91.ジョンの話
91.
白い雪野原にユーリアとぼくは立ち尽くしていた。
「もし雪の嵐が来たら」とユーリアがいった。「この擂鉢状のところに雪が溜まって埋もれちまうかもしれないな」
ぼくは黙っていた。
「だけど」とユーリアは続けた。「丘のてっぺんを歩いたところで強い風が吹いてきたら飛ばされて転がり落ちるんだろうな」
「雪には詳しいのか?」ぼくは聞いた。
「全然。雪なんてほとんど見たことない。だって住んでるのは、さっき見た通りの温暖な森の近くだから。こんな寒いところ、おれには堪えるよ。さっさとおさらばしなきゃ」
「ぼくだってとんでもない。どうやったら帰れる? 何か方法はあるのか?」
「おれは背中に羽根がある。飛んで帰れると思う。その雪の嵐が来る前の話だけど」
「なんだって?」
「羽根は繊細で、寒さでどうなるか分からない。霜焼けってのになるかもしれない」
ぼくは言葉をいおうとして、何といっていいか分からないでいた。でもやっと口に出した。「羽根があるだって? 嘘だろう?」
「嘘じゃないよ。フム。これまでのおれだったらどうしてたかな。人間を見るのは二度目だっていったの覚えてる? 女のイザベラっていうのと馬が地下に閉じ込められてて、きちんと助けることもせず、その場を後にした……まぁ、イェンドートたちの手紙のせいでもあったんだけど」
「イザベラが閉じ込められてただって?」
「あんたたち、やっぱり知り合いか。あの人たちが助かるために何かの力が働いてるといいけど」
「そんなこと……」
「さっきのオバサ……、じゃなくて、スタティラウスがいってたことだけど、どう思った? おれは話半分で聞いておいたほうがいいって思ったよ。おれにはだんなに酒を飲ませるようにいってきたのはやっぱりスタティラウスだという気がするから。あの人は結局言い訳ばっかしてたよ。気が付かなかったかい? とにかく、こっちが真面目にはりきったって向こうの好きにされるばかりさ」
ぼくはユーリアの顔を見た。大きな目が少し物憂げなふうに見えた。
「どうしたらいい? ここを後にするには」ぼくは尋ねた。
「おれが飛んでいって仲間を呼んでくる。だんなを助けた後にはイザベラのところへも行く」
ぼくはユーリアを眺め、低く聞いた。「……ここの場所が正確に分かって、本当に戻ってこられるのか?」
ユーリアは沈黙した。そして小声でいった。「多分……。えっと、なるたけ」
ぼくは頭を抱えた。
ユーリアは背中をごそごそさせて薄い羽根を出して広げた。「雪の嵐が来る前に出発する必要がある」
「雪をしのげるような場所を見つけに行ってもいいだろう? きみが無事に戻ってくること前提だけど」
「歌うたいのだんな。……怒る気力もなくなったかい?」
「なくなったとも。嫌な予感てのはこれだったと思ってるところさ」
ユーリアは灰色の雲のなかを飛び立っていった。




