(41)ジョンの話
41.
そこは古びた木の家だった。暖かなオレンジ色の明かりが壁に灯っていた。目の前に細長い廊下があって、その隣に小さくて急な階段があった。
「ここをのぼるのよ」レネアがいった。
サフソルムが身軽に駆け上がっていき、アリステアが続いた。レネアは楽しげにぼくを見た。「お先にいいかしら」
「もちろん、どうぞ」
ほっそりとしたレネアは注意深く小さな階段を上がり始め、真ん中あたりまで来ると振り返った。「この辺りから階段の奥を覗いてみて」
レネアが上り切った後、ぼくはいわれた通りに段の途中を覗き込んだ……。
はたして、そこには一つの宇宙が広がっていた。無限に続くような奥行きに目もくらむような高さと、どこまでも下りていけるような深さのある空間が存在していた。そしてそこには数えきれないほどの本が本棚に入れられて延々と積まれ、並んでいた。大中小、様々な大きさの、色とりどりに作られた本がぎっしりと。
内部はほんのりとした明かりで照らされていた。数えきれないほどのはしごや階段が本棚の間をつないでいるのが見えた。それらを使えば移動は自在にできるように思えた。この底なしの場所で動くのが苦にならなければの話だけど!
吸い込まれるように眺めた後で、げっそりした気持ちで顔をあげた。「この場所はぼくには無理だよ。胃がひっくり返りそうだ……。上へあがって、ここへ入るってわけ?」
「違うわよ、ジョン。みんな待ってる。早く上まで来て」
自分の体重で階段はぎいぎい鳴った。できる限りの早い動きで上へあがった。
ほかの三人は静かに歩けたが、ぼくだけは歩くたびに床がきしんだ。
短い廊下を抜けて、一つの扉の前に立った。
レネアが扉に手をかけた。「じゃあ、開けるわね」
ぎぃーといって開いた扉の向こう側は奥に長く、幅の狭い部屋になっていた。
真ん中には大きな木の桶のような、楕円形のテーブルのようなものが置かれていて、それが部屋のほとんどを占めていた。
外からのほの白い光が部屋全体を照らしていたが、部屋は十分に明るいとはいえなかった。
「連れてきたのかい? 明かりをつけよう」誰かの声がして、部屋に明かりがついた。
真ん中の物体の向こうに、暗い色のローブを着て、白髪に白髭の老人が立っていた。彼はこちらを見るとにやっと笑った。
奥に長い部屋の両隣は窓になっていて、窓に沿って棚があり、分厚い本や羽根ペン、インク、くるくると丸められた羊皮紙、紙の束、飲みかけのカップ、ものさし、拡大鏡、小さな箒が無造作に置かれていた。それに白いネコがいた。
白いネコはじっとこちらを見つめていた。サフソルムがさっと棚にあがり、白いネコにゆっくりと近づき、互いに鼻と鼻を寄せ合って挨拶をした。
サフソルムがいった。「シルヴィとゴールディアノだ」
ぼくは「シルヴィが白猫のほうだ。そうだろ?」といった。
サフソルムは眉をあげ、頷いた。続けてアリステアとぼくの名前を紹介し、それぞれがよろしく、といった。
「さて」ゴールディアノは両手をすり合わせた。「もう話はついているのかね?」
レネアはふふふ、と笑った。「少しだけ。でもほとんどまだよ。まずはこの不思議なものをジョンとアリステアに見せたいわ」
彼女は部屋の真ん中のほとんどを占めている物体のそばに寄った。
大きな楕円形をした、それの高さは大人の腰くらいまであって、真ん中が深いすり鉢状にへこんでいた。中心から放射線状に何本も線が入っていて、それらが静かに回転をしていた。縁には数字だとか、見たことのない文字だとかが並んでいて、それぞれが一方向に回転したかと思うと今度は逆向きに回転したりした。
その上にはいろんなものが浮かんでいた。緑や青、赤や紫の丸い物体に、輪を伴った丸い玉、雲みたいなもの、虹みたいなもの、眩しく光を放っている玉、半透明の固まり、螺旋状のもの、細長い線状のもの――。それらは単なる「物」には見えなかった。どこかの職人が木や金属で作った物には見えなかったのだ。それらは生き生きとして、楕円の空間のなかをゆっくりと、あるいは素早く、それぞれの速さで弧を描きながら自由自在に巡っていた。
窓の棚にシルヴィと共に仲良く座っているサフソルムがいった。「これに飛びかかりたい気持ちを抑えるのは苦労がいる。オレさまたちにとってはな」




