86.ジョンの話
86.ジョンの話
ユーリアとぼくはスタティラウスを前にして立っていた――。
ぼくたちは大ガラスの後をついていくうちに少しずつ山道を登っていた。周囲に生えていた高い木が低くなり、さらに今度は短い草ばかりになった。空は次第に灰色になり、雪が落ちてきた。
カラスの後にぼく、ぼくの後にうなだれたユーリアが歩いた。数えるほどだった雪のかけらがどんどん増えた。地面がうっすらと白くなったところを黒いカラスは飛んだり跳ねたり歩いたりして進んでいった。一つの小さな丘を越えると一面、雪の世界に入った。辺りに背丈のあるものはなく、道もなく、カラスの黒い姿しか目印はなくなった。
広くゆるやかな丘の下ったところを抜け、また別の丘を登った。その丘に十羽以上の大ガラスが並んでいた。右と左に並んで、ぼくたちが通っていくのを興味深く見守りながら。
カラスの並ぶ丘を通り過ぎると、ぼくたちを先導していたカラスは飛び立って真っ直ぐ長い距離を羽ばたいていき、真正面にある丘の上にひらりと降り立った。
その隣に誰かが立っていた。頭には冠のようなものを乗せて、長いローブをはおり、右手に長い棒を持っている誰かが。
灰色だった天気がいつの間にか真っ青な空に変わった。白い世界は眩しくて、立っている誰かの顔をよく見ることはできなかった。
その人物の後ろからネコが顔を出すのが見えた。ぼくは思わず「サフソルムかい?」と声を出した。
声は白い大地に吸いこまれていった。ぼくはもっと近づくことにした。そのあたりはひどく雪が積もっていた。歩くたびに足が雪に埋もれ、マントに雪が載った。
「よく来たね。よく来たじゃないか」女の声がした。女はそこに椅子があったようで、腰を掛けた。彼女は自分はスタティラウスだと名乗り、「いろいろと事が起きたようだね」といった。足を組み、椅子の肘掛けに肘を乗せ、手の上に自分の顎を乗せた。
眩しい雪のために見ることのできなかった表情に目の焦点が合った。はっきりとした顔に化粧をし、顔以外は暗い色に金色の刺繍を施した長い着物で覆われ、頭に冠を乗せていた。
「ここは私の住む宮殿ではないから何のもてなしもできないよ。どうしてここにおまえを呼んだかというと」女は足元近くを見た。「サフソルムや?」
ネコがにゃーおと返事をした。
「おまえの失敗をこの子がひどく怒っていて、歌うたいを何とかせねば腹の虫が収まらぬと訴えるのでな。実際、おまえのせいで大変なことが起こった」
え? とぼくは固まり、ネコを見た。サフソルムは頭を椅子にこすりつけていた。
ぼくは答えた。「分からない。どれも悪気なくやったことだ。今はただ戻ることができればと思っている。みんなのところに。右も左もわからないここじゃなくて。サフソルムも一緒に帰りたい」
スタティラウスはどこかから扇を取り出し、ゆっくりと仰いだ。「お前に自分について訴える資格なんてあるのかねぇ」
え? とぼくは固まり、彼女を見た。
後ろからユーリアが上がってきて、隣に並ぶと大声をあげた。「フォブを返せ!」
彼女はそれに答えなかった。
もう一度ユーリアが叫んだ。「フォブを返せってんだ。あんたのいうことは聞いたはずだ。あんなひどいことをしやがって!」
スタティラウスは反応しなかった。物憂げに扇を操り、遠くを見た。そしてやっと口を開いた。「紙をもらってその通りに行動したのだね? あれは私がやったんじゃない。イェンドートのほうだよ。名前は両方書いてあったかもしれないが」
彼女は続けた。「いつからこうなったか忘れたが、イェンドートと私は互いに違うことをする。イェンドートが何かしたのなら次には私が反対のことをする。私が何かすればイェンドートがまた反対のことをする」
扇が繰り返し翻った。「同じ宮殿に住んではいるが、いつも仲違いをしている。会話もしないし、なるべく顔を合わせないようにしている。だが、この間などは運悪く鉢合わせとなり、言い合いとなった。言い合いは収まらず、結局」といって、彼女は唐突に立ち上がった。扇を置き、両手を突き出し、手の指を開くと、鉤のように曲げた……。「こうやって、イェンドートの手と組み合って力の限り押し合った!」
彼女はふん、といって、再び扇を手にし、椅子に座った。「つまりイェンドートが送った手紙について私にどうこういうのはお門違いということさ。フォブが命を落としたのかい?」
「そ、そうだ」ユーリアが答えた。
「それならイェンドートと反対のことをしよう。フォブが助かるようにしてやる」
「ほんとに?」
「だけど条件がある。それについては後にしよう。さぁ、サフソルムや。歌うたいをどうしようか?」




