(14)ジョンの話
14.
全員が身支度を終えて一階に集まったが、そこに昨晩の灰色の鬼たちを見つけることはできなかった。マグナスがお金らしきものを宿の受付けのところに置き、隣に置かれていた四つの包みを手にした。
「朝ごはんだよ」マグナスはそういって、イザベラとぼくに一つずつを手渡した。「それとこれはサフソルムの分。ジョンが持ってくれる」
ああ、といって計二つを受け取ったが、また野暮なことを聞かずにはいられなかった。「気持ちの悪いものは入ってないだろうね?」
答えてくれる者はいなくて、代わりにマグナスがいった。「宿の者はみんな朝の光がだめなのさ」
サフソルムが後を続けた。「夜が活動する時間、朝は休む時間。日の光があるうちは誰も襲わない」
「それはいいことを聞いた」とぼく。
宿を出て、再び馬に乗り、表の道を進み出した。ぼくは誰にともなくいった。「ここがそんなに食うか食われるかの世界だったとは。もっとふわふわした、――毛足が長いとか、妖精とかのさ――、生き物がたくさんいるものだと。まったくのんきに歩いていていいとは思えないね」
ぼくとサフソルムが乗る馬とマグナスの乗る馬とは並んで歩いていた。イザベラの乗る馬だけが少し離れてついてきていた。三頭の馬は規則正しく、おだやかな足取りで進んだ。マグナスが昨日の話の続きを話そうといった。
「サフソルムと共に、再びマリオンの屋敷を訪れたのは十日ほど前のことだ。おれが最後にそこを訪れたときからどのくらいの年月が経っていただろうか。十年、いやもっとだ」
ぼくの前に座っていたサフソルムが口をはさんだ。「つまりイーバ様からの頼みごとを果たすよりも先にそこへ寄ったのだ。方向が同じだからとゆうのでな。オレさまは歌うたいを連れて行くことを先にすればよいと思ったのだが」
マグナスは続けた。「何年か訪れなかっただけで森の雰囲気がそんなに変わるものだろうか。おれはそう思った。森のあちこちに存在していた妖精たちも姿が見えなかった。もっともおれの姿だって以前とは違っていたのだから変わらないでいることが当たり前とは思ってない」
前にいたサフソルムが鼻を鳴らしたのが聞えたが、マグナスは続けた。
「屋敷も誰かが愛情を持って住んでいる雰囲気がなくなっていた。門を作っている石が割れ、裂け目から雑草が伸び、屋敷の木も手入れされていないように見えた。だが入り口をノックすると召使が出てきて、おれたちを通してくれた。少なくとも誰かが住んでいることだけはわかった。ホールに通され、表の庭を見たときは言葉を失ったよ。噴水が打ち割られ、水はでておらず、庭の多くの緑が枯れていた。いや、庭の緑だけじゃない、遠くの山の緑もくすんでどこか茶色をおびていた。言葉を失って立っていたところへ後ろから声がかかった」
サフソルムが口をはさんだ。「女主人の登場だ。マグナス、あなたね、と。女は驚いたままマグナスの背に手をやった。いったいどうしたの、と」
ぼくも思わずいった。「二人は見つめあった。手をとりあって。そうだろ? 長い間会っていなかったんだ」
いくらか後ろを歩くイザベラが大きく咳払いしているのが聞えた。ぼくは小声でサフソルムにいった。「聞かれてるよ」
「何にも聞えないわよ――」背後からイザベラの声が耳に届いた。
「手をとりあっていたかどうかは忘れたがな」とサフソルム。「女主人は美しかった。もっともオレさまは犬族とは互いにまったく理解できぬ仲ゆえ、早くここを立ち去ることを望んでいたのだがな。女主人はオレさまには一瞥もくれなかった。思うにオレさまに妬いていたのではないかと……」
「マリオンは」マグナスがまた話し出した。「変わらず赤いドレスを着ていた。美しさも変わってなかった。おれはさっきもいったが年数を経て変わったところがあった。それで彼女はどうしたのかとおれに聞いたんだ。見た目は変わったかもしれないが、不自由することなく生きていると答えて、それよりきみのほうこそ何があったのかとたずねた……




