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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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(26)イザベラと馬のマリウスの話

26.イザベラと馬のマリウスの話

 イザベラはマリウスに乗って、先ほどまで食事をし、眠ろうとしていた小さな広場まで戻ってきた。

 月明りはこれまでに見たことがないほど眩しく、辺り一帯を照らし出していた。その光が木の葉や枝の形を地面に濃く黒く映していて複雑な影の模様を作っていた。

 風はわずかに吹いていたものの、木の枝を揺らすほどではなかった。何の音もしなかったが、イザベラには何者かがその場にいるのが分かっていた。彼女は上を向かなかった。地面に落ちている無数の葉の影だけを眺めていた。

 静かだった。しかし黒いレースのように広がった葉の影が、ざわ、と動いたときには何かが木の上からイザベラを目がけて襲い掛かってきた。

 昨晩もそうだったが、彼らは武器を持っていないようだった。イザベラの鋭い剣は難なく相手を切った。彼女にとって彼らはほとんど敵ではなかった。しかし相手の数は昨晩の比ではなかった。

 顔を上げると、木の枝に彼らが何十人といるのが見えた。

 眩しい月明りが一人一人の姿まで露わにしていた。灰色の肌に、ぼろぼろの衣服を身にまとい、長い爪、長く伸びた牙が見えた。痩せていて、イザベラよりもずっと小柄に見えた。

「あーあ。まったくなんてことかしら。いまから山を下りるんだから。こっちへ付いてきなさい」

 しかし彼らに言葉が分かるわけもなく、灰色の鬼たちは次々とイザベラの頭上へ飛んできた。

 そのたびにイザベラは剣をふるい、地面に落ちた者がまた立ち上がってマリウスの足などを襲おうとするのを見つけたときにはさらに容赦なく切りつけた。その一帯にいた彼らがほとんど倒れた後で、こちらへと上ってくる道へと視線をうつすと、その倍以上の数の灰色の鬼たちがじわじわと移動してくるのが見えた。

「マリウス。さぁ、ここを一気に駆けおりましょう。ふもとまで下りきったらまたお屋敷に戻るのよ」イザベラは左手で手綱をしっかりと握り直し、右手の剣を掲げると鬼たちのなかへと突っ込んでいった。

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