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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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82.イザベラと馬のマリウスの話

82.イザベラと馬のマリウスの話

 イザベラが眠り込んでどのくらい経った頃か、今度は地面が揺れた。彼女は飛び起きて崖から離れた。のんきなマリウスすら驚いた様子でイザベラと共に海に向かって少し駆けた。大きな揺れは次第に収まり、小さなものが時折続いた。

 ふと空を見れば満天の星空で、辺りはぼうっと光って見えた。「全く」とイザベラは嘆いた。「気が抜けやしないじゃない」

 彼女は海に目を転じた。「地面が揺れた後には大きな波が来るっていうけれど」

 羽毛の川の流れに自分たちの荷物も取り込まれ、浜辺に落ちていたので、それを拾い集めるとイザベラは馬に乗った。

 崖は延々と続いていて、なかなか上にあがる道を見つけることはできなかった。

 やがて彼女は別の洞窟の入口を見つけた。今日はこれ以上動くのは無理だと考え、そこで一晩を過ごすことにした。

 次の日の太陽がすっかり上った頃、再び洞窟の奥からさわさわいう音が聞こえてくるのに気が付いて、目を覚ました。一頭と一人は慌てて洞窟の外に出て様子を見守った。

 目の前に勢いよく飛び出してきたのは、今度は羽毛ではなく、黄色の細かな砂だった。

 大量の砂がどんどん流れ出てきて大きな山ができた。そしてそこへ誰かが吐き出されて砂の山に埋もれた。

 イザベラは注意深く、その人物を眺めた。濃い緑色の服とこげ茶のふわふわした頭が見えたので、あの男かとも思ったが、図体も大きく、別人だと納得した。しかし背中に同じような羽根があるのを見つけるとイザベラは剣を抜き、その人物が顔をあげたところへ剣先を向けた。

「いきなりなんだ!」男は叫んだ。

「どうってことないのよ。ちょっと助けてもらおうと思ってるの。だけどあなたみたいな羽根の生えてる奴に嫌な目にあったのよ」イザベラはふんと笑った。「羽根のある奴は大嫌い。だからどうせ私が今から頼むことは守る必要もないでしょうよ。一度飛んでしまえば剣からは逃げられるのだから」

 剣をしまうと、イザベラは男に手を貸して、砂山から引っ張り出した。

「空を飛んで、馬が上れる場所を見つけてくること。それだけよ」

 男は、ひでぇといって体中の砂を払い落とした。「ユーリアは悲しんでるだろうな」

「ユーリアですって?」

「おれ、あんたにそんな素っ頓狂な口調でいわれるようなこと何かいったかな」

 イザベラは咳ばらいをした。「気にしないで。いいから早く馬が上がれるようなところ見つけてきてよ」

 男は名前はフォブだ、といった。「なんであんたに命令されなくちゃいけないのか分からんがな」

「あなたは」とイザベラは答えた。「さっきもいったけど、このまま飛んで行ってしまうこともできるのよ。自由自在にね。だけど馬が上がれるところ、見つけて教えてくれるでしょう?」

 フォブは返事もせず、首をすくめると、ゆっくりと羽根を広げて飛び立っていった。

 イザベラとマリウスは彼が帰ってくるのを待った。ほどなくして戻ってきた彼がいった。「ここからまだしばらく進むことになるが、崖が低く下ってきてるところがある。そこから上がれそうだ」

 親切な彼はイザベラを案内して、一人と一頭は無事に崖を上がった。イザベラはせっかく見つけた親切な人物を逃してはならないと思った。「頼みがあるの」

「まだ何かあるのか」

「困ってるのよ」

「まだ困ってるのか」

 イザベラはゆっくり息を吐いた。「イーバって人の宮殿に行きたいの。知ってる?」

「知らないこともないが、ここがそもそもどこか分からねぇじゃないか」

「どうしてもそこに行きたいの」

「おれに調べてこいと?」

「私、人間なの。分かる?」

「そういやユーリアも人間に会うのは二回目だといってたな」

 イザベラはため息をついた。「ユーリアの話はやめてちょうだい」

「あんたのいうことはとんでもなく突拍子のないことばかりだな!」

「とにかく、あなたが飛んで行って戻ってこなかったとしても私たちにどうこういうことができないのは分かってるわ。だって私たちに何の義理もないんだもの。でも道を見つけてきてくれるのよね?」

 フォブは渋い顔をしたものの、他人に対しても面倒見のいい男だったのでどこかへ飛んでいき、しばらくするとまたイザベラとマリウスが待っているところに戻ってきた。

「おれってつくづくいい奴だな」フォブがいった。

「ほんとよね。ユーリアとは大違い。ま、私が頼みごとをするのがうまくなったってことかもしれないけど」

 一人と一頭と羽根付きの一人は出発した。

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