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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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(78)地面が揺れる前の、ベルナーの話

78.地面が揺れる前の、ベルナーの話

 ベルナーは鳥たちに小船を曳かれて、自分が出発した港に戻ってきた。鳥たちはみな丁寧にお辞儀をしてから帰っていった。彼は一瞬でも気を抜いたならばたちまち落ち込んでしまうところを何か不思議なものが彼の内側を支えてくれていたので、――あの手紙のせいかもしれない、と彼は思った――、背筋を伸ばして絵の道具を背負い、港から城に向けてきびきびと歩き出した。途中、馬車が通ったので乗せてもらい、やがて遠くに小さく城が見えてきた頃に彼はふと閃いて、そこで降ろしてもらうことにした。

 馬車が土煙をあげながら去っていった後で、彼は辺りの光景を見渡した。太陽はいちばん高いところを過ぎていくらか経ったころだった。彼は躊躇なく、三脚を置いてキャンバスを置き、絵を描き始めた。途中、何人かがやってきて絵をのぞき込んだり、何をやっているのか、こんなのを描いて楽しいのか、と聞いてきた。彼は、ああそうだ、これは美しさを表した絵なのだ、と答えたりした。やがて日が傾いてきたころには何とか絵は完成し、彼は絵の具が乾いていない絵を頭の上にのせて城へ向けて歩き出した。城に到着したときには王や妃は夕食前に庭をそぞろ歩いていた。彼は緊張しながらも自分の絵を見てもらうことを申し出た。

 王と妃が用意された椅子に座り、その前に三脚を立てた。彼は絵を置いて、ひざまずいた。

 それは一面が黄金色で、農夫たちが穀物を刈り取り、あるいは農婦たちがそれらを集めている絵だった。王も妃も何もいわずに絵を見つめ、しばらくすると二人は顔を見合わせた。「よく分からぬ絵じゃ」とお妃がいった。

 ひざまずいたまま、顔をあげたベルナーは顔を引き締め、「恐れながら」と答えた。「この絵は、単調でもあり、単純でもありながら長い時間をかけて少しずつ進んだ結果、王様お妃様の空腹を満たすことのできる実をつけたのです。美しい黄金色の実を」

 ふむ、と王様がいった。「私はこういったのだ。誰も見たことのないほどの美しい絵画を描いて、それを見せよ、と」

 ベルナーは何も答えることができないまま、下を向いた。

「食事にまいろうか」お妃がそういった。

 辺りはすっかり夕暮れ時だった。衣擦れの音がして、王と妃が立ち上がり、お付きの者たちと共に去っていく音がした。ベルナーは下を向いたままだったが、誰かが「ほら、あれを、空をごらん」といった。

 ベルナーは顔をあげ、上を見上げた。夕暮れ時の空を何かが動いているのが見えた。大きな塊になったかと思ったら今度は細長く動いて、右へ行ったり左へ行ったりした。大きな鳥の大群かと思ったが、そうではなかった。鳴き声ひとつせずに、ただバサバサといった風の音が聞こえ、それはすごい速さで動いてお城の近くまでやってきた。城が包み込まれるかと思うくらいの大きな流れは突然地上に向かってワッと下りてきて庭にいた者の頭や顔や背中をなでてゆき、多くの者に悲鳴をあげさせた後、再びどこかへと飛び去っていった。

 辺りが騒然としているなかをお妃が声をあげた。「絵をごらん」

 ベルナーは絵を見た。絵はたくさんの星をちりばめたようにきらきらと輝いていた。いまだ乾ききってはいなかった絵の具の上に、琥珀色の小さな小さな粒がくっついて、穂の黄金色が茜色の虹のように光り輝く絵画に変化していた。

「家族を出しておやり。これなら誰も見たことのない美しい絵といってもよかろう?」お妃はそういうと、王と共に去っていった。

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