(13)ジョンの話
13.ジョンの話
雨はあいかわらず降り続いていた。部屋のオレンジ色の明かりがサフソルムの光る瞳とマグナスの表情を照らし出していた。
マグナスは何かを思い出しているのか、炎のような力強さがゆらいだような、ずいぶんとさびしげな顔をしたように見えた。
でも話をここで終わらせるわけにはいかなかった。「そして? それから? きみが一組の良きカップルを作って、まったくもって丸くおさまったふうに見えるけど」
「ああ」とマグナスは返事をした。「続きは明日にするよ。明日、また話そう」
続きを聞きたいという願いはあっさりと翌日に持ち越しとなった。明かりが消され、若干の薄気味悪さがあるなかで眠りに落ちた。翌朝、まだまったくの深い眠りの最中に、しおらしいノックもあったものではない、ドアの開く大きな音と共にイザベラが駆け込んできた。心地よい睡眠は大きな鍋が落ちてきたかのような衝撃と共に突如破られた。
「ちょっと! 昨日の晩、何があったと思う?」イザベラは入ってくるなり、そういった。
サフソルムはすでに起きていてベッドの上に行儀よく座り、入ってきたイザベラを見上げていた。マグナスはゆっくりと身を起こしていた。ぼくはというと、いったん跳ね起きて大げさにため息をついてやり、すぐにまたベッドに倒れこんだ。
「きれいな干草が厩に積んであって、ひっぱってきてマリウスのそばで横になったの。すっかり眠り込んだ後で夜中にはっと目が覚めた。気配がした」
ぼくはイザベラの声に得意げな響きがこもるのを聞きながら横になっていた。
「誰かが歩くような音。それもひとりじゃない。三方向から。辺りは特に明かりもなかったけど、気が付いたの。剣の柄に手をかけて寝ているふりをした。近くの馬たちは気がついて足踏みをしたり、小さくいななきだした。でもマリウスはそういうことはしないの。私を信用してるから。靴の音ではない、小さな歩く音がどんどん近付いてきた。馬が目当てじゃないのよ。私は剣がおよそ届くだろうという、その瞬間まで待った」
イザベラは間をとった。「ついにそのときが来て、立ち上がって剣を抜き、相手を払った。叫び声があがったわ。ついでもう一方から襲ってきた者へも剣を突き刺した」
気味悪く、胃がむかむかするようなことを朝一番から聞かなくてはならぬのはまったくの不運だった。
イザベラの嬉々とした威勢のよい口調は続いた。「人間が好きな奴らがいるっていってたでしょ? 暗かったからどんな者かはわからなかったけど、彼らも突如、本気をだしてきた。唸り声みたいなのをあげだした。私は次の攻撃に備えて身構えた。ところが、よ。彼らは不意にギャとか何とかいって一目散に厩から逃げ出していったの。私は訳が分からなかったわ。でも剣をおさめたときに何となく気が付いたの。これよ」
ぼくはイザベラのほうを見るために少し頭をずらして薄目をあけた。彼女は例の大きな、まっ黒な羽根を手にしていた。
「ごらんの通り、私の着ている服は砂色をしている。森で戦いがあるのならもっと暗い色がいいんでしょうけど、砂漠や岩場で戦うことが多かったから。まぁ、そんなことはどうでもいいわ。とにかく私はこの羽根に紐を結んで首からかけて服のなかに入れてたの。それがいつの間にか飛び出してきてたのよ。明るい色の衣装に黒い羽根。彼らにはよく見え、すっかり驚いて退散していった。違う?」
マグナスが、きみがすばらしい戦士でよかったよ、といった。
ぼくは思わず「それでそのあと、普通に寝られたってことかい? たいしたものだ」と声をだした。
イザベラはこっちを見ると、「それ、褒め言葉よね?」と聞いた。
身を起こして、もちろんさ、とぼくは答えた。




