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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
69/95

(69)ジョンの話

69.

「これ、何の殻だと思う?」

 案の定、赤い鳥たちの足元に、――巨大な鳥たちに対して豆粒のような大きさで――、サフソルムはたたずんでいた。

 サフソルムはまず「目を覚ましたのか。覚ますとは思わなかった」といった。

 ぼくはなぜか顔に手をやった。ネコを見たら顔に手をやってみたくなったのだ。「そうかな。こうやってはっきりと目を覚ましたよ」

 ネコはぼくが差し出した卵の殻を見た。「さぁ、なんであろうな。卵で生まれてくるものはいくらでもある。鳥、亀、トカゲ、蛇。ここには羽根の生えたトカゲや蛇も存在している」

「ぼくはこれでいいような気がするんだ」

「何のことかよく理解できぬが」

 サフソルムの指示で、赤い鳥四羽のうち三羽が羽毛の袋を運び、一羽がぼくとサフソルムを乗せてくれることになった。

 全ては、じきに沈んでしまう太陽がまだ水平線の上にあるうちに行われることになった。慌ただしく鳥たちが動き、羽毛の入った巨大な袋をつかんで飛び立った。すぐ後に赤い鳥の背に乗ったぼくたちが飛び上がった。

 地上で少しずつしか移動できない、ちっぽけな歌うたいが空を飛ぶのもすっかり慣れたものとなった。

 すぐに小山のような、巨大なクジラたちが眼下に見えてきた。それぞれの大きさは実際に島一つ分ずつだった。クジラたちは一度ざばりと上を向いて海上から頭をのぞかせてから勢いよく深いところへ潜っていった。

 やがて上から見ていると海面に大きな渦が表れてきた。サフソルムが横でいった。「深いところで泳いで渦を作っているのだ」

 渦の真ん中に何かが浮かんできた。渦に引き込まれるのではなく、逆に渦の真ん中に何かが出てきたのだった。それは魚の骨のようなトゲトゲしたものが生えている、巨大な巻貝だった。高さは大きな建物三つ分はあるだろうか。貝の奥は真っ暗で何も見ることはできなかった。

 サフソルムが声をあげた。「あのなかへ!」

 羽毛を運んでいた三羽が貝の上に近づいて、羽毛の袋を投下した。貝の入口に巨大な袋が勢いよく吸い込まれていった。続いてぼくたちの乗った赤い鳥が貝に近づいていった。ぼくは緊張していた。隣のサフソルムがいった。「落とせ!」

 真っ暗な貝の奥が覗ける真上に来て、恐怖を感じながらもぼくは次々と大切な材料を落としていった。しかし宝石の袋の中身だけを落とそうとして手間取って、結局袋ごと手放した。それらはバラバラと、一直線に貝の奥へと落ちていった。

 ネコはそれを見届けると大きな声でいった。「マグナスにもう一度翼を!」

 ぼくは持っていた本を開いた。そしてできるだけ大きな声で読み上げた。「い、いざ飛ばん。太古の眠りから目覚めし時。美しき目の空駆ける者よ!」

 ぼくたちを乗せた赤い鳥は大きな渦巻を作っている海とそこに立ち上がっている貝から離れて高度を上げた。

 渦から遠いところを飛んで、低い位置へと移ってきた太陽のある空で大きく弧を描き、安全で遠いところから再び巻貝を眺めた。

 横でサフソルムが小声でいった。「……何をいったのだ?」

 ぼくは本を見せた。「ずいぶん親切な本だよ。長く飛んでいない者のために元々の能力と頭を目覚めさせるのだそうだ。ハチミツや卵の殻と一緒に」

「そんなものはマグナスには関係がないはずだ」

「だけど本には書いてある」

 サフソルムが震えていた。

「大丈夫かい?」ぼくは声をかけ、手を伸ばした。サフソルムはシャーッと白い牙を見せて威嚇した。

 手を引っ込め、気まずさと混乱の気持ちのなか、ぼくは貝のほうを見た。

 隣でネコが声を絞り出すようにいった。「間抜けめ。このような間抜けは見たことがない」

 海の上で渦が収まり、貝だけが海に浮かんだままになっていた。巨大なクジラたちが再び浮かび上がってきて大きく潮を吹いた後、再び貝の周りを泳ぎ始めた。

 さっきとは逆回りの渦ができて、貝も同じようにぐるぐると回転を始めた。その動きに合わせて強い風が出てきた。巻貝の奥が何度か光ったようにも見えた。

 どこかで雷が鳴った。空の太陽は輝きを増しているにも関わらず。

 知らぬ間にそばに赤い鳥がもう一羽やってきていた。サフソルムが高さをものともせず、ジャンプして移っていった。

「ごめんよ。サフソルム」ぼくは叫んだ。「よくわかんないけど、どうしたら?」

 ネコは答えず、こちらを振り返ることもせず、赤い鳥の背に乗って遠くへ離れていった。

 海の上では変わらずクジラたちが大きな渦を作りながら泳いでいた。風が吹きすさび、貝も大変な速さで回り続けていた。

 そしてついに巻貝から一組の翼らしきものが飛び出し、続いて大量の羽毛が勢いよく噴き出して、まるで蝶の大群が飛ぶように大きく舞った後にどちらもが空の彼方へと飛び去ってしまった。

 貝はやがて海のなかへと沈んでいき、クジラたちもざぶりと潜っていった。

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