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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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90.ジョンの話

90.ジョンの話

 スタティラウスを丘のてっぺんに残し、ぼくたち三人は、――いや、二人と一匹は――、丘を下った真っ白な場所で向かい合っていた。

 彼女の出してきた条件はこうだった。


   ・イーバを再生したくばサフソルムかジョンがこの雪の大地に残ること。


 そういった後ですぐ訂正をした。


   ・イーバを再生する代わりにサフソルムかジョンがこの雪の大地に残ること。


 スタティラウスにぼくたちの会話が聞こえているのかどうかは定かではなかった。ぼくたちはなるべく小声で喋った。

「よく分からないけれど」とぼくは慎重にいった。「イーバが生き返るとするならこれ以上にいいことはない」

 サフソルムが答えた。「イーバ様再生の話をはっきりとゆわれた。それを反故にすることはなかろう。そしてこれはまた間抜けを一から叩き直す良い機会だ。今はまだ気温があるが、後には吹雪となり、心底冷えるであろうからな」

「……きみが頼むしかないよ。彼女に。二人とも……、一人と一匹とも、帰らせてもらうんだ。サフソルムが頼めばきっと聞いてもらえる」

「何を寝ぼけたことをゆうておるのだ。イーバ様を再生する代わりの償いを求めておられるのだぞ」

「どうしてここに残らなくちゃならないのさ? イーバを消したのは彼女だろう? 何が何でもぼくのせいにしようとしてる。どこかでうまく話をすり替えてるんだよ」

「どれだけ歌うたいが文句をいおうが全てはすでに決まっている。オレさまはマグナスの元に帰る必要がある。しかし歌うたいについては特に誰かが待っているとゆう風でもない。よって歌うたいが残ることが望ましい。分かるな?」

「分かるわけないだろう? ぼくだけが残るなんておかしいよ。イーバはもちろん助ける必要がある。だけどぼくも助かる必要がある」

「見苦しい……」ネコはぼそりと吐き捨てるようにいった。「ユーリアを見よ。たとえきれいな顔をしていても友人を助けるためにしっかりと腹をくくっている」

 ユーリアに出された条件はこうだった。


   ・フォブを助ける代わりにユーリアがこの雪の大地に残ること。


「おれさ」とユーリアはいった。「そんな立派なのじゃないよ。歌うたいのだんなには話したけど、フォブはそのときおれを助けようとしたんだ。おれの手を振り払ったっていっただろ? だから今度はおれの番だって思うだけの話さ」

 ネコがぼくを見上げた。「この御仁のいうことをしっかりと聞いたな。イーバ様のことを思えば必然的に自分がどのようにすればよいか。分かるな?」

「分かるもんか! おかしいだろう? なんでそうなるんだよ! こんなところに取り残されたら命がどうなるか分からない。スタティラウスに直接いえるのはサフソルムだけだ、頼むよ!」

「歌うたいはオレさまに何かを頼むのが好きだな」サフソルムはフッと笑い、仕方ないなと首を振った。

 丘のてっぺんから「サフソルムや――?」と声が聞こえた。「決まったかい――?」

 ネコは返事をし、スタティラウスのほうへと雪の上を歩いていった。

 ぼくとユーリアは丘の上のスタティラウスとサフソルムを見上げていた。

 椅子に座る彼女の肘掛けにネコが上がり、耳元で何かいうのが見えた。彼女は立ち上がり、ネコも下に降りた。

「歌うたいが残ることになったのだね。約束は守るから安心をおし」

 え? と固まっている間に、隣のユーリアがおずおずと手をあげた。「聞いてもいいかな? ここに残る期間は決まってるの?」

「いや。ここから抜け出せるかどうかは知らないけれど好きにしたらいい」

 ユーリアが、そう、と答えた。

 ぼくも思わず手をあげ、次いで彼女を指さした。「いいたいことがある」どこかからむしゃくしゃした気持ちが湧いてきていた。「あんたたちはいったい何様かって話だ。自分の好きなように何でも動かして、こうやって善良な人間をこんな雪の大地に残していこうだなんてひどいにもほどがある。マグナスだって雷さえなかったら彼女と幸せに暮らせただろうに。彼の記憶が消えていったことだって、マグナスの彼女が亡くなったことだってあんたたちのどんな力が働いたのか知らないが……」

「いっておくけれど」スタティラウスが声をあげた。

 雪の大地に風が吹いた。青空だったところに白だか灰色だかの雲が立ち込め始めた。

 冠を被った彼女は続けた。「マグナスの雷は偶然だった。落ち込んでいるときには悪いことを引き寄せるものだとさっきもいったはずだよ――。私が、本当に何でも思い通りにできたらどんなにいいだろうか。でも実際には物事は違う方向へも転がっていく。そしてもし私たちの望みが全て叶い続けるならばこの世界はとっくに滅んでいることだろう。思い通りにならないことがあるから世界は常に新しく生き長らえていく――」

 彼女は背を向けていった。「こんなにいろいろとお喋りしてしまったのはおまえたちが生きて帰れないからかもしれないねぇ。それなら誰かに話す心配はないからね」

 ネコがにゃーおーといった。

 雲がどんどん流れ込んできて、彼らの姿は見えなくなっていった。

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