(79)地面が揺れる前の、羊飼いのオヤジさんの話
79.地面が揺れる前の、羊飼いのオヤジさんの話
羊飼いのオヤジさんは一日の仕事を終えると、ここ数日いつもしているように作業小屋を見に行った。そしていつものようにあの大きな袋が本当にないのを確認した。オヤジさんは棚に何も載っていないのを見ては長年抱えていたものが本当に消え失せたことを実感し、何ともいえない気分を味わっていた。さて、これだけの棚が空いたのだから何を置くかまた考えなくてはなるまい。しかししばらくはこの空いた空間を眺め、一息つくのも良い考えのように思えた。
外で羊を追う犬たちがワンワン鳴きだした。オヤジさんは外へ出て、なんだなんだ、といった。犬たちは空を見上げて吠えているのでオヤジさんも上を見てみると、大きな雲のような、鳥の大群のような、何かの一塊が太くなったり、細くなったりしながら夕焼けの空を飛んでいくのだった。
「残念だがな」とオヤジさんは犬たちにいった。「あいつを捕まえることはできねぇよ。でっかい袋があったなら捕まえることもできたかもしれんが、そんな袋はここにはすっかりもうないんだからな! しかしそうはいってもだ、ひょっとしてまたでっかい袋がいることになったらどうする? おれにばかな考えは起こさせないでくれよ。親子ってのは変なところで似るもんだからな、とにかくおれに編み物ができなくてよかったよ」




