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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
51/95

(51)ジョンの話

51.

 奥に進むにつれて、辺りは暗くなっていった。しかし岩の道の両隣には光る魚たちが水のなかで並んでいて、道を踏み外して海へ落ちるという失態は避けることができた。

 やがてぼくたちはずいぶん開けた洞窟のホールに出た。岩の道はちゃぷちゃぷと水が揺れているところを通って、広くて大きな岩でできたステージに続いていた。そこには姫君のサイズに見合った大きなソファが置かれていた。

 そこは上から光は差していなかったけれど、周りに広がる海のなかに何千という魚や、イソギンチャクや、得体のしれないものたちがいて、大変な光を放っていた。白い光だけではなく、赤や緑の光もあった。辺りはなんとも不思議な雰囲気だったのだ。

 「土産」は、姫君のソファから離れたところに岩の段々を見つけて座った。ぼくはでも念のためサフソルムに小声で聞いた。

「歌う前に、姫君に聞いておかなくてもいいのかい?」

「ふむ。ここにお抱えの楽士として残るかどうかを、か?」

「なんだって?」

「ふむ。いまのはまさに、冗談だろう? が来ると思ったのだが」

 ぼくは黙っていた。ネコはすまして、ソファに座る姫君のほうへとゆっくりと歩いていった。ネコが何かを話して、姫君はキセルを持ちながらゆっくりとうなずいた。

 サフソルムがこちらへ戻ってこようとしたときに、姫君の足がネコを捉えた。そしてあっという間に姫君の黒いドレスの上へ放り込まれ、膝に乗せられた。彼女は両の手でネコを抱くとじっくりと撫でた。

 姫君は満足した顔をしていた。サフソルムは驚きと怒りの顔をしていた。しかし彼にいまのところ逃げる術はないように思われた。

 ぼくは楽器を取り出した。深呼吸ひとつして、うたった。




  空行く雲よ 去っていくものを追いかけないで 空行く風よ 去っていくものを責めないで

  芽が出て 草木が育ち 花が咲いた ここにとどまることをやめてしまったものを許しておくれ

  雨が降って 川が流れ 日が輝いて 鳥が歌う 去ったものの跡が消えていくまで




  青き山登りし時には緑の目の妖精現れし

  花の絨毯広がりて笑い声転がりぬ

  思い出すは遠き砂の地

  いつか帰ると誓いしに

  いまだ果たされぬ

  一本の道歩きし時には緑の目の妖精歌いし

  鳥の羽根舞い踊りて青空呼び寄せる

  思い出すは遠き風の地

  いつかあなたの元へと

  星のかけら持ち帰らん




  池に写る私 空に浮かぶ魂 木に宿る命 海に沈む声

  声が聞こえたので海岸に行った 手紙が流れてきたのでそっと拾った

  言葉を読むことはできなかったのに それが愛の気持ちだと分かった

  立ち上る海の泡 揺らめく海藻 深く潜るクジラ 笑いさざめく魚たち



 

 静かな三曲を歌って、弾かれた弦の余韻が完全に収まってから、楽器を丁寧に置いた。

 ただ楽しいだけの持ち歌がないわけじゃない――、というよりも、抜けてるだのなんだのと呼ばれるようなぼくが人が浮かれるような曲を歌ったらとんだお笑いぐさなんじゃないかと自分では思っているわけ――。とにかく、ある晩ぼくが一人で歌っているのをイーバが聞いたのだとしたら、こうした曲を低くうたっていたに違いなかった。

 ぼくは立ち上がってお辞儀をした。ゆっくりと顔をあげて、ヴェリアヌスの姫君を見た。人間と比べるとずいぶんと大きな体だったが、タコの足も顔立ちも神秘的だった。彼女は少しハッとした顔をしていた。まばたきをし、しっかりと抱きかかえていたサフソルムから手を放し、拍手をした。

 ネコはその隙に飛び出して、ぼくの黒いマントの下に走りこんで隠れた。

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