(25)ジョンの話
25.
しばらくの間は馬の駆ける音が山の地面全体に伝わるようにして耳に届いていた。それが次第に遠のいていって、本当にかすかになって、やがて消えていった。
取り残された三人は無言で立ち尽くした。ぼくは問わずにはいられなかった。「どう思う?」
サフソルムがため息をついた。「オレさまにもよくわからぬ。あの女に何かあってもそれはオレさまたちのせいではないとゆうことだけは確かだが、しかし何か……」
「要はイザベラが無事に屋敷にたどり着けるならそれでいいよ。そうだろ? ワインと女戦士の恋心だか、嫉妬心だかが一緒になるとああなるってことだ。正しい判断ができなくなって、目も当てられなくなるってこと。でもとにかく彼女がいってた通り、黒い羽根があるんならきっと無事にマグナスのところへ戻れるさ」
ぼくがそういったものの、人間一人とネコ一匹と人間オオカミの一人一匹は言葉もなく、しばらく立ち尽くすばかりだった。ふと空を仰ぐと星は全く見えなくて月の光が目に入るばかりだった。
アリステアがいった。「ねぇ、やっぱり何か気配があるよ。ぼくたちももう行ったほうがいい」
サフソルムがうなずいた。
アリステアが続けた。「ぼく、今からフサフサになるよ。でもフサフサになるとサフソルムとは違って言葉は話せないから。でも人間の大人くらいにはなるよ。そしたらジョンが乗ったらいい」
え、と言葉をかける前に、いや、まばたき一つをして目を開けたときには、アリステアはもうオオカミの顔に、耳に、肩に、背中へと変わっていく途中だった。四つ足の姿勢となり、見る間に手の先、足の先、そしてしっぽの先へとフサフサが波打って、輝く銀色に変化し、大きな生き物に生まれ変わっていた。
あああ! とぼくは叫んだ。心臓がどきどきした。肩で息をし、少し落ち着いたところで近くに落ちていたアリステアの荷物をぎこちなく拾い上げた。
自分の荷物も持ったまま、手を伸ばし、大きなオオカミの背中の毛を触った。ネコほどではないが、なめらかな感触で実際フサフサのワサワサだった。
「なんという有難き話よ」ネコがいった。「さあ、歌うたい。早く乗れ!」
オオカミは子供の大きさではなかった。大人一人を乗せるには十分な大きさだった。背に乗ると、サフソルムはいった。「たてがみと首につかまれ! 姿勢を低くしろ! 馬の速度の比ではないぞ! 振り落とされるなよ、歌うたい!」
道の分かっているネコが突如として走り出し、そのあとをすごい速さでオオカミが走り出した。
いわれなくてもしがみついているしかなかった。黒い木の陰が辺りをかすめ、耳のまわりでゴウゴウと風が渦巻いて後ろに流れていった。気を失わないようにするのがせめてもの、乗せてもらっている者の礼儀であるような気がしたが、頭のなかは完全に真っ白となった。




