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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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(33)サフソルムによる、ある人のお話

33.サフソルムによる、ある人のお話

 承知の通り、この世は無数の世界からできている。よって確実でしっかりとした世の中だと思っていても、その壁が薄くなり、違う世界へと誘われることも多々ある。一方ですぐ隣に別の世界の存在を知っていたとしても足を踏み入れないでおくことは一つの知恵である。あくまで自分のいる世界を唯一の世界として生きるということだ。実際、別の世界と関りを持つことを禁じているところすらある。

 ……ここまでの話でよもや質問のある者はいまい。いや、ここで聞いたのが間違いであった。歌うたいの問いはすべて却下である。

 歌うたいが人間の世界からここにやってきているように、ある人物も別の世界からやってきたのだ。

 彼が今よりも若かったときには実にいろんな世界を訪れた。彼が元々住んでいたところでは別の世界に向かうことは問題なかったが深く関わりを持つことは許されていなかった。違う世界において根を下ろし、その地で生きることは言語道断であった。

 少しお高くとまっているように聞こえるが、あくまで彼らは他の世界に住む者とは違うと認識していた。しかし彼だけは好んで違う世界をたびたび訪れ、そこに住む者たちと話をし、関わることを楽しんでいた。

 ある日、彼は自分たちの住む世界を離れて人間界を訪れた。

 ……歌うたいがやかましいな。マグナ……、彼が人間ではないなんて聞いてなかった? はて、どうであったか。こちらが説明をしようとしたものの、自分の好きなように思い込んでいたのではなかったか。とにかくすべての物語がすんでから、この歌うたいのやかましいのに付き合うことにする。

 若き彼は人間界で運命の相手に出会った。当時の彼はそのとき、美しき女性に心を奪われたのだ。

 例えば、一目ぼれなどというものは以前好きだった相手の仕草なり、特徴なりを初めて会った相手のなかに見出した時に成立するのだそうだがな、その女性はそういう類ではなかったのだそうだ。

 運命の相手とはよくいったもので、――オレさまも実にそれは本当のことであると思えるのだが――、ひとつに今世の以前に必ずどこかで神聖なる繋がりがあったと思われる相手がまさしくそれだ。彼にとって、その彼女がそれであったのだ。

 しかしながら彼の世界においては、特に人間界で自ら関わるということは他の何よりも許されないことであった。通常は「見られないようにする」ことが当然のことであったのだから!

 だが彼は彼女と出会い、彼女も彼を認めた。二人は恋に落ち、結婚し、人間界で暮らすこととなった。

 残念なことに彼の住む世界では、一連のことについて彼は罪を犯したも同じといえた。しかし若き彼はどのような風評にも負けるつもりはなかった。彼女も自分も立派に生きていくつもりだった。二人の世界は幸せで満ちていて、それはずっと続くように思われた。

 あるとき彼は自分の元々住んでいた世界に戻ろうとした。戻ったところでどうということはなかったのだから、そこへ向かった。罪といっても、彼の住む世界で「罰」を受けているものを見たことはなかった。いや、そもそも禁じられていることをこれまでにした者がいなかったということかもしれないが。

 しかしなぜか元の世界の入口までやってきたものの、そこへ入ることができなかった。ほかの者たちが難なく入っていくところを不思議なことに彼は通ることができなかった。まるで透明の壁があるかのようだった。

 彼は諦め、戻ることにした。本当に人間界でのみ、自分の生きる道はあるのだ。彼はそう理解した。

 帰り道、空に黒雲が押し寄せ、大変な嵐になったのだそうだ。大粒の雨が落ちてきて、風が吹き、稲光がいくつも走っていた。そこへ一つの強大な力を持った稲妻が彼を目がけて落ちたのだ。

 彼は大変な衝撃と痛みで気を失った。地面に叩きつけられ、血が流れた。雨にうたれたまま、目が覚めることもなく長い間倒れていた。

 彼の落ちた場所は暗く、泥や枯草の広がった大地だったとゆう。

 どれだけの時が経ったのか、彼は目を覚ました。大変な痛みと、体の重さとをすぐに感じた。何かがおかしいと気が付き、鉛のように重い体を動かし、手で背中のあたりをさぐった。

 背中から、彼の持っていた大きな翼がもぎ取られ、消えてしまっていることに気が付いた……」

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