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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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(62)マグナスとマリオンの話

62.マグナスとマリオンの話

「話し合いなんて無理だった」

 弟の双子たちとの対立後、マリオンはずっと気持ちが高ぶってオオカミのままでいたが、やがて元の姿に戻り、二人は食料や水を持ち込んだ三階の部屋へと戻った。

 椅子に座ったマリオンはそういって少し涙声になったが、カップから水を飲むとまた気丈な声に戻った。「名前がついてたわ。エレクフレドですって。あいつも弟の血をひいているというの」

「そいつの名前が何であれ、きみは弟の子供たちの息の根をとめなかった」マグナスはそっと笑った。

「そうですとも! 私を悪者になんてさせないわ。とにかく人間たちは帰っていった」

「今回は」

「そうね。そしてあいつだけを残していった」

 二人は立ち上がり、隣の小さな部屋に移った。鎧戸を開けた窓から、再び外を覗いた。

 黒い大きな影が月明りの下、ゆらりと庭の向こうに立っていた。赤い目は屋敷の方向、そして高くそびえている、奇妙な木の塔に向いているようだった。だが何を見ているのかを知ることはできなかった。

 マグナスは木の塔にたくさんの荒野の者たちがいるのを確認していた。数は減らしたものの、依然多くが残っていて、木の塔から、あるいは庭のあちこちから大きな怪物を見上げ、威嚇をしていた。

「エレクフレドが自分で木の塔を壊して、時を動かしてくれたらいい」というマグナスの言葉に、マリオンはあなたってそればかりいうわね、と答えた。

 怪物はゆらりと立っていたが突如動き出して、そびえたっている木の塔の前まで来た。しかしそれが何であるのかを気にする風でもないようだった。

 マグナスはその腕で木の塔をなぎ払ってくれたら、と思っていた。しかし怪物はそこで立ち止まった。

 屋敷から怪物はよく見えた。時折口を開けるときには燃え盛る炎がはっきりと浮かび上がった。

 赤い目を見るとそこにいわゆる白目というものはなかった。マグナスはじっとその目を見た。そこに感情や意思を読み取ろうと試みたができなかった。しかし小さな何かが動いているのを見つけた。目のなかに動いている小さな何かを。

 「エレクフレドを見ていたら昔のことを思い出したよ」マグナスは不意に話を始めた。「子供の頃、おれには父も母もいなかった。周りはずいぶん気を遣っておれがさびしくないようにと優しくしてくれた」

 マリオンはマグナスの横顔を見た。

 マグナスは話を続けた。「おれの住んでいた世界は優しくて思いやりがあって、悲しみや苦しみのないところだった。でもおれには分からなかったんだ。何かが違うと感じて、そこを飛び出してあっちに行ったり、こっちに行ったりした。あるとき別の世界に行き、木陰で休んでいると何かが話しかけてきた。辺りを見回したが誰もいない。風が吹いて、枯れた葉っぱがいくつも落ちてきた。近くには古びた、大きなクモの巣がかかっていて、どこかからの言葉と一緒にそれが揺れていた。『おまえの親は同族とは姿が違うものだ。おまえの心に浮かんでくる、消えることのない辛さがその証拠。同じ種類の者どうしならこんなことにはならなかっただろうに。』」

 マリオンは何もいわず、彼の言葉の続きを聞いた。

「その話が事実かどうかはわからない。誰かに確かめることもしなかった。でもその言葉を聞いてからは周りの大人たちがそれを知っていて、自分に対する優しさとは腫れ物に触るような、どこか偽の態度からきているのでは、と思えてきた。本当は嫌がられているに違いない、目障りな存在に違いない。気持ちは荒れて、自暴自棄になりかけた。でも結局、おれはそれ以上の悪者にはならなかった。それ以上に悪い心を持ち、悪事を働くことをしなかった。なぜなら……なぜかは分からないが、一人でいる自分を見守っている存在がどこかにいるような気がしていた。夢にはよく白いフクロウが現れて」

「フクロウ?」マリオンが問い返した。

「そうだ。夢のなかでどこかを歩いていると、おれはふと視線に気が付いて顔をあげる。木にとまってこちらを見ている白くて大きな羽根を持ったフクロウに気が付くんだ。一度は飛んでいっても歩いているおれの近くまでやって来てまたこちらを見つめている」

 マグナスは話を続けた。「若い頃のおれには誰かにそそのかされるような心の陰があると同時に、白いフクロウのような希望が存在していた。きみの弟を違う世界の人間と結び付け、自分自身もそうすることになったのは間違いなく、良い結果を信じていたから」

「ええ、そうね。もちろんそうに決まってる。でも……、良い結果にはならなかった」

 二人は視線を合わせ、マリオンは静かな口調で言葉を続けた。「だけどあなたの心には今も白いフクロウが住んでいるのね」

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