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 また珍しいことが起きやした。茶屋から少し森の奥に行ったところで畑をやってるんですが、そこに行く途中で、倒れてる子供を見つけたんですよ。紺の服を着た男の子なんですが、服も体もボロボロで、行き倒れ寸前って奴でした。この辺りは本当に人里離れた所でして、よっぽどの用がなきゃ子供を連れてなんてとおらねぇし、ましてや子供一人で来れるとこじゃない。どう考えてもおかしいんですが、まあ放っておける人間じゃないもんで、茶屋に運んで、一先ず寝かせておいたんでさぁ。

 子供は大事ないようで、暫くしたら目を覚ましやした。けどどうも知らない家に寝かされてるのに驚いたみてぇで、突然起き上がった時、尻から黄色い尻尾が生えてきた。要は狐が化けてたんですよ。全部あっしの目の前で起きたもんだから、狐の子はもう可哀そうなくらい狼狽えてやした。当然のことでさぁ。人に正体がバレた狐がどんな目に遭うかは、言うまでもありやせん。

「まあ、とりあえず落ち着いて。なにもしやせんから」

「……へ?」

 あっしみたいな対応をする人はまずいねぇんですよ。ただここにいて狐や狸に一々目くじらなんか立ててたら、生活なんかできやせん。

 少し落ち着く時間をあげたり、なだめたりして、漸くおちついてもらいやした。

「……もう大丈夫ですかねぇ」

 狐の子はあっしの出したお茶を飲み干して、ほうと息をつきやす。姿はさっきと変わらず、尻尾と耳が生えた人の姿のままです。

「うん……ありがとう」

 まだ緊張は抜けてないみたいですが、まあ、話せるようになってくれただけでも十分ですかねえ。

 その後、狐の子は色々と経緯を話してくれやした。

 なんでも、人が食べる何かの料理を食べたくって、家出してきたそうなんでさぁ。狐の間じゃ不吉な食べ物だそうで、親に大反対されたとか……。

「狐に不吉な食べ物ってあるんですかい? 油揚げが好きなのはよく聞きやすが……」

 あっしの言葉に、狐の子はちょっと不思議そうな顔をしやした。そんなに有名なんですかねぇ。

「卵焼きっていうんだけど……」

「ああ、なるほどそういうことですかい」

 前にどこかの稲荷さんが人に騙されたって話を聞いたことがありやす。その時狐は卵焼きが有名な店に連れ込まれたもんだから、卵焼きが嫌いになったとか……。まさか狐全員が不吉がるようになってたとは思いませんでしたねぇ。

「僕、昔一度だけ母さんと一緒に街に行ったことがあるんだ。そこで見かけてからずっと、食べてみたいなって思ってたの。けど母さんたちは認めてくれなくって……」

「それで飛び出してきちゃったんですねぇ」

「うん……」

 こりゃあ、もうやることは一つみたいですねぇ。

 その後少しして、狐の子はあっしが作った卵焼きをがっついてやした。偶然宍甘の旦那が来たあとだったんで、材料が揃ってたんでさぁ。

「どうですかい? 作ったのはずいぶん久しぶりだったんですがね」

 狐の子は、口の中に残った卵焼きを飲み込んで、幸せそうに息をつきやした。

「とっても美味しい」

 やっぱり、自分の料理を褒められると自然と顔が緩んじまいますねぇ。

「そりゃあ良かった。でも、わかってると思いやすが、親御さんや他の狐さんには内緒にしてくださいよ。あっしが仕返しされるかもしれないんでねぇ」

 狐の子は何度か頷きやした。

「もちろん。僕も怒られちゃうし……。このことはお兄さんとだけの秘密」

「ありがとうございやす。まあ……もしまたどうしても卵焼きが食べたくなったらあっしのとこに来てくだせぇ。材料があればまた作ってあげやすよ」

 その時狐の子が見せた顔は、忘れられないものになりやしたねぇ。

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