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酒と枠なしザルと男と女  作者: カサハリ職人
7/25

御武運を

今回、酒が出てきません。

なので、男と女の方です。


なので前書きは素面っぽいです。


飲んでませんよ。

やたら精神的に疲れた午前の仕事に一区切りつけ、社食に向かう。

リーズナブルで美味しい、程よい量と質。メニューは日替わりランチABCの3種類のみ。こってりガッツリ系のA、あっさりサッパリ系のB、ヘルシー美容にいい系のC。言わずもがなどれもバランスがとれている。

玄人のこだわり満載。

ちなみに、大盛り無料。


早苗はA定食を受け取り、空いてる席に陣取る。

両手を合わせて小さく「いただきます」と挨拶し、割り箸を割ったところ、隣に人が立った。


「早苗、一緒いい?」


セミロングのふわふわの髪をポンパドールに纏めて、クリクリとした愛らしい目を笑みの形にして見つめている。

少しだけつんとした鼻と、ポッテリした唇。中肉中背で、健康的な凸凹。

目があったらウィンクされた。

彼女の名は、片瀬菜々美。総務課時代の同僚で、今は総務の課長補佐をしている。


・・・余談だが、総務課の課長は定年間近で、菜々美を育て上げ、後釜に添えることに執念を燃やしている。人事や重役達から薦められる後釜は、所謂コネクションで、あまり「使えなさそう」とのことで絶賛拒否、回避中らしい。


早苗は「どうぞ」と、トレイを寄せた。

礼を言って、綺麗な所作で座るのを見届ける。

周囲の社員の目が集められるのがわかる。

地味な格好をしている早苗と美人な菜々美が並ぶとまぁ、こうなるわな。なんて考えながら定食を食べ進める。


「なに?荒れてるの?A定食って。」

「食べなきゃ持たなそう。」


早苗は周囲に聞かれない程度に午前中の出来事を話した。

目を会わせず淡々と。ご飯はしっかり食べながら話す。

途中、前園の辺りから何やら呆然とする雰囲気がした。

菜々美がそんな隙を見せるはずがないと、話を続ける。

斎藤の辺りから机がカタカタ震えだした。

目を上げると、思わず眉間にシワを寄せた。


顔を右の方に向けてやや俯いている。ついでに右の手で口許を覆っている。左の手はお腹に回され、きつく押さえつけているようだ。肩が震えている。その震えのせいで机が揺れていたようだ。


・・・笑ってる?


よくよく耳をすませば、小さな笑い声がする。

髪の間から見える顔や耳は真っ赤だ。


「・・・ぶっ・・・切腹って・・・魔王って・・・」


同僚の壺にはまったようだ。

暫くカタカタして、ようやく落ち着いた頃に両手をはなす。


「私のイメージが壊れたら早苗のせいよ。」


目元を真っ赤にして食事を始める。

確か、午後の会議で斎藤と菜々美は会う筈だ。


「御武運を。」





午後の仕事は恙無く進んでいく。

パソコンがおかしくなることも、急な予定変更も、無茶苦茶な資料作りもなく、間もなく終業となる筈だった。

営業課の入口が静に開いた。

室内にいた誰もが目を向けた。

全員が目を向けるなど、あり得ないはずなのに。文字通り引き付けられた。

そこには、ダークスーツに膝上のタイトスカートに身を包み、凛と立つ女性がいた。髪はカラスの濡れ羽色で、腰の辺りまである。毛先をいくつも束にして、綺麗に縦に巻いている。気の強そうな大きな瞳は誰か探しているようで室内を見渡している。嫌味にならない程度に赤い、品のよい唇が動く。


「お忙しいところ、申し訳ありません。私、秘書課の神崎静流と申します。杉原早苗さんはいらっしゃいますか?」


早苗の後ろでガタンと音がし、何かが盛大に落ちる音がしたが、みんな気にしなかった。むしろ、突然の美女の登場に動揺し、一斉に早苗を指差した。

早苗は呆然としながら右手を挙げ、立ち上がる。


「私が、杉原です。ご用件は、何でしょうか?」


流れるような所作で美女が近付く。

目の前まで来ると、綺麗に礼をした。


「この度は私の愚夫が御迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。約束があったのに無理矢理連れ回したとか。更にお詫びの品を聞いたところ、酒とか・・・」


・・・あれ?何か寒い。冷房、効きすぎ?


「そのような愚の見本のような輩は、後日制裁を加えるとして・・・」


何やら物騒な言葉が聞こえるが、早苗は受け流した。


「こちら、お詫びの品です。」


手渡されたのは、最近できたベルギーに本店があるショコラ専門店の紙袋。持つだけで甘い臭いがする。

目を合わせて口を開こうとしたところ、


「なにも言わずに受け取ってください。」


そこではにかむように笑う。


「なかなか会えない彼との約束だったんでしょ?ほんとにごめんなさいね。」

「いえ、そんな・・・」


思わず恐縮してしまう。

だが、どうしても気がかりがある。


「・・・あの、大変無礼と思いますが、神崎さんの夫とは?」


笑顔が怖い!

冷気が強い‼


「そこの椅子にふんぞり返っている斎藤和成課長ですわ。」


って、結婚してたの⁉


営業課の心の声が駄々漏れになったのは仕方ない。

斎藤は、頭をガリガリ掻くと、歩いてきた。

静流の隣に立つと、咳払いする。


「紹介する。俺の妻で、秘書課の神崎静流だ。」

「夫がお世話になっております。」


一同が絶句したのは言うまでもない。

どうしても書きたい話のために出てきて頂きました。

恋愛要素、うっすいですね。

あれ?あれれ?

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