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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
19/95

(19)ジョンの話

19.

 サフソルムは目を見開き、イザベラは片手でぱたんとテーブルをたたいた。

「いやよ」と女戦士。「どういうこと? マグナスはここであの女と残るっていうの?」

 マグナスは静かな口調でいった。「アリステアだけでも先に安全な場所に行かせたいんだ。彼女は息子を離したくないばかりさ。やっとここまで聞いてもらえたんだ」続けて「イザベラ、きみが頼りだよ」とマグナスは女戦士を見た。

 イザベラはため息とも笑いともつかないような声をだした。「ネコと子供に、歌うたい。人が見たらなんて思うかしら。曲芸の移動集団?」

「家族には見えないと思うけど」とぼく。

「家族ですって? あんたがだんなで、子供がいる……、って冗談じゃないわ。ねぇ、マグナス、あなたがいるからここにいるようなものよ。あの女がここにいたいっていうなら、そうさせてあげればいいじゃない。あなたが付き合う必要はないでしょう?」

「そうはいかないよ」マグナスが答えた。「彼女が悪いわけじゃない。……少し遅れるだけさ。すぐに追いかける。多分」

「あんな頑固そうな人、誰かのいうことを聞くとは思えないわね」とイザベラ。

 マグナスは少し笑って、「きみは、でも、おれの頼みを聞いてくれるだろう?」といった。

 イザベラはふん、といった。

「きみが聞いてくれるんなら」マグナスが続けた。「ジョンには報酬が渡るのだから、はるばるここまで来て頼みも聞いてくれるイザベラには、これが終わったら今度はきみの行きたいところに付き合うよ。戦場に行きたいのかい? それともどこか異国の砂漠にあるオアシスへ?」

 ヒュー、とイザベラは自分で口笛を吹いた。「悪くないわね。悪くないわ」

「マグナス」ぼくは口をはさんだ。「イザベラが勘違いするよ」

 マグナスは今度はサフソルムのほうを見た。サフソルムはテーブルの上を身軽に飛んで、マグナスのもとへ駆けこんだ。マグナスはサフソルムの頭と背中をゆっくりと撫でた。

「まったく迷惑な話」ネコがいった。

「イーバに謝っておいてくれるかい?」

「説明はしようと思っている。オレさまとしてもマグナスと共にいたいのだ。本当に。仕方がない、この先はオレさましか道がわからぬのだからな」

 かくして旅の仲間はイーバのもとへ向かうぼくたちと屋敷に残るマグナスたちとに分かれることになった。

 ぼくは夜中にやってくるという何かに遭遇せずにすむことで、とりあえずは安堵の気持ちでいっぱいだった。

 出発前、アリステアは少し不安そうだったが、しかしそこは母のいうことを聞こうとする気持ちがあるのだろう、徐々にしっかりした顔つきになりつつあった。

 出発に先立って、ずっと共に過ごしていた二頭の馬ともお別れすることになった。この先はますます人間の街がある世界から遠のくため、とのことだった。サフソルムが二頭の耳元で何か囁くと、二頭は連れだってどこかへ駆けていった。

「問題なく帰れるのかい?」ぼくは尋ねた。

「もちろんだとも。心配無用」サフソルムは答えた。

 一方、イザベラの愛馬マリウスは共に進む道を選んだ。選んだというか、勿論イザベラがそれを望んだためだけど。ここで愛馬を手放すとなったら、イザベラの同行もなくなるに決まっていた。

 正直、今後危険なことがあった場合、頼りになるのはイザベラの剣であると思われた。サフソルムは自分でうまくやるだろうし、アリステアもうまくやることだろう。だけどその上でぼくの身まで考えてくれるとは到底思えなかった。イザベラだって同じではあるけど、うまく彼女が盾になるようにぼくが動き回れば……! 要は本当の丸腰はぼくだけだってこと。

 マリウスはたくさん食事をしたようで元気いっぱいだった。その背にまずはイザベラが乗り、サフソルムが先頭に乗り、ママ・マリオンから固い抱擁とキスを受けて、荷物一式を持ったアリステアがイザベラの後ろに乗った。

 ぼくは美しいマリオンにお会いできてよかったと挨拶した。美しいながらも傷ついた気持ちでいる彼女を少し抱擁したい気持ちもあったが、噛みつかれることもあるかもしれないと思ってやめた。

 はたして、馬に向き直り、上にいるイザベラを見上げた。

「ジョンは歩いてきなさいよ」イザベラの声がふってきた。

「冗談だろ」

「ゆっくり行くんだから大丈夫よ」

「サフソルム、なんで馬を戻しちゃったんだよ」

 ネコはまた言葉がわからないふりをした。

 マグナスが頼むよ、イザベラ、と声をかけ、ぼくは後ろから背中を押されて、アリステアからもひっぱられ、馬の背に何とかあがった。

「こんなに乗るなんて、どっちにしたってゆっくりしか進めないわ!」イザベラが嘆いた。

 マグナスがぼくたちに声をかけた。「またあとで会おう」

 馬が進みだした。ぼくの前にいたアリステアは二度ほど後ろを見たが、そのあとは前を向いたままで振り返ることをしなかった。

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