156話 高月マコトは、王都を散策する
「体調はどう? さーさん」
さーさんは、無事ラミアの女王に進化した。
ちなみに進化の様子を、俺は見せてもらえなかった。
立ち会ったのは、ルーシーやニナさん。
くそ、何でだ!
(はぁ、マコトって……)
(ソフィアちゃん、苦労しそうー)
何すか、女神様。
「高月くん、身体が怠いかも……。今日は一日寝てるよ……」
「さーさん、医者に診てもらったほうがいいんじゃないかな?」
現在、久しぶりにさーさんはラミアの姿に戻っている。
そして、ベッドの上でゴロンと横たわっている。
大蛇の下半身がベッドからはみ出ているけど。
「アヤ……、大丈夫かしら」
「私の回復魔法でも効果が無いようです……」
ルーシーとソフィア王女も心配げにさーさんを看ている。
「でも、顔色はいいし魔力の流れも淀みないから、私の見たところ問題ないわよ。むしろ身体能力が竜並みに強化されてるわね」
フリアエさんの見立てだと、さーさんは竜クラスの身体を手に入れたらしい。
「タッキー殿。佐々木殿は、進化によってレベル99からレベル1にリセットされております。その急激な変化に身体が戸惑っているのでしょう。しばらくは安静にしているのが良いと思われますぞ」
「そっか……わかった、念のため口の堅い医者を探して欲しいんだけど」
「高月様! ご心配なく、既に手配済みデス!」
流石、ふじやんとニナさん。
気配りが完璧だ。
「ねぇ、アヤ何かいる?」
「うーん、甘い物が食べたい……」
「じゃあ、果物でも剥いてあげるわ」
「わーい」
ルーシーがさーさんの相手をしている。
うーん、俺の出番なさそうだなぁ。
その時、
「ソフィア様。お客様がいらっしゃいましたっ!」
守護騎士のおっさんが走ってきた。
「今は立て込んでいると断わりなさい」
ソフィア王女がピシャリと言った。
「そ、それが……」
「お邪魔するわね、ソフィア」
戸惑うおっさんの声を遮って入ってきたのは、褐色の肌に踊り子のような薄着の女性だった。
ただし、身に着けているアクセサリや靴などが、相当高価なものに見える。
後ろには、ボディーガードらしき屈強な戦士が二人。
(火の国の貴族か……?)
ソフィア王女を呼び捨てるあたり、一般人ではあるまい。
「ダリア、急に来るなんて……」
ソフィア王女が、困惑した表情で対応している。
ダリア、という名前には聞き覚えがあった。
――『火の女神の巫女』ダリア・ソール・グレイトキース
(……この人が火の国の巫女)
言われてみると、ソフィア王女と同じく高貴な雰囲気を纏っているようにも見える。
あっ! しまった、さーさんが蛇女の姿のままだった!
後ろに視点を向けると、ルーシーがぱっと毛布でさーさんの下半身を隠していた。
ナイス!
「あら、そちらで寝ているのが今度の武闘大会に出場する戦士さん? あとは、あなたがソフィアの婚約者で水の国の勇者マコトかしら。この前は、私の守護騎士が無礼を働いたようでゴメンなさい。許して下さる?」
あまり誠意を感じない謝り方をされた。
火の女神の巫女の守護騎士は、――オルガ・ソール・タリスカー。
別名、灼熱の勇者。
俺たちに絡んできた、例の戦闘狂の勇者である。
火の女神の巫女と灼熱の勇者は、幼馴染みらしい。
麗しき見た目の二人は、火の国においてアイドル的な人気があるんだとか。
(もしかすると、火の女神の勇者を焚きつけた本人かもしれない……)
見た目が良いから、性格が良いってわけじゃないだろう。
むしろ腹黒いと思っておいたほうが、良い気がする。
「はじめまして、高月マコトです」
「お会いできてうれしいわ。水の国に比べると暑くて過ごし辛いでしょうけど、ごゆっくりして行ってくださいね」
そう言いながら、ギュッと手を握られた。
(近い)
が、ドキリとするより背中をひやりとする何かを感じた。
火の巫女ダリアの目は、俺を値踏みするような、商品を見るときの商人の目だった。
果たして彼女の目に、俺は黄金に見えたか、ガラクタに見えたのか。
「ダリア、離れなさい。何か用事があるのなら、私が対応します」
「あら、もう少し勇者マコトとお話したいのに」
「ダメです」
「あら、ケチ。でも久しぶりにソフィアともお話したいわ」
ソフィア王女が、火の巫女の手を引いて奥の部屋へ連れて行った。
火の女神の巫女、ダリア・ソール・グレイトキースは火の国の王族でもあるそうだ。
であれば、王族の相手は王族が一番だろう。
餅は餅屋。
(ソフィア王女に任せるか……)
さーさんは、ルーシーが看病している。
突如来訪した火の巫女は、ソフィア王女が連れて行った。
さて、手持ち無沙汰になったなぁ、と思っていたら、フラフラと外に出ようとする人物が目に入った。
「姫? どこか出かけるの?」
「散歩するだけよ」
肩に黒猫を乗せて、ふわふわとドアのほうに歩いているフリアエさん居た。
――『月の女神の巫女』に気を付けたほうがいい
水の女神様の言葉が、記憶に蘇った。
運命の女神様に警戒されている月の巫女フリアエ。
一人で行かせるのは、危ない気がする。
「俺もついていくよ」
「ふうん、珍しいわね。私の騎士。あらあら、そういえば私の守護騎士だっけ?」
「一人は危ないだろ」
「はっ、適当に魅了して逃げるから平気よ」
などと強がっているが、後をついていくと特に拒否されなかった。
◇
「暑いわね」
「そりゃ、熱帯気候だからね」
「水の精霊を操って、涼しくしなさいよ」
「水の精霊なんてどこにも居ないよ」
マジでどんなに見渡しても、精霊の影すら見えない。
きっついわー、火の国。
「~♪」
ただ、暑い暑いと文句を言いつつ、フリアエさんの横顔は楽しそうだ。
キョロキョロともの珍しげに、王都の店を見て回っている。
「何か買う?」
露店に売られている服を、興味深げに見ているフリアエさんに声をかけた。
「はぁっ!? あなた私にこんな露出の多い恰好をさせたいの? 変態かしら!」
フリアエさんが、心外だという目を向けてきた。
確かに、普段のフリアエさんは比較的肌を見せない服装を好んでいる。
だけど、この国じゃあそれは暑いだろうと思ったんだけど。
火の国の衣装は、がっつり肌を露出させたものが多い。
ルーシーが好きそうな服だ。
「大体ね、私がそんな恰好したら道行く男共を全員魅了してしまうのよ。そんなことをしたら火の国の女の子たちに悪いでしょう? わかった?」
ふふん、と髪を手で払いならがドヤるフリアエさん。
高飛車な仕草が、恐ろしいほど様になる。
それからもしばらく、ウロウロとしていたが急に「お腹が空いたわ」と言い出した。
確かに、少し空腹を覚える時間帯だ。
見ると昼時の客の呼び込みを始めているお店がちらほら見える。
「そこの店に入るわよ」
「へーい」
俺とフリアエさんは、適当な飲食店に入った。
店に入って、スパイスのきいたスープと、パリッとしたパンを食べた。
ココナッツミルクのような甘ったるい飲み物がセットでついてきた。
黒猫には、焼き魚を注文してあげた。
「変な味ねー」
と不思議そうな顔をしながら、美味しそうにフリアエさんは食べていた。
でも、俺には馴染のある味だった。
「カレーっぽいな、このスープ」
「なにそれ?」
「前にいた世界の食べ物だよ。俺の居た国だと、子供は全員カレーを食べて育つんだ」
「へぇ、じゃあ懐かしの味なのね」
確かに懐かしい。
この国に来てから、色々と大変だったけどご飯が美味しいのはうれしい。
今度、さーさんやふじやんも連れてこよう。
俺たちは、出てきた食事を楽しんだ。
「はふ、ちょっと眠くなったわ」
食事が終わって。
フリアエさんが、手に顎を乗せてこっくりこっくりとし始めた。
ほどなくして「くぅ~」と小さな寝息が聞こえる。
隣で黒猫も丸くなって寝ている。
(疲れてたのかな?)
連日のさーさんのレベル上げに付き合わせたからなぁ。
ありがとう、フリアエさん。
俺は、しばらく休ませておこうと思い、起きるのを待つことにした。
◇
フリアエさんが、寝て30分くらい経っただろうか。
「っ!」
急に、フリアエさんががばっと、身体を起こした。
目が見開き、汗ばんだ頬に黒い髪が張り付いている。
いつもの余裕のある態度でなく、初めて会った時のような何かに怯えるような目をしていた。
「姫? どうしたの?」
「……」
俺の問いに、すぐに答えずじっと挙動不審に周りを見渡していた。
「耳を貸して」
俺の髪を掴み顔を引き寄せた。
耳元でぼそっと呟いた。
「私の騎士……、火の国の人間が大勢死ぬわ……」











