(20)ジョンの話
20.
森をどれだけか進んだ後に、道が坂になり始めた。全員がイザベラのいわれるままに馬から降ろされた。ネコ以外は皆いくらかの荷物を持っていたので、荷物だけをマリウスの背で運んでもらいながら歩いて坂を登っていくことになった。
道は少しずつ細く険しくなっていった。
相変わらずサフソルムは言葉を話さないネコとして、気取って歩いていた。
少しずつ夜へと近づいているのが何とも嫌な感じだったので、何度かネコに質問をして、――目的地には今日中に着けるのか、それとももっと時間がかかるのか――、答えを引き出そうとしたが一向に答えを得ることができなかった。
森のどこかでぎゃあぎゃあと鳥の鳴く声がした。風が涼しく吹いてきて、寒さを感じた。
「今日は野宿に違いない」ぼくはまたネコに聞こえるようにいった。「こんな時間から山に入って、そのうえ変な生き物がやってきたときには、サフソルムは木に駆け上り、イザベラはアリステアを守って、ぼくだけがとんでもないことになるんだ」
前を馬と歩いていたイザベラがうるさいわね、といった。「じゃあ、さっきの屋敷にみんなで残ってればよかったじゃない。なんで先を急いだのよ」
「あっちにも変なのが来るっていってたからさ」
ぼくのすぐ前を歩くアリステアが振り返っていった。「家には何日かおきに来るんだ。きっと今日が来る日だよ」
「ほら。やっぱり急いで正解だった。野宿は別に構わないさ、もしここが安全な人間の世界というところならね。ぼくがいいたいのはサフソルムしか道の分かる者はいないんだ。もう少しほかの同行者に親切にしてくれたっていいんじゃないかってことさ」
ぼくのお喋りに誰かが答えることもなく、一行は歩き続けた。いよいよ日が落ちてきて、足元の視界も悪くなりつつあった。思わず上を仰ぎ、腹の底からため息をついた。
ふふ、と前を歩くアリステアが笑った。「サフソルム? ぼくにはきみが言葉を話せること、わかっているよ」
え? とぼくは彼を見た。
アリステアが続けた。「ぼくたち、鼻もいいけど耳もすごくいいんだ。きみがマグナスと話しているのを聞いたことがあるんだ。きみがぼくのために優しくしてくれてるのもわかってるよ。それでぼくがサフソルムのことを大好きってことはこれからもずっと変わらないことなんだ」
先頭を歩くネコは馬の陰に見え隠れしていたが、その姿が一瞬しおらしく、小さくなったように見えた。そしてサフソルムはそっと歩くのをやめた。後に続く全員が全体で止まった。
アリステアは馬の横をうまくすり抜け、サフソルムに近づき、抱き上げてぎゅっとした。
はたして次にどうなるかと見守っていると、アリステアの胸元でじっとしていたサフソルムは不意にくるりと顔の向きを変え、こちらを見た。「フサフサがフサフサに抱えられている」
ああ、とぼくはちょっと気の抜けた返事をした。「ぼくにはよくわからないけど、きみにとってはそうなんだろうね」
「このまま、あとしばし進むと開けたところに出る。そこで野宿としよう」サフソルムは威厳を保ちながら、そういった。




