(53)ジョンの話
53.
砂浜の上でじっと座っていたらなんだか体のあちこちが固まってきた気がして、立ち上がって、黒いマントやら服やらについた砂をパンパンとやっているときだった。
「しんじられない」
声のしたほうを見れば、髪の乱れた、ちょっといい服を着た男が長い木の棒を杖のようにして寄りかかり、今にも崩れ落ちそうな荒い息遣いで、しかし目をきらめかせて立っているのに気が付いた。
「だめだだめだ」サフソルムは男が何かをいう前に、もう否定していた。「オレさまたちは忙しいのだ。あっちへゆけ」
そういわれたところで、ぼくよりもひとまわりほど年上の男が黙るわけがなかった。「ずっと……」
ネコが遮った。「大方、一人で乗ってきた船がこの島について、誰もいないと思っていたのにオレさまたちがいたのを見つけたのであろう」
「なんでわかった?」男は嬉しそうにいった。
「なんという面倒な!」サフソルムは大声でいった。「なんとくだらない! オレさまたちには一切関係のない話!」
「お願いです、食べ物と水を」男はそういって、ずるずると杖から滑り落ち、砂浜に崩れ落ちた。
「寄るな! 触るな! 近寄るな!」ネコはさらなる大きな声を出した。「今のは歌うたいに向けていったのだ」
「サフソルム、だけどさ、ぼくがこうなることもこれからあるだろうし、実際食べ物を分けてもらったこともある。だから助けるよ」
ぼくは近づき、男を半分起こすと、水の入った水筒を渡した。彼はゆっくりと水を飲んだ。木の実と乾燥した果実も渡すと少しずつかじった。
「サフソルム!」ぼくはネコに呼びかけた。「見たまえ!」
ネコは離れたところにいたが、渋々近くまで寄ってきた。
「いいものを着ている」とぼく。
「そうだな」
「上着はシルクの光沢、中に着ているものにはフリルがついている」
「フリル!」
「レースだ。靴は穴が開いてしまったけど上等なものに間違いない」
「ふむ。何がいいたい、歌うたい?」
ぼくは男の顔を覗き込んだ。「どこかの国の王様か、貴族に違いない」
「王様は一人で船には乗り込まぬ」とネコ。
「しかし金持ちだ。助けるに値する!」
ネコはフンといった。
「いまのは冗談だよ。しかし助けたことによる、何らかの大きな褒美が期待されるじゃないか!」
「申し訳ないけれど」と男が口をはさんだ。口をぬぐうと、自分の力で砂浜に座りなおした。「王様に仕えていた者だが、今回は王様の怒りを買い、こうして一人、海に出ることになったのだ」




