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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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85.サフソルムが帰ってくる

85.サフソルムが帰ってくる

 鳩たちを見送ってから、さらに森のなかを探した後、再び彼も飛び立ってもう一度草原の上や海岸を飛び回った。そして再びイーバの宮殿を訪れたが、やはり誰も姿を見せず、街なかを探し回ったときにもおよそ一人として住人を見つけることはできなかった。宮殿でイーバがよく書き物をしていた机にも寄ってみたが、よく整えられたそこに置手紙といった類のものは見つけられなかった。室内にいくつか置かれた植物の葉の一枚にマグナスは触れた。宮殿のなかは変わらず美しく、清潔で、床も家具もよく磨かれて光っていた。そこに住む者だけが姿を消してしまったのだ。マグナスは諦め、ゴールディアノの家に戻ることにした。

 家の近くに降り立つと、なかからゴールディアノと白猫を除く全員が出てきた。ゴールディアノは二階の窓から顔を覗かせ、手を振った。

 マリオンとアリステア、イザベラとマリウス、それにフォブ、そしてマグナスが草の大地に伸びている道に立っていた。

 風が少し出ていて、草が同じ方向に揺れていた。アリステアが道の一方を眺めていて「サフソルムだ!」と声をあげて、手をふった。

 揺れる草の間に作られた道をネコが威風堂々とこちらに向かって歩いていた。手足が一定の調子で上下し、決して走ることはせず、こちらへ向かって着実に歩き続けていた。

 皆が見守るところにネコは時間をかけて到着した。アリステアがお帰りと嬉しそうにいった。ネコはしっかりとうなずいた。

 サフソルムはマグナスの姿を認めると「翼が生えたのだな」といった。

「生えたわけじゃないよ。どこかから飛んで来たのさ」

 ネコはうむと答えた。「あの間抜けのせいで台無しと思うておったが、うまくいったのだな」一呼吸置き、続けた。「元の世界へは戻らなかったのか?」

「戻ったほうがよかったかい?」マグナスは冗談とも真剣ともとれる口調でいった。

「オレさまはマグナスといるのがいちばん良い。マグナスもそうであろうと思っていた。マグナスが残ったことをイーバ様も知ったならば実にお喜びになられたであろうに」

「イーバに何があった?」マグナスは聞いた。

 アリステアが口をはさんだ。「姿が見えないんだ。どうしちゃったんだろう」

 サフソルムはそれぞれの顔を見上げた。「イーバ様のことについては今から話そうと思う。しかしながらイーバ様以外の面々においてここにめでたく再び集うことができたのは誠にすばらしいことであるといえよう」

 皆が黙って、場が静かになった。風で揺れる草の音が心地よく響いた。

 アリステアが小さく、一人足りないよ? といった。

「いや、人数はあっている」ネコはすました口調でいった。

 イザベラが笑いだした。「人数はあっているわ。誰かがいないけど、代わりがいる。確かに人数は問題ないわね」

 マグナスはサフソルムを見た。「ジョンがいない」

「はて、ジョンとは?」ネコは首を傾げた。しかしマグナスの顔を見ると姿勢を正した。「歌うたいは残ったのだ。スタティラウス様がオレさまと歌うたいに問うた。どちらかがここに残るように、話し合いをしてお決め、と。……オレさまは歌うたいと話し合った。オレさまには大切なマグナスがいて、戻らねばならないことをゆった。歌うたいは自分だって帰りたい、とゆった。堂々巡りの話し合いが長く続いたが、スタティラウス様が少々しびれを切らしたので結論を出した。ネコのサフソルムは大事であるため帰る必要があるが、歌うたいはそうでもなかろうということになった」

「どうして残る必要があったのか分からないが……」マグナスがいった。

「ジョンを置いてきちゃったのかい? サフソルム!」アリステアのびっくりした声が続いた。

 イザベラが声をあげた。「傑作だわ!」

「帰りたいのにできないのは捕らわれているのと同じだ。ジョンはイェンドートとスタティラウスの宮殿に?」

 サフソルムはマグナスの問いに首を大きく横に振った。「オレさまからすれば歌うたいのことなど気にする必要もないと思うのだ! 実際いなくともそんなに問題はなかろう?」

「サフソルム?」マグナスが辛抱強くいった。

 フン、とネコはきれいな瞳をまばたきさせた。「ゴールディアノの家に入ろうではないか。シルヴィに挨拶をし、お茶を頂く。オレさまが頂くのは水ではあるが。それから話をする」

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