(70)ジョンの話
70.
ぼくを乗せた赤い鳥は元の海岸に下り立った。
「ありがとう」お礼をいうと、赤い鳥は丁寧にお辞儀をして飛び立とうとした。ぼくは慌ててサフソルムがどこへ行ったのかを聞こうとした。でも鳥は大きな風を巻き起こしながら飛び立っていった。
ぼくは本を開いた。間違ったことはしていないはずだった。栞の挟んであるページを開け、一枚前にめくった。
『特別な注意:飛ぶことができなくなった後に、不幸なことに地上に埋もれてしまった者を蘇らせることは時に大変な危険が伴うため、十分に心して行うべし。その者はすでにその場に馴染んでしまっているため、時にそのままにしておくほうが良いときもある。しかしながら蘇らせたほうが良いときもあると思われる。これら一連の工程を行う者は十分に注意し、一度蘇った者は二度と戻らぬと心得るべし。』
ぼくはもう一枚を前にめくった。
『必要な材料は羽毛のほかに、羊の毛、絹の糸、真珠の粉、湧き水または滝から落ちてきたばかりの新鮮な水、不死の花。これらすべては飛ぶための丈夫な鱗を形作るためのものである。以上を集め、全てを受け入れる余裕のあるものに渡すこと』
さらに前にページを戻って、もう一枚前に戻った。その章の題名があった。
『5-2.蛇のように長く、四肢があるが元々羽根がなくても飛べる龍の場合』
え? とぼくはつぶやいた。本の一番最初の目次を開いた。
『翼の取り戻し方
初めに
1.鳥 1-1.小鳥の場合 1-2.大きい鳥の場合
2.昆虫 2-1.殻が柔らかく羽根が薄い場合 2-2.殻が固く羽根が厚い場合
3.妖精 3-1.小さい妖精の場合 3-2.大きい妖精の場合
4.人 4-1.薄くて透明な羽根の場合 4-2.厚くて鳥のような羽根の場合
5.龍 5-1.トカゲのような形で羽根を持っている龍の場合 5-2.蛇のように長く、四肢があるが元々羽根がなくても飛べる龍の場合
6.ペガサス
7.ユニコーン(ただし翼ではなく、頭に生えた角を取り戻す場合)
8.その他の生き物の場合
あとがき 並びに 註』
またどこかで雷がなった。
ぼんやりとした頭で自分が間違ったことをしでかしたのに気が付いていた。
空が急に暗くなってきて、雨粒が落ちてきた。開いていた本に雨が当たった。急いで本をマントの下に隠して、自分の荷物のところまで走った。当然だけど、そこにサフソルムはいなかった。
楽器や荷物を持って、海岸から木の立ち並んでいるところに向かい、木の下で雨を避けた。ここでサフソルムが帰ってきてくれるのを待つ以外になかった。レネアの屋敷もゴールディアノの家も海岸沿いだったが、方角も場所も分からなかった。なにせここは人間が普通に住んでいるところではないのだ。
辺りは夜になりつつあった。思わずぞっとして身震いをした。何かが出てきたわけではなかったが、取り残された自分を思って身震いした。イザベラのようにぼくも黒い羽根を手に入れておけばよかった。
雨がもっとしのげるように木が揃って生えているところに移動した。とはいってもサフソルムが来てくれたときのために海岸からはあまり離れないようにした。木の根元に腰をおろし、荷物をそばに置いた。
目を閉じて、深く息を吐き、じっとしていた。日も暮れて、どれだけの時が経ったのか分からなくなったときに突然地面が揺れた。
揺れは小さく始まり、次第に大きくなった。また小さくなって、その後はゆるゆると続いた。
この世界に生きているものは自分一人だけだと思えた。




