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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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(67)ユーリアの話

67. ユーリアの話

「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」ユーリアは慌てて、後ろにひっくり返った男に手を伸ばした。

 フォブも素早く動き、倒れた男をうまく動かして短い草の生えている地面に寝かせた。

 ネコが睨んでいた。

「水、水」ユーリアは水筒を出して、半分白目になっている男の額に水をかけた。

「何を飲ませた?」ネコが全身から怒りの気配を出しながらいった。

「村で人気の酒だよ……。普段から飲んでるものだよ。おれたちが飲んでるの、見ただろう?」

「なぜそんなに酒を飲ませるのにこだわったのだ? 何か企みがあるのか」

 ユーリアが「イ……」といいかけたのをフォブが遮って答えた。「とんでもない。企みなんてない。人間にとっては強すぎたんだ。ひょっとすると人間界にはないような材料使ってたかもな。とにかくこいつで命を落とした話は村では聞いたことないから安心してくれ」フォブはそういうと布切れを出して、男を仰いだ。「おい、だんな、起きてくれよ」

 ネコは強い怒りを慎重に抑えながら、もういい、といった。「さっさと消え失せるがいい。そして二度と目の前に現れるな」

「ごめん」ユーリアは謝った。慌てて立ち上がり、男がひっくり返ったときに落とした本を拾いかけて、またバサリと落とした。本のページが開かれたまま、地面に落ちた。

 ネコが低くうなった。

 ユーリアはもう一度本を拾い上げた。葉っぱがはらりと落ちた。それも拾うと、「ごめん。栞が落ちた。わかんないけど、はさんでおくよ」

 唸り声がネコの腹の底から連続して響いていた。

 二人はその場から逃げ出した。ユーリアは走りながら「ほんと、ごめん」ともう一度いった。

 いくらか走ったところで振り返ると、ネコが倒れている男の頬を手でビシビシ打っているのが見えた。

 ユーリアとフォブは一本の道を止まることなく走ってきたが、やがて歩き始めた。

「まいったな」ユーリアがいった。

「仕方ないさ。酒は飲んだ。やることはやったよ。そのご意思がなんのためであったかは分からんが」

「ああ」

「おれは明日仕事だ。また遠い道のりを帰らなくちゃならねぇ。おまえはどうするんだ?」

 ユーリアは大人しい口調でいった。「おれも一緒に村へ帰るよ。村の仕置きのほうがまだましだ」

「なんかあったのか?」フォブは不思議そうに聞いた。

 蟻に捕まったことは誰にもいうつもりはなかった。

 二人は村へと続く道を揃って歩いていった。

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