(31)ジョンの話
31.
イーバがソファのもう一つに座った。ぼくは隣に座っていいものか、少し迷い、座る前に、そうだ、マントを脱ぐべきだなと考えた。バルコニーの柵に沿って置きっぱなしにしていた荷物のところまで慌てて戻って、カラスみたいなやつを脱いでくるくると巻いて袋にくくりつけた。アリステアの分の荷物もまとめて全部持ち上げ、再びイーバのところまでやってくると、近くにもう一つの新しいソファが出されているのに気が付いた。
テーブルも置かれて、召使たちがそこに果物のジュースを置いていき、大きな団扇を持った召使が少し離れたところからゆるゆると風を送ってくれた。
荷物を足元に全部置いて、ぼくはイーバの斜め横のソファに座った。
「ああ、ぼくはなんてばかだったんだろう」
イーバは飲み物をすすめ、ぼくは手に取り、飲んだ。青い海と緑によく合う、かつて口にしたことのない甘い味が広がった。
「こんなに良いところがあるなんて思ってもみなかった。初めから知っていたなら何の抵抗もしなかったのに」
「何か抵抗をしたの?」
「正直、お金がもらえるならと思っていたのです」
イーバは微笑んだ。「ここは人間の世界からずっと離れた場所。それでも、かしこに境い目が薄くなっているようなところがあって、そこからあなたの歌声が聞こえてきた」
「あなたにそんなふうにに認めてもらえるなんて」次いで、ここで暮らしてもいいのです、あなたという美しい人のいるここで、と口にだすところだったがやめた。
イーバは嬉しそうに頷いた。そして「ジョンならきっとうまくいくわ」といった。
ぼくは言葉の意味が分からず黙った。サフソルムに目をやったが、二匹は相変わらず夢のなかだった。
「まだ何も聞いてないのね。当然だわ」
イーバの言葉にぼくは何も答えずにいた。彼女は続けた。「マグナスには内緒の話なのよ。でも彼はまだここには来ていないし、話しても構わないかしら」
イーバもサフソルムとアリステアを見た。「やっぱりサフソルムが起きてからにしましょう。さあ、ジョン。どうぞゆっくりなさって。このソファで休んでもいいし、部屋を用意させてもいい。夕飯は豪華になるわ」イーバはほっそりとした長い指を組み合わせ、嬉しそうに笑った。
ぼくの顔がひどくくたびれてなければいいが。ちょっとした嫌な予感を感じて弾んでいた心が大人しくなり、ここで彼らと一緒に休ませてもらいます、といった。
イーバはぼくの顔を見て、少し心配そうな顔になった。「ジョン、あなたに感謝いたしますわ」
「ぼくにできることなんて」低い声がおずおずと出た。「ごく限られているのではないかと」
「いいえ、そんなことはありません。あなたは大変な素晴らしい方」
イーバはぼくの目の前に駆け寄り、さっと腰を落とすと、ぼくの目を真っ直ぐに見ていった。「あなたなら申し分ない。きっと私の望みを叶えてくださる」
彼女の瞳は少し潤んでいるようにも見え、ぼくらは互いを見つめ合った。
はたして本来ならばここで何かが燃え上がるべきではなかったか? しかし一度疑問を持ってしまったジョンの心が勢いを取り戻すことはなかった。
イーバがお付きの者たちと共に去っていき、ぼくはそのままフサフサたちの眠っている近くのソファで横になった。波の音は聞こえなかったが、海鳥の鳴く声は聞こえた。こんな素晴らしいところで昼寝ができるなんて。いったい誰に感謝したらいいのやら!




