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酒と枠なしザルと男と女  作者: カサハリ職人
25/25

チェイサー~ありがとうと間に合うかと戦闘機と任務~

大変永らくお待たせいたしました。

大団円、これでおしまいでございます。


準備はよろしいですか?

え?楽しむための準備です。


ご託は並べず、さあさあ皆様。


カサハリ妄想劇場、始まり、始まり~☆

『こんなこと言うのはとんでもないことだってわかってる。でも後生だ。助けてほしい。』


ー俺の偽装の彼女になってー


『ちょっと、どう言うこと?何で他の女の人といるの?何でそんなに近いの?』

『・・・勘違いしてるみたいだけど、俺達、偽装だよ?』


ー待って!私はどうすればいいの?ー




伸ばした手もそのままに、菜々美ははっとする。

西日が差し込む窓の近くで、毛布をひっ掴んでぼんやりする。

ゆっくり夕日を見る。もう半分が沈んで、空は橙と紫、うすい青のきれいなコントラストを見せていた。


「いたっ!」


左の肋骨にくる痛みに顔をしかめる。下を見ると、張り出したお腹が一部少しだけ盛り上がっている。それがぐにょ~んと音が出そうなぐらい左から右に動いていく。そしてまた、どかっと肋骨に痛みが。


・・・今、ちょっと吐くかと思った。


「ベビさんは今日も元気ですね。」


タイミング的に、夢に対してのもう抗議かもしれない。


旧姓片瀬。現在谷川。妊娠38週。臨月真っ只中の一幕である。

菜々美は大きくなったお腹を擦りながらまたぼんやりと夕日を見た。夕日の天辺が丁度沈んでいく。とぷんと音が聞こえそうだ。

晩御飯は野菜たっぷり一人鍋と、ご飯に温かいタンポポ茶にしよう。






今日も馴染みの客が、一時の休息を求めて店にくる。


「いらっしゃいませ。」


馴染みの客は、目配せだけすると静かに座る。

ゴードン・ジン、ウォッカ、キナ・リレをシェイク。シャンパングラスに注ぎ、レモンの皮を入れる。コースターにのせ、音もなく差し出す。皿にオリーブを3粒。枝が付いていることが重要。

次の馴染みの客は、ビーフィーターにドライベルモットを入れてステアする。こちらもオリーブを添えて出す。オリーブは、枝付き1粒に枝なし2粒。

一口飲んで、表情が和らげば満足だ。


「いらっしゃいませ。」


次に来店したのは、社会人なりたてと思われる男性と、おとなしめな女性。何やらべらべら話しているが、女性の方は顔には出さないが、うんざりしている様子。


「ご注文は?」

「俺はジン・トニック。」

「私はブルームーンを。」


・・・賢明な判断ね。


注文の品をさっと差し出す。

男性には揚げ物。女性にはクレイジーソルトとライムを。


「ご用の際はお声掛けを。」


暗に女性に告げる。


「・・・よしなに。」

「何々?俺に解んない宇宙語、話さないでくれる?それよりさぁ。」


テンションの高い男性は、ジン・トニック、ウォッカ・トニック、バーボンと注文していく。女性は口数少なく、相づちをしたり、上手に酒をすすめたりする。口当たりがいいが、度数の強い酒により、男性は眠ってしまった。


「・・・タクシーをお願いします。」

「畏まりました。」

「・・・いつもはもっとかかるのに、助かったわ。」

「当店では標準的な配合で提供させていただいておりますが、何かございましたでしょうか?」


女性は小さく笑うと残りのブルームーンを飲む。

程無くしてタクシーが来た。2人は運転手の手を借りて店を後にする。

馴染みの客や、新たな客。何人もの客が行き来し、落ち着いた頃、時計は閉店時間に迫っていた。


「いらっしゃいませ。」

「こんばんは、マスター。私はシェリーで。」

「こんばんは、マスター。私はカルヴァドスをお願いしますぅ。」

またしても閉店ギリギリに来て、ぐったぐたに酔っ払った静流と最近見かけるようになった、小さなポニーテールの女性、中川琴音が入ってくるなり注文する。


「お客さま、本日はまた、大分酔っていらっしゃるようで。」

「酒は飲んでも飲まれマセーン。」

「酒は百薬之長ですぅ。水より無害ですぅ。」


・・・なんだその屁理屈。


「・・・いか程飲まれましたか?」

「んー、数えてなーい。」

「・・・静流さんはカクテル5杯にワイン1杯ですぅ。私はカクテル2杯ですぅ?」


・・・2人とも、限界超えてるわよ?


こめかみをグリグリこねると、カウンターに座った2人に味噌汁を出す。本日は芋煮だ。


「あんた達!これ食べたら帰りなさい!もぅ!」

「えー、やだぁ。」

「まだ飲み足りませんよぅ?」

「お黙りなさい!全く。」


例によって例のごとく。保護者には連絡済みだ。


「あー、美味しい。」

「体、暖まりますぅ?」


酔っぱらいは放っておいて、後片付けを済ませる。closedに替えて店内に入ると、静流のスマホが鳴る。


「はいはーい。・・・わかった。今何分おき?・・・うん。直ぐに向かうね?大丈夫。産院には連絡した?」


静流が目配せしてきた。

丁度その時、目当ての人物が到着した。


「済まない、マスター。今から回収していく。」

「こちらも連絡ありがとうございます。?マスター?」


来たのは斎藤と前園だ。様子が違うカオルを見て、店内を覗く。


「和成、菜々美ちゃん、陣痛来たって。今10分間隔。産院に向かうって。車出せる?」

「問題ない。チェックは」

「つけておくわよ。前園も。アタシ、用があるから閉めるわ。」


皆が一斉に動き、散っていく。

カオルはスマホを取り出すとコールする。程無くして出たそれにいくつかやり取りすると、店の裏手からハーレーダビッドソン・ソフテイル・クラシックを引っ張り出し跨がる。


・・・間に合ってくれよ?


夜の闇の中をフルスロットルで走っていく。






その頃、静流達は菜々美のアパートに着いていた。

そこには陣痛で痛みに耐える菜々美がいた。


「菜々美ちゃん、大丈夫?」

「静流さん。ごめんね。こんな時間に。」

「気にしないで。谷川に頼まれてるし、私がやりたくてやってるんだから。ここまで来たら最後まで付き合わないと気が済まないじゃない?」


お茶目にウィンクすると、菜々美は困ったように笑った。


「荷物はこれか?行けるか?」


菜々美は頷くと立ち上がる。斎藤がドアを開ける。静流が菜々美の手を取り促す。


・・・覚悟はできてる。準備も出来てる。


靴を履いて玄関を出た。


産院まで車で30分ぐらいかかる。

揺られること25分。その間に何度か陣痛が来て、深呼吸でやり過ごす。その度に静流が背中を撫でてくれる。

パチンと音がしたような気がした。

股の間から何か水のようなものが出てきた。


「・・・破水したみたい。」

「ん。じゃあもうすぐ赤ちゃんに会えるね。パッドは付けてるし、バスタオルに座蒲団も敷いてあるから大丈夫。」

「もう少しで産院だから、安心しろ。直ぐだ。」


角を曲がり、直ぐに通いなれた産院が見えた。玄関に車をつけると、菜々美と静流は降りて、インターホンを鳴らす。

直ぐに出た当直者に名前を伝えると、自動ドアが開く。2階まで階段を昇り、ナースステーションの助産師に会う頃には、陣痛は1分おきを切っていた。更に強くなってきたようで、くる度に立ち止まりやり過ごした。

LDRへ続く入り口で静流ほ菜々美を見送る。


「大丈夫!頑張って‼」


苦しそうだが笑顔を向ける菜々美は、助産師に連れられて自動ドアの向こうに歩いていった。

居なくなったそこを、静流は唇を噛んで見ていた。


「大丈夫、間に合うさ。」


いつの間にか来ていた斎藤が静流を抱き締める。






「気絶するんじゃないわよ⁉」

「当たり前だ!」


F-22(戦闘機)が太平洋上空を突っ切っていく。

ミサイル等の装備品を取っ払い、機体の制空性のみに重きをおいたそれは、地上から4万フィートをマッハ3ぐらいでかっ飛んでいく。1人乗りを無理矢理2人乗りにしているから、後ろに乗った者はむき出しの機器に座蒲団のせただけの所に座っている。シートベルト?計器の手すりみたいに出っ張ったところにワイヤー巻いて体にくくりつけて固定してますが?何か?である。

酸素マスクは予備。パラシュートはスーツの上から。使い方は『このヒモ、引けばいいから。』だそうだ。

気絶?する暇がない。

今は愛する妻と子のことだ。2人が無事であること。それを思えば気が気ではない。


「菜々。」


呟きは騒音に巻かれたはずなのに、操縦席まで聞こえたらしい。


口許に笑みが浮かぶ。


「間もなく日本上空。着陸に入るわよ。しっかり掴まってなさい!」






静流は廊下の長椅子で両手を合わせて座っていた。

さっきから絶え間なく叫び声がする。

助産師が一人増えて入っていったから、間もなくなのだろう。


頑張って。大丈夫。もうすぐ。


ずっと唇を噛んでいるので、何度も斎藤に注意される。


間に合って!


ギュット目を閉じて、両手でつくった拳を額にこする。


「斎藤課長!神崎さん!」


呼ばれた声に、弾かれたように顔をあげる。

ホッとするより先に、斎藤と静流は中を指差す。


「早く行ってあげて!」


流れる汗も拭かずに、谷川は一礼すると自動ドアの向こうに走っていく。


・・・間に合った!


ほっとしたらくらりとした。

慌てて斎藤が支える。


「・・・良かった。」


斎藤の腕に囲まれて安心する。

優しく髪を撫でられ、ぎゅっと力をこめて抱きつく。


「間に合ったみたいでよかったわん?」


迷彩柄のつなぎ服を着たカオルが髪を撫で付けながら歩いてきた。


「カオルちゃ~ん。頑張った~!」

「んもぅ、あんた何なの⁉3人の子持ちが鼻水垂らして情けない。」

「こも、子持ちで、も、泣いちゃう、ん、だ、もん。」

「ああもう、きったないわねぇ。はい、ちーん。」


カオルの出したハンカチに遠慮なく鼻水をかむ。

後で洗って返すと伝えたら、困ったように笑われた。


「次に会えるの、いつになるか分からないから、それまで持っていて?いいわね?」


片目を閉じて、口許にひとさし指を立てる。

アメリカ東海岸まで往復を、戦闘機を使い、民間人を乗せて、私的な用事で行う。

この代償はおそらく任務だろう。

話からして、危険な。おそらく命懸けの。

ぐっと唇を噛む。

いい笑顔を向ける。


「絶対渡したいから。絶対ね。」


LDRの方が騒がしくなる。

ばたばたと助産師が出てきた。

その腕には、生まれたばかりの赤ちゃん。まだ目も開けず、胎脂が付いている。


「おめでとうございます。元気な女の子です。」


感動で言葉が出ない。

ただ、ただ、笑顔で見つめてしまう。


「ご両親のたっての願いで連れてきましたが、まだ処置がありますので、失礼します。」


助産師はにこにこと自動ドアの向こうに行ってしまった。

3人は感動の余韻で突っ立っている。

早くも立ち直ったカオルは、咳払いをする。


「じゃあ、アタシ、行くわね?3人にヨロシク。後で出産祝い、贈るから。」


あー、汗臭い。なんて言いながらカオルは帰っていった。


「俺達も帰るか。」

「そうね。産婦さん、疲れて休みたいだろうし。」


2人は笑顔で立ち上がると産院を後にした。






「・・・菜々?」

「うん?」


出産を終え、ベッドに横たわる妻を見る。

顔は青ざめてぐったりしているが、目は温かくその手に抱いた小さな命を見ている。

産着を着せてもらい、小さな帽子をかぶり、小さな寝息をたてている我が子が愛おしい。


この手に抱いた奇跡。


谷川の腹の奥に、言い様のない、何か突き動かされるような不思議な感覚がわいてきた。


・・・ああ、これが守るものができるってことか。


「ありがとう。愛してる。」


2人をやさしく抱き締める。


「ん。来てくれてありがとう。愛してる。」


やさしく見つめ合い、頬笑む。

そこには穏やかな時間が流れていた。






後日談。


3カ月が経ってインダスドリームにマスターが帰ってきた。

いくらかやつれて精悍さが増したようだ。

左の目の下に斜めにはしる傷あと。

目がやや猛禽類のそれに似ているが、仕事が始まればなんとかなるだろう。多分。


「あー、答えられないならそれでいいが、対価は何だったんだ?」

「んー?要人救出が3件。1つはモンゴルの奥地で、1つは中東で、最後がアフリカ?」

「・・・は?」

「1人で3ヵ所って酷いわよねぇ?おもわず司令官に吹っ掛けちゃったわよ。」

「・・・本当の話?」

「本当か嘘かも、信じるも信じないも、あなた次第☆

なんちゃって。」

「・・・・・・」


眼鏡を直すと、バーボンを流し込む。


・・・冗談であると、願いたい。


『本日もインダスドリームは通常通り営業しております。

休日は基本的に水曜日ですが、急に休みとなることがございますので、皆様、ご了承下さい。』


今日も静かに夜が更けていく。


チェイサーとは、強い度数のお酒を飲むとき、そのままでは胃を痛める可能性が高いとか、アルコールの吸収を穏やかにするためとかで飲む、ノンアルコールの飲み物です。水とか、アセロラジュースとか。


作中に出てきたカクテルは、ヴェスパー・マティーニと、エクストラドライ・マティーニです。


・・・こんなに強い酒は飲めません。


ちょいちょいお待たせすることがございまして、皆様をヤキモキさせてしまい、申し訳ありませんでした。

最後までお付きあいいただき、読んで下さったおかげで、無事完結することができました。


感謝意外ありません。


ありがとうございました。


これにて、めでたし、めでたし。


ではまた、次の作品でお会いしましょう。



カサハリ職人より。




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