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酒と枠なしザルと男と女  作者: カサハリ職人
4/25

本日の営業は終了しました。

今回、怒られて、語ります。


飲むと語ったり、喜怒哀楽激しくなったりする人、いるよね。


合言葉は、「物凄くシワ寄ってる」

予想はしていたよ。予想は。

物凄く怒髪天なカオルちゃんが、真っ赤な髪を逆立てて、仁王立ちで待ってるなんて。


カオルちゃんの店について早々、早苗は落ち着かない様子で目を泳がせまくっていた。

店の前にはカオルちゃんが待っているのだ。


物凄い目付き。人、泣かせそう。

物凄い殺気。人、逃げて行きそう。


ただでさえデカくて(身長推定2メートル)、目付き悪くて(切れ長で眼光鋭い)、派手なのに(真っ赤な髪)、仁王立ちってさぁ。

「早苗ちゃん着いたよ。潔くいこうか。大丈夫。骨は拾ってあげるよ。」

にこやかに原田さん、密かに怒ってますよね。

開け放たれた扉から、地面を見据えたまま降りる。

カオルちゃんの前に立つ。顔を上げて謝ろうと口を開いた。

「あ?」

腕を引かれ、カオルちゃんの膝の上に俯せになる。

小気味いい音が3回。

「痛い!」

お尻を叩かれた。物凄くジンジンする。

涙目で見上げると、半泣きのカオルちゃん。

「こんのバカ娘‼心配かけて!アタシがどれだけ心配したと思ってるの⁉女の子がムサイ野郎をつぶすんじゃないわよ‼」

そう言うと、両手の拳を目の下に当てて、オイオイ泣き出した。


上背2メートルあろうが、真っ赤で逆立った短髪だろうが、切れ長で眼光鋭かろうが、マッチョな体つきだろうが、額から眉間を通って左頬に伸びる傷痕があろうが、もとアメリカ海軍特殊部隊出身だろうが、多少オネェ言葉だろうが、多少仕草がオカマっぽかろうが、心配かけて泣かせたのはとても申し訳ない。

思わず早苗の目が潤んだ。

「ごめんね、カオルちゃん。心配してくれてありがとう。」

泣き崩れる巨体に腕を回し、肩までしか届かない手で慰めるようにさする。

「はいはい。感動の再開、良かったね。取り敢えず奥の部屋に運んでおいたから、あとよろしく。」

夜に不釣り合いな爽やかな笑顔でお代を受け取ると、タクシーは去っていった。


仕事中の原田さん、動き早い。


手を引かれ立ち上がると、店の中に進んだ。

階段を上って、重厚な扉を開けると、薄暗い中に店仕舞いした店内が見える。


ショットバー、インダスドリーム。


カウンター席が8席に、テーブル席が4席のこじんまりとした店だ。カウンターの向こうには様々な銘柄の酒が所狭しと並べられている。どれもキチンとラベルが見えるように整頓されている。グラスも曇りひとつなく輝いている。

店の奥に従業員用の休憩スペースがあり、3人はそこに敷かれた布団に寝かされていた。

2人で顔を見合わせると、各々にタオルケットを掛けた。

脱いで放ってあるジャケットをハンガーにかけておく。

まぁ、風邪を引くことはあるまい。

入ってきたとき同様、2人は静かに部屋を出た。

「座んなさい。まだ飲み足りないでしょ?」

「うん。じゃ、ジントニック下さい。」

カオルちゃんは口の端を少しあげると、にこりと微笑んだ。



カウンター席に座り、ジントニックを飲みながら、ぼんやりする。


・・・あーあ。おわっちゃったな。


時計を見れば2時近い。

さすがに待っていないだろう。

隣の席に置いた鞄を見ると、スマホが点滅している。

開くと、


『本日の営業は終了しました。次の予定はメールで。おやすみなさい。』


だよねぃ。スミマセンデシタ。


「アタシの楽しみまた来月。グッショブ」

「なにワケわかんないこと言ってんの。これでも食べて落ち着きなさい。」

お皿におにぎりとお新香が出てきた。

それをもっしもっし、ぱりぱり食べながら、ちょっと鼻を啜る。


酒とツマミが合わない気がする。


がっと酒をあおると、大吟醸を1本注文する。

「今日はあの日だったのね。」

ぽそりと呟かれた言葉に、肩が反応する。

ぐっと唇を噛むと、がっと酒をあおる。

半分位飲んだところで止まる。

奥の部屋から前園が出てきた。ものスッゴいしかめっ面で、足元がいくらかふらついている。

「レストルームなら左手奥よ。」

片手を上げて合図をすると更にしかめっ面で歩いていった。




前園が戻る頃には、大吟醸はあと2杯あるかないか位になっていた。

早苗の口は完全にへの字で、よく見れば目はウルウルしている。

「別に死んじゃう訳じゃないんだし、また会えるわよ。大丈夫。アイツが忘れるわけないじゃない。」

「だってカオルちゃん、メール、営業時間のお知らせって、またのご利用って。」

「ただの意地悪よぅ。早苗にしか送らないじゃない。おやすみってあるじゃない。」

「・・・」

「ね?」

「マスター、悪いが水をくれないか?喉が。」

二人の話に前園が割り込む。

カオルちゃんの顔がちょっと分かりやすいぐらいホッとする。

前園がじっと早苗を見る。

早苗はぐっと眉間にシワを寄せると1合升をテーブルに置いた。

「別にみなさんのせいではないです。気にしないでください。」

「あー、今更だけど、本当は一人で飲みたかったんだろ?すまなかった。」

「だから、みなさんのせいではありませんってば。振り切れなくて、八つ当たりで潰したアタシのせいです。ごめんなさい。」

瓶に残った酒を注ぎ、一気に流し込む。

そのときカオルちゃんがお冷やを持ってきた。

前園も一気に飲む。

「あー。聞くつもりはなかったんだが、誰かと会うつもりだったんだろう?」

「・・・今、全力で落としにかかってる人です。すごく意地悪で、性格歪んでて、こっちの都合お構いなしで、さも当然て思ってて、自分の見せ方とか、使い方とか知ってて、ホントに何でアタシ、あんなのがいいのか、全くわかりませ」

話の途中で落ちたらしい。

机に突っ伏して寝てる。


・・・物凄く眉間にシワ寄ってる。口、への字。


思わずマジマジと見てしまう。

さっきまであんなに飲んでいたのに、何で?


「あー、やっと寝たわね。大丈夫、寝ただけだから。」


・・・寝ただけですか?


物凄く疑り深くなったのは仕方ない。



カオルちゃんが大好きです。

戦車みたいに薙ぎ倒してほしいです。

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