(18)ジョンの話
18.
日が完全に暮れるまではまだしばらくはありそうだった。
マリオンは台所からたくさんの肉を持ってきた。半分焼いてある柔らかそうなもの、燻製になっているものなど、いろんな種類の肉が並んだ。パンにチーズ、リンゴ、果実や木の実の干したもの、それにワインも並んだ。
ぼくはそれらを口にほおりこんでは「うまいよ」といった。マリオンは固い表情だったが、アリステアは喜んでいた。これはどうか、これもどうか、といろいろすすめてくれた。
会話はほとんどないも同然だった。イザベラはマグナスとマリオンのことでおもしろくなさそうだったし、サフソルムは何を思ってか、やっぱり一言も話そうとはしなかった。
「ちょっと失礼」ぼくは席を立ち、手洗い場で手を洗って、また戻ってきた。楽器を袋から取り出して、テーブルに並んでいた椅子を壁際に運んでくるとそこに座った。
楽器を抱え、弦に指を置き、弾いた。静かで透明な音が響いた。何か楽しい曲をやれといわれてもそれは無理な話で、哀しいような、でもそれにじっと耐えているかのような、しかし感情的というわけでもなく、ただ淡々と透明な音をつないだ。この哀しみは癒えるのだろうか、延々と続くのだろうか、それとも野に咲く花に目をとめて違うことを思い始めてみるのは……?
そんなメロディを何曲が弾いているうちに、アリステアがサフソルムを連れてやってきて、すぐそばの椅子に座った。
夕暮れにはまだ時間があったし、しばらくは何の心配はいらないように思えた。でも少し太陽が遮られたのか、マリオンはテーブルの上に置かれていた明かりに火を灯していった。
ぼくは指を動かし、静かな曲を弾き続けていた。背後の窓が少しガタガタいっているのが聞こえて、思わず顔をあげた。黒い雲が流れてきたようで外は灰色だった。
雨音が地面や窓をたたく音がした。誰も話さず、楽器の音だけが聞こえていたが、イザベラが小さな声で「ねぇ、見て」といった。
いわれた通りに目を向けると、テーブルに置かれた明かりの周りを小さな光が飛び回っているのが見えた。本当に小さな光で、蛍よりもずっと小さなものだった。
思わず声をかけた。「妖精かい?」
「いいえ」とマリオンが答えた。「妖精たちはずっと前に姿を消してしまった。この小さな光は森の木や植物に宿るスピリット、精霊たちよ。あなたの音楽を聞きつけてやってきたのでしょう」
アリステアはテーブルへと向き直り、頬杖をついて、飛び回る光たちを眺めていた。サフソルムはテーブルの上に伏せの状態でいて今にも光に飛びかかりそうだったが、とりあえずは目だけで熱心に追いかけていた。マリオンもイザベラもマグナスもきらめく光を眺めていて、それぞれの顔に柔らかな光が当たり、頬が上気しているように見えた。
ぼくの気分で弾き続けていた、いくつかの曲はやがて小さな光たちが姿を消していったので、ついに終わりにすることにした。にわかに曇った外はまたどこかから日が照り始めていた。
マリオンは席をたち、アリステアを呼んで部屋の外へと出て行った。
ぼくは再びテーブルのそばに座った。次いで近くにいたサフソルムに「何を気取っているのさ?」と尋ねた。
「気取るとは? 何をだ?」
「言葉がわからないふりしてるってことだよ」
「どうということもない。あの子供にはそれがよかろうと思ってのことだ」
「なんで?」
「ときに大きな喪失の後は言葉で癒せぬことがあるものだ。よって優しいオレさまが言葉に頼らぬ方法であの子供を励ましているというわけだ」
「励ましてるって? サフソルム、ぼくだってくたびれてるよ」
「歌うたいなら金銭のほうが元気が出るであろう?」ネコは瞳をきらりとさせていった。
ぼくたちの会話を聞いていたマグナスが「話があるんだ」といった。
「ああ、早く出発したいよ、そうだろ?」ぼくは嘆いた。
「そのことなんだが、サフソルム、イザベラ」マグナスは二人を見た。「ジョンとアリステアを連れて、四人でイーバのところへ行ってくれないか」




