーさんの顔が、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
あ、あれ……これってどんな状況?
確か俺は、太陽の勇者と戦って、そのあと………………思い出した!
「さーさん!」
「な、何? 高月くん?」
「太陽の勇者にやられた怪我は!?」
「えっ、私は全然平気だよ。『残機』スキルで復活したし、ほら」
と言って服をまくってお腹を見せられた。
傷一つない、綺麗なお腹だった。
「触ってみる?」
俺の手がさーさんのお腹に持ってこられた。
すべすべだ……。
って、違う。
「わ、わかったから」
少し照れつつさーさんの服を戻して、手を離した。
「ちょっとぉ、アヤばっかり心配するのぉ」
少し拗ねたようにルーシーが俺を抱きしめてきた。
「悪い、ルーシーも大丈夫?」
「うん、平気」
と言って胸に顔を埋めてきた。
さーさんも、再び抱きついてくる。
「勇者マコト」
後ろから声をかけられた。
「ソフィア?」
「バカ……」
優しく顔を両手で挟まれた。
その顔は泣いていた。
……あれ、俺ってどうなったんだ?
いまいち記憶がぼやけている。
「水の女神様に、あなたが死んだと伝えられた時は……私……わたしは……」
「………………ごめん、ソフィア」
そうか。
精霊への変化の代償で、俺は死んだのか。
「高月くん!」
次に駆け寄ってきたのは、桜井くんだった。
「や、なんか心配かけたみたいで」
「……本当だよ。でも良かった」
泣きそうな笑顔を向けられた。
そうだ、フリアエさんは!?
俺は、キョロキョロと見回し、少し離れて立っている黒髪の美女を発見した。
フリアエさんは、美人に似つかわしくないくらい大口を空けてポカンとしている。
「おーい、ひめ……」
立ち上がってそっちに行こうとした時。
「た、高月くんっ! 何か着た方がいいんじゃ……」
「ん?」
その時、初めて気づいた。
――全裸だった。
(うぉおおおおおお! なんでや!)
ルーシー、さーさん、ソフィア王女、誰も教えてくれない!
「高月マコト、これを着なさい」
「あ、ありがとうございます」
いつの間にか、近くに立っていた運命の女神の巫女さんが俺にローブのようなものを手渡してくれた。
慌てて、それを着込む。
ふぅ、助かった。
改めて周りを見た。
俺のパーティーメンバー以外だと、ソフィア王女と護衛の人たち、ノエル王女とその護衛、桜井くん、そして運命の女神の巫女さん。
変な面子だな。
当然というか、太陽の勇者はいない。
教皇の姿も無いようだ。
俺は疑問を一つ口にした。
「俺を生き返らせてくれたのは、運命の女神様ですか?」
と巫女エステルさんの方を見て、質問した。
「……そうです。私が復活の奇跡を使いました」
「「「「「!?」」」」」
その言葉に、俺よりも周りがざわめく。
そして、次々に周りの人間が距離を取った。
「運命の女神様……降臨されていたのですね」
皆を代表して、ノエル王女が口を開いた。
その言葉に、ノエル王女の護衛や、ソフィア王女の護衛、はてはルーシーまで跪く。
慌てて桜井くんやさーさんも膝を折った。
女神様の降臨という場面。
本来なら、俺も倣うべきなのだろう。
が、俺としては一言、文句を言っておきたかった。
「イラ様。太陽の勇者は、何なんすか? 酷い目にあったんですけど。ちゃんと、管理してくださいよ」
「ま、マコト様!?」
「勇者マコト!? そのような言い方はっ!?」
ノエル王女とソフィア王女が真っ青な顔をした。
大丈夫大丈夫。
イラ様って案外優しいから。
「太陽の勇者の件は、これから説明します。あと案外という言葉は訂正しなさい。私は慈愛に溢れています」
「へーい」
「ノアの子は、口が悪いですね……。まあ、いいでしょう」
やっぱり許してくれた。
イラ様はツンデレ女神やな。
そうだ、ノア様ともお話したい。
死んじゃったこと怒ってるだろうなぁ……。
ノア様ー?
視てますー?
(………………)
返事が無い。
怒っているのだろうか?
「ノアは視てますよ。今は私が『神域結界』を展開しているため、ノアの声が届きません」
運命の女神様が声をかけてきた。
なるほど。
あとで謝ろう。
「さて、次に」
運命の女神様が言葉を続ける。
「今回の顛末を、ある御方から説明していただきます」
そう言いながら、大聖堂の中央に巨大な魔法陣が現れた。
虹色に輝く魔法陣。
魔法術式は『召喚』。
誰を呼ぶんだろう?
運命の女神様からは、洪水のような魔力が溢れ出ている。
それが全て、その召喚術式に吸い込まれていく。
この魔法……人間には、無理だな。
発動前に魔力が枯渇する。
巨大な魔法陣から光り輝く何かが出てきた。
「えっ?」
小さくノエル王女の驚きの声が響いた。
現れたのは、すらりと背が高く金髪に真っ白な鎧を着こんだ美女。
直視ができないほどの後光が差している。
人ではない。
直観的に、次元の違う存在だということがわかった。
「おもてをあげよ」
そう言われ、気付いた。
ノエル王女、桜井くん、ソフィア王女だけでなく。
ルーシーもさーさんもフリアエさんすらも。
全員が跪いていた。
首を垂れ、呼吸を忘れたように
ぼんやりと、突っ立っていたのは俺だけだった。
あ、いやもう一人。
運命の女神の巫女も神妙な顔で立っていた。
……俺も跪いたほうがいいんだろうか?
運命の女神の巫女と目が合ったが、何も言われなかった。
イラ様ですら口を開くのを、控えている様子だ。
イラ様ですら言葉を慎む。
つまり、この御方は……
「太陽の女神だ」
俺の心の問いに答えたわけではないだろうが。
やや、ぶっきらぼうな口調。
目の前に、世界の支配者が現れた。











