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ネコは大事だが歌うたいはそうでもない  作者: ヤマノ ミィオ
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(11)マグナスの昔の話

11. マグナスの昔の話

 マグナスは一階のホールに置かれた椅子に座り、日が落ちて薄暗がりへと空が変わっていくのを大きな窓から眺めていた。

 赤いドレスの姉以外、屋敷に誰もいないのかと思っていたが、召使が何人かいて、ホールの隣の食堂でディナーの支度を始めだした。

 やがて広大な庭のずっと向こうからかがり火がいくつも見えて、それらが徐々に集まり、こちらへとやってくるのがわかった。

 マグナスは立ち上がって、戻ってきた十四、五人を出迎えることにした。

 かがり火は何かを燃やしていたわけではなく、どれもが鬼火を使った明かりだった。帰ってきた者たちが庭からホールへと続く、大きな扉に入るときには火はすうっと空の上へと消えていった。

 帰ってきた男たちの年齢はいろいろだった。白髪で年をとった顔の者もいれば、もう少し若い者もいた。しかしいちばん若い男が弟であるのはすぐにわかった。

 彼らはマグナスを見ると少し驚いた顔をしたが、マグナス自身は自分の特徴として多くの者が自分に警戒心を持つことが少ないのを分かっていたので、自ら挨拶をすると誰もが同じように挨拶を返した。

 マグナスは弟に近付くと話をしたい、といった。二人は庭にでることにした。

 弟はマグナスの話を聞いて、誰にも知られていないと思っていたのに、そう思っていたのは自分だけで多くの者に知られていたことに困惑の表情を浮かべた。マグナスは街の娘がどこか周囲のために利用されているような気がしていたし、それに住む世界が違っている者同士が共に生きていくのは全く新しくてわくわくすることだと考えていた。そこから見たこともないような風が世界に吹き渡っていく気が大いにしていた。妖精たちほどではないにしろ、マグナスにもそんな熱意があったのだ。

 二人は庭を歩いて大きな噴水の近くまで来た。やってきた方角を振り返ると屋敷が見え、全員が揃った食事のための部屋が蝋燭の明かりに照らし出されていた。ワインの栓が開けられ、料理が運ばれてくるのが見えた。全員が長いテーブルに並んで座って、語り合い、笑顔を見せ、酒を飲み、料理を味わおうとしているところだった。

「この屋敷はもう何百年と続いているんだ」弟はそういった。「父や母はもういないんだけどね。おじやおばや親戚やらで毎日にぎやかにやってるよ」しばらく黙っていたが、また話した。「この先もまだずっと続いていくのがいい気がするよ。どこまでも駆けていける豊かな森に、食べ物にきれいな水も湧いている。空気は澄んでいて、真夜中に月が出たならば皆がなかなかの良い声で鳴いてずいぶん遠くまで声が渡っていく。どうして月がでると皆鳴きたくなるのだろう? お酒も入ったとなれば屋敷の屋上で大合唱さ。姉さんはあまり参加しないのだけど。これからも一族はここで自然に囲まれてずっと生きていくんだ」

「じゃあ、きみがここを出るのは難しいかい?」とマグナスが尋ねた。

「ここを出る? どういう意味?」

「きみの愛する彼女も家を出て、きみもここを出て……」マグナスは小さく笑みを浮かべた。

 弟は肩をすくめた。「きみのなかではずいぶん話が進んでいるんだね」

「そうでもないさ」マグナスは真っ直ぐな目で弟を見た。「明日にだって二人の願いを叶えられる」

「おもしろいことをいうね」弟はそっと笑った。「もう二度と会うこともないと思うけれども、もしまた会ってしまったらその人の持つ何かを感じて魂が震えだす」

 ああ、とマグナスはうなづいた。「それで姉さんは反対なようだけど、構わないかい?」

「何が?」弟はマグナスに聞いた。

 マグナスは笑って、それじゃあ失礼するよといって去ろうとした。弟が声をかけた。「食事は? 食事をよかったら一緒にどう?」

「ありがとう」マグナスはそういって、屋敷のほうを眺めた。「ほら、姉さんが入り口に」

 弟も屋敷を見た。姉がこちらへ来ようとしていた。ほんとうだ、と弟が再びマグナスを見たときには姿は消えていてどこにも見つけることができなかった。

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