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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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(64)ユーリアの話

64.ユーリアの話

 ユーリアは決して破ることはできない約束事のために、羽根と足とを使って目的地に向けて走っていた。普段ならユーリアの種族は羽根をいつも背中に収めていたけれども、いま彼は薄くて透明なそれらを目いっぱいに広げて動かしていた。足で大地を蹴り、大きく飛び上がって羽ばたいてできるだけ遠くに着地し、また足で蹴って飛び上がり、羽ばたいて距離と時間を稼いでいた。

 ユーリアは数日前の失態を思い返していた。なにせ彼は同族の女性に人気があったので、付き合う相手には事欠かなかった。しかしながら一方で人を見る目というのはあまり備わっておらず、夫がいるのを内緒にしていた若い女性から声をかけられてすっかりその気になっていたところを夫に見つかり、大変な怒りを買うはめになった。命からがら逃げ出して、――命からがら逃げ出すのはどうもそのときから始まっている、とユーリアは思った――、親友のフォブのところへ駆け込んだ。フォブは大きな体の幼馴染で、そのうえ本当にいい奴で、村をあげてユーリアを見つけ出し、仕置きを行おうとする人々から匿ってくれたのだ。

 フォブはユーリアにしばらくはこの村に住めないだろうし、どこか旅に出たらどうかと提案した。

「おれ一人で旅に出るってこと? そんなのさびしいじゃないか」

「この村に仕事があるおれに、おまえに付き合えと?」

「ここが好きなんだ。よそに住むなんて考えられない。それに一人で旅なんていやだよ。旅に出て変な生物に襲われたらどうするのさ」

 フォブが腕組をしてユーリアを眺め、やれやれという顔をした。「だが、ずっとここに隠しておくこともできんぞ」

「どうしたらいい?」

「やっぱり少しは旅に出るべきだな。途中まで送っていく」

「ああ、フォブ!」

 ユーリアは親切なフォブによって荷物を作ってもらい、村中が寝静まっている夜中に泣く泣く出発した。辺りは神秘的な青い光で、進む道がほのかに浮かび上がって見えた。

 どれだけか歩いた後で、湖に出た。誰が作ったのかベンチがあって、二人はそこに腰かけ、休んだ。

 どこかで鳥が低く鳴いていた。ユーリアは水筒を出して水を飲んだ。二人はただ座って、静かな湖を眺めていた。

 上空の視界に何かの影が映った。すいーっと飛んできて、二人の前に舞い降りた。

 それは見たことがないくらい大きなカラスだった。カラスは二本足でのしのしと目の前を歩いた。右へ行ったり左へ行ったりと動いた後で、ユーリアのほうへ近づいてきた。カラスはくちばしに紙を持っていた。ユーリアはそれを少し迷った末に受け取った。

 カラスは後ろに下がると、すぐに飛び立っていった。

 手に紙を持ったまま、ユーリアはカラスを見送った。

 隣のフォブが「そいつはまずいもの受け取ったんじゃないか」といった。

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