マネキネコ (箱物語19)
学校からの帰り道、家の近くのゴミステーションで金色のマネキネコを見つけた。
それは貯金箱だった。
古いもので、それにずいぶんよごれている。
捨て猫みたいでかわいそうだったので、ボクは家に持って帰って洗ってやった。
貯金箱を自分の机の上に置く。
その夜。
ボクがベッドに入ったときだった。
暗くなった部屋で、マネキネコがぼんやり輝き始めた。それから猫のように歩いてきて、ボクに向かってぺこんと頭を下げた。
「ありがとうよ」
マネキネコがしゃべった。
「えっー!」
ボクはもうびっくりだ。
「そんなにおどろくでない。オマエに願いを叶えてやろうと思ってな」
「お願いって?」
「お礼だよ。拾ってくれたうえ、こんなにきれいにしてくれたからな」
「ほんとに?」
「ああ、ただしひとつだけだぞ」
「ひとつだけか……」
おこづかい、サッカー、勉強……。
お願いしたいことがいっぱいあって、ひとつだけだとなんにしようか迷ってしまう。
――そうだ、メグミちゃんだ。
メグミちゃんは男子のあこがれのマト。勉強ができて、気立てよくて、そのうえかわいい。
ボクはお願いをした。
「メグミちゃんのことだけど、ボクのカノジョになってほしいんだ」
「だったら、その子にデートを申しこむんだ。それで願いが叶うからな」
「それだけで?」
「ああ」
マネキネコの輝きがうすれていく。
朝の教室。
メグミちゃんに何度も声をかけようとしたけど、なかなかその勇気がわかない。
授業が進み、昼休みの時間も言い出せなかった。
デートをしてください。
その言葉が、のどのところまで出かけてはひっこんでしまう。
その日。
告白をすることができなかった。
でも、あせることはない。告白のチャンスは明日もあるのだ。
学校から帰ったボクを、サイアクな事件が待っていた。
マネキネコがブタに変わっていたんだ。
それも貯金箱だった。
犯人はお母さんにちがいない。
「ねえ、金色のマネキネコは?」
「あの貯金箱、どこのだれのもんだったかわかんないでしょ。気持ち悪いから捨てちゃったわよ」
「そんなあー」
「新しい貯金箱、かわりに買ってあったでしょ」
「ブタじゃダメなんだよ」
すぐにゴミステーションに行ってみた。
だけど金色のマネキネコ、そのときはもう清掃車に回収されたあとだった。
次の日の朝。
教室に入るなり、タクヤがにこにこしながらやってきた。
タクヤは親友で家も近くだ。
「昨日、学校の帰りに金色のマネキネコを拾ったんだけど、そいつがな……」
タクヤの話を聞いてびっくりした。
夜、金色に輝き出したこと。
ひとつだけ望みを叶えてくれること。
それらはボクのときとまったく同じだった。
「なっ、すげえだろ」
タクヤの目が輝いている。
「それでお願い、なんにしたんだ?」
「もちろんメグミちゃんのこと。カノジョにしてほしいってな」
お願いごとまでボクと同じだった。
メグミちゃんがタクヤのカノジョに……。
考えただけでサイアクだ。
その日。
タクヤはボクと同じで、なかなか言い出せないでいた。でも、いつ告白するかしれない。
ずっと気が気でならなかった。
学校からの帰り道。
「なあ、どうだった?」
ボクはそれとなくタクヤに聞いてみた。
「それがな、どうしても言い出せなくって。でも、明日でもいいからな」
そうなんだ。
タクヤには、これからもチャンスがあるのだ。
――メグミちゃんとタクヤは……。
サイアクだ。
その日の夕方、
タクヤがションボリした顔でやってきた。
「マネキネコ、お母さんに捨てられちゃったんだ。それでパンダの貯金箱に……」
タクヤもボクと同じだった。
ゴミステーションに探しに行ったけど、マネキネコはなかったそうだ。
――よかった……。
これでメグミちゃんが、タクヤのカノジョにならずにすむ。
だけど事件は、それだけでは終わらなかった。
次の日の放課後。
クラスでイヤな話を耳にした。
昨日ケイタが、金色のマネキネコを拾ったというのだ。
ケイタはなまいきで、ずうずうしいヤツだ。で、メグミちゃんのことが好きときている。
――なんでケイタなんだ。
ケイタはすぐに告白したにちがいない。
ボクとタクヤは近所のお好み焼き屋に行った。
これから二人で失恋のヤケグイだ。
「今日は大盛りね」
「そう、失恋のヤケグイなんだ」
ボクたちが注文すると……。
「また失恋のヤケグイか」
なぜだか店のおじさんが大声で笑った。
「えっ?」
「だれ?」
タクヤとおもわず顔を見合わせる。
「ほら、ケイタくんだよ。ついさっき、あの子もそう言って、大盛りを食べて帰ったんだ」
「やったあー」
ボクらはおもいきりガッツポーズをしていた。
あれから金色のマネキネコの話は聞かない。
メグミちゃんがだれかとデートしたようすもない。
あの金色のマネキネコ。
今でも、あちこちの町のゴミステーションを移動しているのだろうか。